ここは「花待館」の別館となっています。非公式で「うみねこのなく頃に」「テイルズオブエクシリア」「ファイナルファンタジー(13・零式)」「刀剣乱舞」の二次創作SSを掲載しています。
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お久しぶりです。なんとか就活に目処が立ったような感じです。
そんなわけで変態嘉音君シリーズ。
今回は6年前のお話なので嘉音君は出てきません。
注意
・理御さんが変態です。
・紗音ちゃんも変態です。
・同一人物説は採用しておりません。
・バトジェシです。
では、どうぞ。
『遠い日の思い出』
それは彼らがまだ小さな頃の話だった。
嘉音が右代宮家で働き始める何年も前。
右代宮家の屋敷には何人かの福音の家出身のメイド達がいた。当然ながらその中には紗音もいた。
仕事の出来はともかく、紗音は朱志香の友人だった。
もっと幼い日に朱志香が森の魔女に泣いて願った、かけがえのない大好きな友人だった。
ただし、変態であることを除いては。
遠い日の想い出
「なあ紗音」
「何でしょうお嬢様?」
ある日の午後のことである。朱志香はぐだぐだと部屋に居座っている紗音に声を掛けた。紗音は何故か使い捨てカメラのシャッターを切りながら問い返す。
「やっぱり、私……いつかは結婚させられちゃうのかな」
「お嬢様……」
朱志香がどことなく寂しそうに言うので、紗音の胸が締め付けられる。
朱志香はいつか結婚しなくてはならないだろう。それが彼女が望んだことにせよ、そうでないにせよ。
が、彼女の次の呟きに紗音はぴしりと固まった。
「結婚するなら譲治兄さんみたいな優しい人がいいな……」
「え?」
「譲治兄さん、優しいだろ?だから……ああいう人がいい」
さて、譲治は朱志香の年上のいとこである。朱志香の叔母・絵羽の最愛の一人息子にして紗音が愛してやまない少年である。
文武両道で優しく、気配り上手。格好いいところを見せようと頑張ってはからぶるところも紗音には愛おしくてたまらない、未来の旦那様(だと彼女は決めつけている)である。
譲治様は私のだと豪語する彼女にとって、朱志香のその呟きは聞き捨てならないものであった。だから彼女の肩をつかんで紗音は語りかける。
「いいですか、お嬢様」
「う、うん……」
「譲治様は私の嫁です」
「え……」
「譲治様は私の嫁です」
「嫁……って譲治兄さんは男だぜ?」
朱志香が困惑したように問えば、紗音はそれでもです!と主張する。
「だいたいお嬢様、戦人さまはどうするんですか?」
「え、な、なんで戦人が出てくるんだよ……」
朱志香の頬が赤く染まる。
「見ていればわかります。それはともかく譲治さまは私の嫁であるからしてですね、将来はあの礼拝堂で結婚式を挙げるんです!ウェディングドレスを着た譲治さまを私がお姫様抱っこで運んで、2人は永遠の愛を誓うのです!」
「どうしたの、2人とも」
紗音が妄想たっぷりに言い切った瞬間、話題にされていた譲治が姿を現した。
「譲治兄さんって、紗音のお嫁さんなの?」
「え?」
朱志香の何気ない質問に譲治の表情が固まる。それから彼はぎこちない微笑みを浮かべた。
「朱志香ちゃん、それは……」
「紗音が言ってたぜ?」
「譲治さま……私を気にかけてくださるなんて、紗音、感激です!」
譲治は貼り付いたような笑みを浮かべて朱志香を見、ついでに紗音のキラキラしたストーカー……もとい恋する乙女の視線にぶつかると、脱兎のごとく逃げ出した。朱志香は譲治の身に危機が迫っているのかもしれないとぼんやり思いつつ、ふと首を傾げる。
「お嫁さん……か」
「よぉ、朱志香」
ふと横から声を掛けられて、考えごとをしていた朱志香はびくりと飛び上がった。
「ばっ、ば、戦人……!」
