ここは「花待館」の別館となっています。非公式で「うみねこのなく頃に」「テイルズオブエクシリア」「ファイナルファンタジー(13・零式)」「刀剣乱舞」の二次創作SSを掲載しています。
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お久しぶりです。
TOX2発表とTOXミラ編クリアでジュミラに萌えたので書きました。
ED後捏造、プロポーズ話です。
本当はもっとアレな話にしたかったのですが、ジュード君が割とまともになりました。
では、どうぞ。
実葛の先
TOX2発表とTOXミラ編クリアでジュミラに萌えたので書きました。
ED後捏造、プロポーズ話です。
本当はもっとアレな話にしたかったのですが、ジュード君が割とまともになりました。
では、どうぞ。
実葛の先
「君は私と一緒にいたいのか」
彼女の柔らかな声が今もまだ耳の奥に残っている。
彼女がくれた沢山の言葉を何度も何度も反芻する。
その度に胸の奥が痛むのだ。
言えなかった気持ちを伝えたくてたまらなくなるから。
「そうだよ、ミラ……僕は、ミラを愛してるんだ」
実葛の先
ある昼下がり、イル・ファンの酒場に飲んだくれの学者の姿があった。
「ミラに逢いたい……」
飲んだくれの学者ことジュードはイチゴジュースのカップをつつきながらぼやく。
「私だってミラに会いたいです」
バレンジジュースを飲みながらエリーゼが呟く。
「でも、ミラだって寂しいのを我慢してるんですから」
「もうミラの分の食器とかタオルとか用意したんだ」
だからミラにプロポーズするつもりだよと言えば、エリーゼは首を傾げた。
「本気で精霊界に行くつもりですか?世精ノ途は無くなっちゃったんですよ?」
「でも、ミラと結婚する準備は整ってるんだ。それに少しずつ研究も進んでるし」
エリーゼがそうみたいですけどと呟く。
あの日、ミラと離れたときに志した研究は、少しずつではあるが実を結んでいる。
大精霊を召喚できるかと言えば、それはまだ副作用が伴うものだし、まだ完成したとはいえないのだが、微精霊ならば成功率が着実に上がっているのだ。
けれどもジュードはミラと逢えない今の生活が辛かった。
「一度、ミラを召喚しようとしたんだ。でも、ミラは来てくれなかった」
一瞬ミラの気配がしたものの、彼女の姿は見えなかった。
自分が源霊匣の研究を続けている限り、ミラはずっと見ていてくれる。ミラに変わってゆく世界を、胸を張って見せられる。
そうは思ってみても、やはり寂しいことに変わりはない。
そしてその寂しさを抱えたジュードの生活も、限界だった。
「ミラに会いたい……」
酔ってもいないのにコップの水滴をつつくジュードに、エリーゼがため息をついた。
「方法があるんなら、管を巻いてないで会いに行った方がいいような気がしてきました」
「うん、僕もそう思う」
「私も行きたいですけど、きちんと学校に行くってティポと約束しましたから」
「うん、僕はミラにプロポーズしに行くんだからね」
「ミラを困らせちゃ駄目ですよ……」
もう一度、心底呆れたようにエリーゼがため息を吐いた。
ジュードがニ・アケリア霊山に出向いたのはその翌日のことであった。
世精ノ途が無くなってしまったため、精霊界への入り口は見当たらない。
しかしジュードは愛する人がそうであったように、前を向いて背筋を伸ばして大地を踏みしめた。
再び逢えるという確信があったから。
「ミラ……もうすぐ逢えるよ」
胸元の硝子玉に優しく口付けて、ジュードはかつて黎明王から授かったナイフを振るった。
力の主の下から長い間離れていたためか、世精ノ途がなくなったためか授かった当時とは比べものにならないほどの小さな隙間に無理矢理身体をねじ込んで侵入する。
前後も上下左右も検討がつかない暗闇を、勘だけを頼りに走り出した。
暗闇を抜けると、そこは一面の草原だった。青空が眩しい。
