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ここは「花待館」の別館となっています。非公式で「うみねこのなく頃に」「テイルズオブエクシリア」「ファイナルファンタジー(13・零式)」「刀剣乱舞」の二次創作SSを掲載しています。
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こんばんは。またリア充シリーズです。
今回はちょっと長め。もし途中で文章が切れて読めないなどありましたらご指摘ください。前後編に直します。
では、どうぞ。

両手一杯の花束よりも


拍手[2回]


「マキナ。赤いバラを大量に女性に贈りつけることはどれぐらい人目を気にしなくていいんだ」
マキナの目の前には金髪を後ろに撫でつけた真面目な面持ちの男。
魔導院のみならず朱雀にその存在を知らしめた幻のリア充カップルの片割れことキングである。
あまり実年齢相応に見られない強面でそんなことを聞いてくるものだから、マキナにはこんな事しか言えなかった。
「え、俺やったことない」

両手一杯の花束よりも

やったことない、と言ったときのキングの形相はとても言葉では言い表せなかった。
この世の終わりを迎えたかのような表情をしたかと思えば、キリッと引き締め、難しい顔をして唸る。
「き、キング……まさか、やったのか?」
恐る恐る尋ねると、キングがああ、と呻いた。思いきったな、とぼんやり思っていると、横から柔らかい声が聞こえた。
「マキナ、裏庭でレムが呼んでる」
銀髪のウルフカットの女子候補生。
キングの恋人にして件のリア充候補生の片割れことセブンだ。
「レムが?」
聞き返せば、うん、と彼女は頷いた。
「ついでに伝言。お嫁さんにしてくれるんだよね?だそうだ」
セブンの声に愛しの幼なじみの声がどことなく思い出されて、マキナは彼女に会うべく駆けだした。
「い、行ってくる!」

「で、お前ら本当自重しろよ」
不機嫌さも露わに苦情を申し立てるサイスにキングは何故だと聞き返した。
「院生局の標語がいつまで経っても代わらねえだろ」
「それは私たちだけのせいじゃないだろ」
拗ねるセブンに、少しだけサイスの頬が紅くなる。が、すぐに気を取り直したらしく、苛立たしげに叫んだ。
「チラシが今週も撒かれてんだよ!自重しろよセブンを傷物にしてくれてんじゃねえよ!」
「チラシ?」
首を傾げたセブンに、またサイスの頬が紅くなる。そうして先週のトレイよろしく憤然と突き出されたチラシには、やっぱり寮の前で抱き合うキングとセブンの姿が写し出されていた。
「べ、別にあたしもセブンに抱きつきたいとか思ってるわけじゃないからな!このリア充刈ってやりてぇとか思ってるんだからな!」
そのセリフにキングの眉間がぎゅっと寄る。
「こら、サイス。そんなことしたら隊長に怒られるぞ」
セブンがやんわりと諫めるが、どうやら火に油だったらしい。
きりきり眉を吊り上げて、サイスは大鎌まで出してキングに喧嘩を売り出した。
「セブンもセブンだ!まだチラシ撒かれてんだよ!抱きつきたきゃあたしがいるだろ!なんでキングなんだよ!まだ隊長のが大分マシだよ!」
「だが、サイス」
セブンが困ったような表情をした。キングにだって解る。サイスはセブンのことが好きなのだ。いわゆるシスコンというやつである。昔から一人が良いとか言いながら、セブンが誰かと一緒にいると膨れっ面になる。
それはキングがセブンの恋人になった後も全く変わらず、そのたびにセブンは困り顔でこう言うのだ。
「私とキングは付き合ってるんだ、2人きりの時くらい許してくれないか?」
「セブン……」
サイスの表情が泣きそうに歪む。ぎゅっとセブンを抱きしめると、彼女の腕が腰に回った。
「それに、決めたんだ。アギトになるまで自重しないって」
その声色は力強い決意に満ちていて、キングの心は愛しさで溢れかえる。
衝動のままにセブンを抱きしめていた彼が我に返ったのは、サイスがありったけの罵詈雑言をキングに投げつけて裏庭に走り去ってから大分後だった。