「いっひっひ、なんだよ朱志香ぁ、びっくりしたかぁ?」
「び、びっくりしたに決まってるだろっ!」
知らず知らず熱くなる頬を隠しながら朱志香は叫んだ。その剣幕に押されて戦人が気まずそうに頬を掻く。
「わ、悪い……で、さっき何話してたんだ?」
どきん、と鼓動が大きく鳴った。
戦人が紗音にいい格好をしようとしているのは朱志香だって知っていた。
そういうことなんだと思っていた。だから、話すのを躊躇った。
「そ、それ、は……」
「あっちで紗音ちゃんに襲われてる譲治兄貴に聞いてもいいんだぜ?」
「……譲治兄さんじゃなくて、紗音に聞けばいいだろ?」
朱志香は胸のあたりにもやもやしたものが積もるのに焦っていた。別に自分は戦人のことが男の子として好きなわけではない。気の置けない友人として好きなのだ。
そのはずなのに、戦人が紗音にいい格好をしようとするたびに胸がもやもやとして、ずきりと痛む。知らず知らず顔をしかめていたのだろう、ふと気がつくと戦人がこちらをのぞき込んでいた。
「ふぇっ!?」
「いや、お前元気ないから……」
素っ頓狂な声を上げた朱志香に戦人はにへらと笑うと、暫し考える素振りを見せる。
「まさか、朱志香お前、譲治兄貴のこと……」
「違えよ!わ、私が好きなのは……」
反論しかけて彼女ははたと絶句した。
好きなのは、誰だというのだろう。
特別なのは、誰だというのだろう。
「私が、好きなのは……」
言えなくて、口をつぐむ。沈黙が降りる。
「……なあ朱志香」
その沈黙は戦人によってすぐ破られた。
「譲治兄貴は紗音ちゃんが怖いからよ、朱志香には俺なんかどうだよ?」
「……え」
「俺なら、お前のこと一番分かってる。お前の一番になれる」
戦人の目は真剣だった。朱志香の鼓動がうるさいくらいに響く。
「戦人……私の……私の一番は……」
戦人の真剣な瞳の中に、頬を赤くした朱志香が映っている。続きを口にしようとしたそのとき、不意に上から声が降ってきた。
「もちろん私ですよね、朱志香?」
「り、理御!?」
そこにいたのは朱志香の自称兄である右代宮理御だった。理御は空恐ろしい笑みを浮かべてもう一度繰り返す。
「朱志香の一番は私でしょう?」
「え……ち、違うけど」
「そりゃないぜ、理お……ふぎゃっ」
微笑みにおののきながら朱志香は否定する。笑いながら戦人が否定すると、理御は笑顔のまま彼の尻を抓った。
「いいかい朱志香。大きくなったらお兄ちゃんと結婚するんだよ?」
「え……やだ……」
理御の笑顔がびしりと音を立てて固まった。朱志香はそろそろと戦人のそばに移動して、その手をぎゅっと握りしめる。
「だって、私は……」
多分、自分の心はそうなのだろう。だから彼女は声に出した。
「戦人に私のお嫁さんになってもらうんだ!」
「お兄ちゃんは許しませんよ!」
理御が涙を浮かべて叫ぶ。朱志香が言い返そうとした瞬間、ばふんと轟音が響いて戦人と理御が吹っ飛んでいった。
戦人が目を開けると、そこには心配そうな顔をした朱志香がいた。
「朱志香……」
「戦人!良かった……」
ほっとしたその表情を見て、そういえば自分は吹っ飛ばされたのだっけと戦人は思い出す。
犯人は使用人のヤスこと安田だろう。
「理御は?」
「鬼の形相でヤスを追い回してる」
右代宮家の次期当主の恐るべき生命力に思いを馳せて戦人はため息をついた。そうしてふと思い出す。
「なあ朱志香」
「ん?」
「大きくなったら……俺のお嫁さんになるって本当か?」
朱志香が言っていたことは逆だったが、気にせずに問う。すると彼女はリンゴのように頬を染めた。
「ほ、本当、だぜ?……戦人は、お嫁さんになるんだろ?」
「……朱志香、お嫁さんは朱志香みたいな女の子しかなれないんだぞ」