「イル・ファンで式を挙げようかと思ったけど、ここもいいなぁ……」
そんなことを呟きながら愛しい人の姿を探して歩き回る。
「ミラ……どこにいるの?」
ジュードの頭を占めるのは、ミラに逢いたいという願いだけだった。
「君に逢えるって、僕は信じてるから」
しばらく歩いていると、数多の精霊たちが集う場所に出た。
「精霊が、沢山……」
呆然としていると、突然後ろから肩を叩かれた。
「こんなところで何をしているのです?ジュード」
何度も聴いたことがある柔らかな声。ミュゼだ。ミラは、と問うとミュゼは首を傾げる。
「ミラは微精霊たちの面倒を見てるわ。ところで何の用なんです?」
「ミラを迎えに来たんだ」
「ミラを、迎えに?」
「うん。プロポーズ、しようと思って」
冗談でしょう、と目の前の大精霊は呆気にとられて呟いた。
「ただの人間であるあなたが精霊の主たるマクスウェルを娶ろうというの?」
「ミラ以外と結婚なんて僕には有り得ない。あとミラが僕以外と結婚するのも僕認めないから」
ミュゼの顔が険しくなる。
「小姑よろしく私や四大にいびられても?」
「ミラがいるならなんの問題もないね!」
ふう、とミュゼがため息をついた。
「仕方ないわね。……ミラも、きっと会いたいと思ってるのではないかしら」
「ミュゼ?」
「あなたがやろうとしていることは、ミラにとっては辛いことよ。……だってあなたがその命を終えても、ミラは魂の洗浄をするしかできないのだもの。でも、ミラはそれを承知であなたを愛したんだわ」
ミュゼがすい、とジュードを追い抜いて飛んでゆく。
「ミラが愛して、信頼したあなただから、私は妹を託します。……ミラを泣かせたらイベントホライズンですからね」
不穏な言葉は聞かなかったことにした。
ミュゼの案内に付いていくと、そこには青々と葉を茂らせる一本の大樹が聳え立っていた。
そして、その傍にはふわふわと波打つ金髪の女性が佇んでいる。
何度も逢いたいと願った姿。何度も抱きしめたいと願った、世界を守る約束を交わした彼女が、そこにいる。
そう感じた瞬間、彼女の下へと走り出していた。
「ミラ!」
名前を呼んで、華奢で柔らかなその身体を抱きすくめる。あの日約束を交わした時と、寸分変わらない細い肩がびくりと震えた。ミラがぎこちなく顔をこちらに向ける。
「……ジュード……?」
「ミラ……!」
「ジュード……っ!」
触れたかった温もりが、聞きたかった声が、ジュードの心を満たしてゆく。あの頃傍で見ていた彼女からは想像もつかないような弱弱しい力で縋り付く身体をきつく抱きしめて、ただ一言、逢いたかった、と声を絞り出した。
「ずっと、逢いたかったよ、ミラ……だから、迎えに来た」
ミラは俯いたまま、何かを押し殺すように言葉を紡いだ。
「……君が、私を何度も召喚しようとしていたことは……知っていたよ」
だから一回だけ応えようとした、と彼女は言った。
「ミラ……」
「しかし、……召喚に応えてしまえば、私はきっと……君から離れられなくなる。だから、できなかった」
「……」
「世界よりも一人の人間を選ぶなど、マクスウェルのすることではない。先代ならば選ばなかった道だろう」
「ミラ」
あの日、格好悪い生き方を見せられないから離れたのにと彼女は声を絞り出す。どうして来てしまったのだと涙の混じる声がジュードを責める。
「私だって、ずっと逢いたかった……ジュード、君との約束を……果たしたかった」
「ミラ……僕だって、ミラがそう考えるかもしれないって思ってた。でも、どうしてもミラと一緒にいたかった……ミラと、この先の未来を歩いていきたかった」
潤んだ紅の瞳がジュードを見つめる。
迷子になった幼子のような、道を探すような瞳を見つめ返す。
「ミラを、ずっと愛しているから。どちらかを選ばなきゃいけなくても、僕は世界もミラも両方選ぶよ」
「ジュード……」