「ところで、どうして花束なんか贈ったんだ?」
昼休み、キングはマキナにそう尋ねられた。いつも一緒にリア充しているセブンはサイスに引っ張られるように教室を出て行った。
思うところがないわけではないが、いつも一緒だからたまには妹たちと過ごす時間があっても良いだろう。そう考えながらキングは口を開く。
「セブンに服を買った」
先週の話だ。冷やかされつつ、フリルのワンピースをセブンに買った。
それを彼女は次の日、キングの部屋に来るときに着ていた。
見立て通りとても似合っていて、愛しさが募ってそのままコルシに直行し、しこたまバラの花束を買い込んでプレゼントした、というわけだ。
が、周囲が煩すぎた。
依頼でコルシに出向いていたサイスからはどもりながらもセブンに対する讃辞と、キングに対して「月夜ばかりと思うなよ」という非常にドスの利いた文句を受け取り、エイトからは無言の抗議を受けた。ちなみにトレイは半ベソをかいて説教してきた。周りの朱雀兵たちも生暖かい目で2人を見ていて、自重しないと決めたはいいが居心地悪いことこの上なかった。
「……そういうわけだ」
「行動力あるな」
「どうという事はない」
きっぱり言い切ると、マキナは羨ましいと呟いた。
「セブンの笑顔が見られるならば、バラなど安いものだ」
「だけどキング、その後のバラはどうするんだ?花瓶もそんなにないだろう?」
「それは後でセブンに言われた。……まぁ、萎れるのも何だしバラ風呂にしたがな」
「い……一緒に入ったのか?」
「まあな」
本当行動力あるな、と再びマキナが呟く。
「でも俺だったら、きっとレムに指輪を贈るかな」
指輪、とキングは小さく呟く。
「指輪なら形に残るし、俺とレムが恋人だった、って証になるし……忘れられるのは嫌だけどな」
照れながら笑うマキナの表情が、妙に気にかかった。
(俺でもああいう表情になるのか……?)
いや、それよりも。
(セブンは、指輪のほうが良かったのか……?)

その日の放課後のことである。
魔導院の廊下をセブンは珍しく一人で歩いていた。断りきれずにいつも依頼を受けてしまう彼女は頼みやすいと思われているのか、それとも押しつけやすいと思われているのか、やたら依頼をされる。
放課後であったり、昼休みであったりすると、頻度は数倍に跳ね上がる。
が、本日は何故かセブンは一人であった。
(まぁ、視線は感じるけど)
それも生暖かい視線を。
いつもキングと一緒にいると、決まってそういう視線を向けられる。俗に言うリア充爆発しろ、というやつなのだろうが、魔導院にはリア充など珍しくもない。
そんなことを考えていると、後ろからぽんと肩を叩かれた。
「ん?」
振り向けば、バンダナが目に付いた。
「ナギ」
「よぉ。あれ、お前さん1人か?」
「ああ。みんな今日は任務や依頼だ」
そう言えばナギはへぇ、と目を細める。
「いつも石鹸の匂いのお前さんがバラの匂いだって噂だぜ?とうとうか、ってな」
「とうとう?何がだ?」
によによとからかうような表情からなんとなくナギのいわんとすることは理解できたが、あえてそう返してやる。
「またまたぁ。……で、どうだった」
「風呂の掃除が大変だった。あとバラの処理も」
そうだよなぁ、とナギは頷いた。
「で、不健全な方の感想は?」
「花びらが肌にくっついて鬱陶しいのをキングが目を背けてた」
「何もなかったのか」
期待外れだとため息をつく目の前の男に、ある訳ないだろと返してやる。
「ただでさえ0組のやつらがうるさいんだ。自重しろって」
してないけど、と言えばナギはにやりと妖しく笑った。
「お前さん、今日はキングの部屋に帰れ。お兄さんが自重できなくしてやるから」
「……」
ほら、と包みを渡される。何をだ、と聞くことはセブンには出来なかった。

その晩、キングが自分の部屋に戻ると、ベッドの上でセブンがうずくまっていた。
「あ、お、おかえり」
「ああ。……どうした、セブン」
彼女はふるふる首を横に振って、何でもないと言った。
「何でもないなら夕飯にするぞ。……その前に」
そう言ってキングはシーツの中からセブンの手を取ると、ポケットに忍ばせていたものをその細い指に通した。
「キング、これ……」
セブンの左の薬指に収まったそれは、ダイヤの指輪というものである。マキナから話を聞いて、キングが探し求めたものだった。
「俺は、……お前と恋仲だったことを、忘れたくない。お前にも忘れて欲しくない」
仕方ないと頭で解っていても、心は違う。
「バラ風呂は思い出になるが、あとには残らない。それに、セブンはこちらの方が好きそうな気がした……だから」
そうか、とセブンが頷いた。
とても嬉しそうに。
幸せそうに。
「ありがとう」
それは両手に抱えるほどの花束よりずっと綺麗で素直な微笑みだった。
だから、キングは彼女の耳元で囁いた。
「セブン」
「うん」
「結婚するぞ」
異存はないなと問いかければ、ないよと幸せそうな返事が返ってきた。
それに気をよくしたキングがシーツを剥いで、ベビードール姿のセブンに固まる数秒前の話だった。
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