どうせ譲治を嫁と公言して憚らない紗音が教えたのだろうとぼんやり思いつつそう言ってやる。すると朱志香はこれ以上ないほど頬を染めた。
「そ、そう、なのか……?」
「そうだぞ」
だから、と戦人は朱志香に囁く。
「俺なら、白馬に乗ってきっと迎えに来るぜ」
ゆっくり花開いた彼女の笑顔と、潤んだ瞳が彼の記憶に焼き付いた。
嘉音が右代宮家で働き始める何年も前。
右代宮家の屋敷には何人かの福音の家出身のメイド達がいた。当然ながらその中には紗音もいた。
仕事の出来はともかく、紗音は朱志香の友人だった。
もっと幼い日に朱志香が森の魔女に泣いて願った、かけがえのない大好きな友人だった。
ただし、変態であることを除いては。
遠い日の想い出
「なあ紗音」
「何でしょうお嬢様?」
ある日の午後のことである。朱志香はぐだぐだと部屋に居座っている紗音に声を掛けた。紗音は何故か使い捨てカメラのシャッターを切りながら問い返す。
「やっぱり、私……いつかは結婚させられちゃうのかな」
「お嬢様……」
朱志香がどことなく寂しそうに言うので、紗音の胸が締め付けられる。
朱志香はいつか結婚しなくてはならないだろう。それが彼女が望んだことにせよ、そうでないにせよ。
が、彼女の次の呟きに紗音はぴしりと固まった。
「結婚するなら譲治兄さんみたいな優しい人がいいな……」
「え?」
「譲治兄さん、優しいだろ?だから……ああいう人がいい」
さて、譲治は朱志香の年上のいとこである。朱志香の叔母・絵羽の最愛の一人息子にして紗音が愛してやまない少年である。
文武両道で優しく、気配り上手。格好いいところを見せようと頑張ってはからぶるところも紗音には愛おしくてたまらない、未来の旦那様(だと彼女は決めつけている)である。
譲治様は私のだと豪語する彼女にとって、朱志香のその呟きは聞き捨てならないものであった。だから彼女の肩をつかんで紗音は語りかける。
「いいですか、お嬢様」
「う、うん……」
「譲治様は私の嫁です」
「え……」
「譲治様は私の嫁です」
「嫁……って譲治兄さんは男だぜ?」
朱志香が困惑したように問えば、紗音はそれでもです!と主張する。
「だいたいお嬢様、戦人さまはどうするんですか?」
「え、な、なんで戦人が出てくるんだよ……」
朱志香の頬が赤く染まる。
「見ていればわかります。それはともかく譲治さまは私の嫁であるからしてですね、将来はあの礼拝堂で結婚式を挙げるんです!ウェディングドレスを着た譲治さまを私がお姫様抱っこで運んで、2人は永遠の愛を誓うのです!」
「どうしたの、2人とも」
紗音が妄想たっぷりに言い切った瞬間、話題にされていた譲治が姿を現した。
「譲治兄さんって、紗音のお嫁さんなの?」
「え?」
朱志香の何気ない質問に譲治の表情が固まる。それから彼はぎこちない微笑みを浮かべた。
「朱志香ちゃん、それは……」
「紗音が言ってたぜ?」
「譲治さま……私を気にかけてくださるなんて、紗音、感激です!」
譲治は貼り付いたような笑みを浮かべて朱志香を見、ついでに紗音のキラキラしたストーカー……もとい恋する乙女の視線にぶつかると、脱兎のごとく逃げ出した。朱志香は譲治の身に危機が迫っているのかもしれないとぼんやり思いつつ、ふと首を傾げる。
「お嫁さん……か」
「よぉ、朱志香」
ふと横から声を掛けられて、考えごとをしていた朱志香はびくりと飛び上がった。
「ばっ、ば、戦人……!」
「いっひっひ、なんだよ朱志香ぁ、びっくりしたかぁ?」
「び、びっくりしたに決まってるだろっ!」
知らず知らず熱くなる頬を隠しながら朱志香は叫んだ。その剣幕に押されて戦人が気まずそうに頬を掻く。
「わ、悪い……で、さっき何話してたんだ?」
どきん、と鼓動が大きく鳴った。
戦人が紗音にいい格好をしようとしているのは朱志香だって知っていた。