「ミラが道に迷っても、ずっと僕が付いている。顕現できないのなら、僕のマナをあげる。たとえ僕が死んだとしても、魂の洗浄を受けたとしても、必ず君を迎えに行く。だから……」
言葉を切り、ミラを解放する。ポケットに手を入れて、ベルベットの小箱を取り出した。蓋を開けるとミラが目を見開く。
「僕と、結婚してください」
「……」
呆けたように立ち尽くす彼女に、言葉を重ねる。
「精霊界への道なら、僕が作るよ。ミラがちゃんと使命を果たせるように、先代マクスウェルがくれた猶予を引き延ばせるように、僕も力を尽くすよ。だから、僕も選んでくれるなら、この指輪を受け取って」
ミラの白い頬を、涙の珠が転がり落ちた。グローブも手甲も取り払った震える指が、ゆっくりと指輪を台座から外し、左手の薬指に通す。
「精霊の主が、ただ一人の人間を愛する……そんなことが本当に許されるのであれば、私は……私は、ジュード……君と共にありたい」
涙に濡れた瞳がジュードを見つめる。彼女の瞳に自分だけが映っている幸せを噛みしめて、ジュードはミラを再び抱きしめた。
「ありがとう、ミラ……!ずっと、生まれ変わってもミラを愛してる……!」
「私も、ずっと……愛しているよ」
もう離さないと腕に力を込める。ミラの髪を風が揺らす。
「……二人とも、公衆の面前でプロポーズはまずかったのではないかしら」
不意に横から掛けられた声に二人はびくりと体を震わせた。
「ミュゼ!?え、公衆の面前って」
「言ったでしょう?ミラは微精霊の面倒を見ているって」
ミュゼは至極穏やかに微笑んで、何とも言えない表情でこちらを見つめる精霊たちを見やった。
「ミラ」
「ミュゼ、これは……」
頬を赤く染めてあわてるミラに、ミュゼは穏やかな微笑みを向ける。
「あの時、共に生きようと言ってくれて嬉しかったわ。何もかもを無くして、進むべき道すらなかった私を導いてくれた。……本当に、あなたがいてくれて……よかった」
「ミュゼ……」
「でもね、ジュードは私や四大にいびられても、ミラと一緒にいたいんですって」
ミュゼの微笑みがわずかに陰りを帯びた。私としては寂しいけれど、と彼女は続ける。
「どんなことがあっても世界を最優先させてきたあなたたちは、祝福を受ける資格があると思うの。……だから、ミラ。あなたが人間界で活動するために必要な身体、こっそりあなたの社に運んでおいたわ」
「ミュゼ……」
大精霊は妹の頬に手のひらを優しく滑らせ、こつんと額をぶつけた。
「忘れないでね。辛いときはいつでも戻ってきていいのよ。みんな、待っているから……辛くなくても、たまには帰ってきてね」
ミラが再び目を潤ませる。
「ありがとう……ミュゼ」
「私のほうこそ。……あなたが妹で、本当に良かった。幸せになってね」
ミュゼの優しい声色がそう紡ぐ。
「ミュゼ。認めてくれて……ありがとう。ミラをきっと幸せにするから」
ジュードのその言葉に、大精霊は泣かせたらイベントホライズンですからと微笑んだ。
「さあ、ミラ。分体を置いて早く行ったほうがいいわ。四大は私が説得しておくから」
かつての世精ノ途を抜けると、目の前にはニ・アケリア参道が広がっていた。人間として顕現することができたらしいミラがあたりをきょろきょろと見回す。
「ここは……戻って、きたのか……」
「うん。戻ってきたんだよ」
ミラの左手の薬指にはまっている指輪を確認して、ジュードは彼女を抱きしめた。
「ミラ……夢じゃ、ないよね」
「ああ……夢ではない」
鼻と鼻がくっつきそうな距離で囁きあう。
「ずっと、一緒にいられるんだよね」
「ああ。ずっと一緒だ」
「何度生まれ変わっても、ミラを迎えに行くからね。今日みたいに、指輪を持って」
「何度魂の洗浄をすることになっても、何度君の死を見届けることになっても、待っていよう」
「もう離さないよ……ミラと一緒にいたいと思ったこと、結婚したいと思ったこと、全部本当の事だから。離れてから昨日までだって、ミラを愛したこと、後悔してない」
ミラが表情を緩ませる。
「私もだ。マクスウェルとして生きる選択をした時も、死ぬ選択をした時も……君を愛したことを後悔したときなどなかった」
その笑顔が嬉しくて、ジュードはそのままミラの唇に己のそれを近づける。
「ミラ……ずっと、愛してる」
「私も、愛しているよ」
降り注ぐ木漏れ日の中、交わした口づけはしあわせの味がした。
彼女の柔らかな声が今もまだ耳の奥に残っている。
彼女がくれた沢山の言葉を何度も何度も反芻する。
その度に胸の奥が痛むのだ。
言えなかった気持ちを伝えたくてたまらなくなるから。
「そうだよ、ミラ……僕は、ミラを愛してるんだ」
実葛の先
ある昼下がり、イル・ファンの酒場に飲んだくれの学者の姿があった。
「ミラに逢いたい……」
飲んだくれの学者ことジュードはイチゴジュースのカップをつつきながらぼやく。
「私だってミラに会いたいです」
バレンジジュースを飲みながらエリーゼが呟く。
「でも、ミラだって寂しいのを我慢してるんですから」
「もうミラの分の食器とかタオルとか用意したんだ」
だからミラにプロポーズするつもりだよと言えば、エリーゼは首を傾げた。
「本気で精霊界に行くつもりですか?世精ノ途は無くなっちゃったんですよ?」
「でも、ミラと結婚する準備は整ってるんだ。それに少しずつ研究も進んでるし」
エリーゼがそうみたいですけどと呟く。
あの日、ミラと離れたときに志した研究は、少しずつではあるが実を結んでいる。
大精霊を召喚できるかと言えば、それはまだ副作用が伴うものだし、まだ完成したとはいえないのだが、微精霊ならば成功率が着実に上がっているのだ。
けれどもジュードはミラと逢えない今の生活が辛かった。
「一度、ミラを召喚しようとしたんだ。でも、ミラは来てくれなかった」
一瞬ミラの気配がしたものの、彼女の姿は見えなかった。
自分が源霊匣の研究を続けている限り、ミラはずっと見ていてくれる。ミラに変わってゆく世界を、胸を張って見せられる。
そうは思ってみても、やはり寂しいことに変わりはない。
そしてその寂しさを抱えたジュードの生活も、限界だった。
「ミラに会いたい……」
酔ってもいないのにコップの水滴をつつくジュードに、エリーゼがため息をついた。
「方法があるんなら、管を巻いてないで会いに行った方がいいような気がしてきました」
「うん、僕もそう思う」
「私も行きたいですけど、きちんと学校に行くってティポと約束しましたから」
「うん、僕はミラにプロポーズしに行くんだからね」
「ミラを困らせちゃ駄目ですよ……」
もう一度、心底呆れたようにエリーゼがため息を吐いた。
ジュードがニ・アケリア霊山に出向いたのはその翌日のことであった。
世精ノ途が無くなってしまったため、精霊界への入り口は見当たらない。
しかしジュードは愛する人がそうであったように、前を向いて背筋を伸ばして大地を踏みしめた。
再び逢えるという確信があったから。
「ミラ……もうすぐ逢えるよ」
胸元の硝子玉に優しく口付けて、ジュードはかつて黎明王から授かったナイフを振るった。
力の主の下から長い間離れていたためか、世精ノ途がなくなったためか授かった当時とは比べものにならないほどの小さな隙間に無理矢理身体をねじ込んで侵入する。
前後も上下左右も検討がつかない暗闇を、勘だけを頼りに走り出した。
暗闇を抜けると、そこは一面の草原だった。青空が眩しい。
「イル・ファンで式を挙げようかと思ったけど、ここもいいなぁ……」
そんなことを呟きながら愛しい人の姿を探して歩き回る。
「ミラ……どこにいるの?」
ジュードの頭を占めるのは、ミラに逢いたいという願いだけだった。
「君に逢えるって、僕は信じてるから」
しばらく歩いていると、数多の精霊たちが集う場所に出た。
「精霊が、沢山……」
呆然としていると、突然後ろから肩を叩かれた。
「こんなところで何をしているのです?ジュード」