そういうことなんだと思っていた。だから、話すのを躊躇った。
「そ、それ、は……」
「あっちで紗音ちゃんに襲われてる譲治兄貴に聞いてもいいんだぜ?」
「……譲治兄さんじゃなくて、紗音に聞けばいいだろ?」
朱志香は胸のあたりにもやもやしたものが積もるのに焦っていた。別に自分は戦人のことが男の子として好きなわけではない。気の置けない友人として好きなのだ。
そのはずなのに、戦人が紗音にいい格好をしようとするたびに胸がもやもやとして、ずきりと痛む。知らず知らず顔をしかめていたのだろう、ふと気がつくと戦人がこちらをのぞき込んでいた。
「ふぇっ!?」
「いや、お前元気ないから……」
素っ頓狂な声を上げた朱志香に戦人はにへらと笑うと、暫し考える素振りを見せる。
「まさか、朱志香お前、譲治兄貴のこと……」
「違えよ!わ、私が好きなのは……」
反論しかけて彼女ははたと絶句した。
好きなのは、誰だというのだろう。
特別なのは、誰だというのだろう。
「私が、好きなのは……」
言えなくて、口をつぐむ。沈黙が降りる。
「……なあ朱志香」
その沈黙は戦人によってすぐ破られた。
「譲治兄貴は紗音ちゃんが怖いからよ、朱志香には俺なんかどうだよ?」
「……え」
「俺なら、お前のこと一番分かってる。お前の一番になれる」
戦人の目は真剣だった。朱志香の鼓動がうるさいくらいに響く。
「戦人……私の……私の一番は……」
戦人の真剣な瞳の中に、頬を赤くした朱志香が映っている。続きを口にしようとしたそのとき、不意に上から声が降ってきた。
「もちろん私ですよね、朱志香?」
「り、理御!?」
そこにいたのは朱志香の自称兄である右代宮理御だった。理御は空恐ろしい笑みを浮かべてもう一度繰り返す。
「朱志香の一番は私でしょう?」
「え……ち、違うけど」
「そりゃないぜ、理お……ふぎゃっ」
微笑みにおののきながら朱志香は否定する。笑いながら戦人が否定すると、理御は笑顔のまま彼の尻を抓った。
「いいかい朱志香。大きくなったらお兄ちゃんと結婚するんだよ?」
「え……やだ……」
理御の笑顔がびしりと音を立てて固まった。朱志香はそろそろと戦人のそばに移動して、その手をぎゅっと握りしめる。
「だって、私は……」
多分、自分の心はそうなのだろう。だから彼女は声に出した。
「戦人に私のお嫁さんになってもらうんだ!」
「お兄ちゃんは許しませんよ!」
理御が涙を浮かべて叫ぶ。朱志香が言い返そうとした瞬間、ばふんと轟音が響いて戦人と理御が吹っ飛んでいった。
戦人が目を開けると、そこには心配そうな顔をした朱志香がいた。
「朱志香……」
「戦人!良かった……」
ほっとしたその表情を見て、そういえば自分は吹っ飛ばされたのだっけと戦人は思い出す。
犯人は使用人のヤスこと安田だろう。
「理御は?」
「鬼の形相でヤスを追い回してる」
右代宮家の次期当主の恐るべき生命力に思いを馳せて戦人はため息をついた。そうしてふと思い出す。
「なあ朱志香」
「ん?」
「大きくなったら……俺のお嫁さんになるって本当か?」
朱志香が言っていたことは逆だったが、気にせずに問う。すると彼女はリンゴのように頬を染めた。
「ほ、本当、だぜ?……戦人は、お嫁さんになるんだろ?」
「……朱志香、お嫁さんは朱志香みたいな女の子しかなれないんだぞ」
どうせ譲治を嫁と公言して憚らない紗音が教えたのだろうとぼんやり思いつつそう言ってやる。すると朱志香はこれ以上ないほど頬を染めた。
「そ、そう、なのか……?」
「そうだぞ」
だから、と戦人は朱志香に囁く。
「俺なら、白馬に乗ってきっと迎えに来るぜ」
ゆっくり花開いた彼女の笑顔と、潤んだ瞳が彼の記憶に焼き付いた。
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