何度も聴いたことがある柔らかな声。ミュゼだ。ミラは、と問うとミュゼは首を傾げる。
「ミラは微精霊たちの面倒を見てるわ。ところで何の用なんです?」
「ミラを迎えに来たんだ」
「ミラを、迎えに?」
「うん。プロポーズ、しようと思って」
冗談でしょう、と目の前の大精霊は呆気にとられて呟いた。
「ただの人間であるあなたが精霊の主たるマクスウェルを娶ろうというの?」
「ミラ以外と結婚なんて僕には有り得ない。あとミラが僕以外と結婚するのも僕認めないから」
ミュゼの顔が険しくなる。
「小姑よろしく私や四大にいびられても?」
「ミラがいるならなんの問題もないね!」
ふう、とミュゼがため息をついた。
「仕方ないわね。……ミラも、きっと会いたいと思ってるのではないかしら」
「ミュゼ?」
「あなたがやろうとしていることは、ミラにとっては辛いことよ。……だってあなたがその命を終えても、ミラは魂の洗浄をするしかできないのだもの。でも、ミラはそれを承知であなたを愛したんだわ」
ミュゼがすい、とジュードを追い抜いて飛んでゆく。
「ミラが愛して、信頼したあなただから、私は妹を託します。……ミラを泣かせたらイベントホライズンですからね」
不穏な言葉は聞かなかったことにした。
ミュゼの案内に付いていくと、そこには青々と葉を茂らせる一本の大樹が聳え立っていた。
そして、その傍にはふわふわと波打つ金髪の女性が佇んでいる。
何度も逢いたいと願った姿。何度も抱きしめたいと願った、世界を守る約束を交わした彼女が、そこにいる。
そう感じた瞬間、彼女の下へと走り出していた。
「ミラ!」
名前を呼んで、華奢で柔らかなその身体を抱きすくめる。あの日約束を交わした時と、寸分変わらない細い肩がびくりと震えた。ミラがぎこちなく顔をこちらに向ける。
「……ジュード……?」
「ミラ……!」
「ジュード……っ!」
触れたかった温もりが、聞きたかった声が、ジュードの心を満たしてゆく。あの頃傍で見ていた彼女からは想像もつかないような弱弱しい力で縋り付く身体をきつく抱きしめて、ただ一言、逢いたかった、と声を絞り出した。
「ずっと、逢いたかったよ、ミラ……だから、迎えに来た」
ミラは俯いたまま、何かを押し殺すように言葉を紡いだ。
「……君が、私を何度も召喚しようとしていたことは……知っていたよ」
だから一回だけ応えようとした、と彼女は言った。
「ミラ……」
「しかし、……召喚に応えてしまえば、私はきっと……君から離れられなくなる。だから、できなかった」
「……」
「世界よりも一人の人間を選ぶなど、マクスウェルのすることではない。先代ならば選ばなかった道だろう」
「ミラ」
あの日、格好悪い生き方を見せられないから離れたのにと彼女は声を絞り出す。どうして来てしまったのだと涙の混じる声がジュードを責める。
「私だって、ずっと逢いたかった……ジュード、君との約束を……果たしたかった」
「ミラ……僕だって、ミラがそう考えるかもしれないって思ってた。でも、どうしてもミラと一緒にいたかった……ミラと、この先の未来を歩いていきたかった」
潤んだ紅の瞳がジュードを見つめる。
迷子になった幼子のような、道を探すような瞳を見つめ返す。
「ミラを、ずっと愛しているから。どちらかを選ばなきゃいけなくても、僕は世界もミラも両方選ぶよ」
「ジュード……」
「ミラが道に迷っても、ずっと僕が付いている。顕現できないのなら、僕のマナをあげる。たとえ僕が死んだとしても、魂の洗浄を受けたとしても、必ず君を迎えに行く。だから……」
言葉を切り、ミラを解放する。ポケットに手を入れて、ベルベットの小箱を取り出した。蓋を開けるとミラが目を見開く。
「僕と、結婚してください」
「……」
呆けたように立ち尽くす彼女に、言葉を重ねる。
「精霊界への道なら、僕が作るよ。ミラがちゃんと使命を果たせるように、先代マクスウェルがくれた猶予を引き延ばせるように、僕も力を尽くすよ。だから、僕も選んでくれるなら、この指輪を受け取って」
ミラの白い頬を、涙の珠が転がり落ちた。グローブも手甲も取り払った震える指が、ゆっくりと指輪を台座から外し、左手の薬指に通す。
「精霊の主が、ただ一人の人間を愛する……そんなことが本当に許されるのであれば、私は……私は、ジュード……君と共にありたい」
涙に濡れた瞳がジュードを見つめる。彼女の瞳に自分だけが映っている幸せを噛みしめて、ジュードはミラを再び抱きしめた。
「ありがとう、ミラ……!ずっと、生まれ変わってもミラを愛してる……!」
「私も、ずっと……愛しているよ」
もう離さないと腕に力を込める。ミラの髪を風が揺らす。
「……二人とも、公衆の面前でプロポーズはまずかったのではないかしら」
不意に横から掛けられた声に二人はびくりと体を震わせた。
「ミュゼ!?え、公衆の面前って」
「言ったでしょう?ミラは微精霊の面倒を見ているって」
ミュゼは至極穏やかに微笑んで、何とも言えない表情でこちらを見つめる精霊たちを見やった。
「ミラ」
「ミュゼ、これは……」
頬を赤く染めてあわてるミラに、ミュゼは穏やかな微笑みを向ける。
「あの時、共に生きようと言ってくれて嬉しかったわ。何もかもを無くして、進むべき道すらなかった私を導いてくれた。……本当に、あなたがいてくれて……よかった」
「ミュゼ……」
「でもね、ジュードは私や四大にいびられても、ミラと一緒にいたいんですって」
ミュゼの微笑みがわずかに陰りを帯びた。私としては寂しいけれど、と彼女は続ける。
「どんなことがあっても世界を最優先させてきたあなたたちは、祝福を受ける資格があると思うの。……だから、ミラ。あなたが人間界で活動するために必要な身体、こっそりあなたの社に運んでおいたわ」
「ミュゼ……」
大精霊は妹の頬に手のひらを優しく滑らせ、こつんと額をぶつけた。
「忘れないでね。辛いときはいつでも戻ってきていいのよ。みんな、待っているから……辛くなくても、たまには帰ってきてね」
ミラが再び目を潤ませる。
「ありがとう……ミュゼ」
「私のほうこそ。……あなたが妹で、本当に良かった。幸せになってね」
ミュゼの優しい声色がそう紡ぐ。
「ミュゼ。認めてくれて……ありがとう。ミラをきっと幸せにするから」
ジュードのその言葉に、大精霊は泣かせたらイベントホライズンですからと微笑んだ。
「さあ、ミラ。分体を置いて早く行ったほうがいいわ。四大は私が説得しておくから」
かつての世精ノ途を抜けると、目の前にはニ・アケリア参道が広がっていた。人間として顕現することができたらしいミラがあたりをきょろきょろと見回す。
「ここは……戻って、きたのか……」
「うん。戻ってきたんだよ」
ミラの左手の薬指にはまっている指輪を確認して、ジュードは彼女を抱きしめた。
「ミラ……夢じゃ、ないよね」
「ああ……夢ではない」
鼻と鼻がくっつきそうな距離で囁きあう。
「ずっと、一緒にいられるんだよね」
「ああ。ずっと一緒だ」
「何度生まれ変わっても、ミラを迎えに行くからね。今日みたいに、指輪を持って」
「何度魂の洗浄をすることになっても、何度君の死を見届けることになっても、待っていよう」
「もう離さないよ……ミラと一緒にいたいと思ったこと、結婚したいと思ったこと、全部本当の事だから。離れてから昨日までだって、ミラを愛したこと、後悔してない」
ミラが表情を緩ませる。
「私もだ。マクスウェルとして生きる選択をした時も、死ぬ選択をした時も……君を愛したことを後悔したときなどなかった」
その笑顔が嬉しくて、ジュードはそのままミラの唇に己のそれを近づける。
「ミラ……ずっと、愛してる」
「私も、愛しているよ」
降り注ぐ木漏れ日の中、交わした口づけはしあわせの味がした。
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