ここは「花待館」の別館となっています。非公式で「うみねこのなく頃に」「テイルズオブエクシリア」「ファイナルファンタジー(13・零式)」「刀剣乱舞」の二次創作SSを掲載しています。
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むしゃくしゃして書いた。
だが反省はしていない。
そんなわけで「うみねこ」のEP6までをネタバレのみを含めて読んだ結果出来ちゃったカノジェシ妄想小説。
今出さないと永遠に出せない気がしますので出しちゃいます。
!諸注意!
・ベアト=朱志香説です。
・八城十八=嘉音説です。
・嘉音がいつも以上にヤンデレで変態です。
・朱志香の年齢が退行しています。
・なぜかベルンカステル卿がちょろっと出てきています。
・R15です。
では、どうぞ。
miracle of whiches
だが反省はしていない。
そんなわけで「うみねこ」のEP6までをネタバレのみを含めて読んだ結果出来ちゃったカノジェシ妄想小説。
今出さないと永遠に出せない気がしますので出しちゃいます。
!諸注意!
・ベアト=朱志香説です。
・八城十八=嘉音説です。
・嘉音がいつも以上にヤンデレで変態です。
・朱志香の年齢が退行しています。
・なぜかベルンカステル卿がちょろっと出てきています。
・R15です。
では、どうぞ。
miracle of whiches
六軒島爆発事故。
それはあまりにも突発的に起きたことだった。
嘉哉のあずかり知らぬところで、彼の大切な人を奪ってしまった。
彼が八城十八と名乗り始め、女性のフリをしたのはボトルメールに嘉音という名前があったから、というのがひとつの理由だった。
爆発事故の日は右代宮家の親族会議だった。その場に何故彼がいなかったか。
それは右代宮家を解雇されたからであった。
朱志香と心を通わせて少し経った頃に突然通告されたことだった。
それなのに、彼の名前がボトルメールに書いてあったのだ。
それは即ち、『嘉音』を社会から隠すということ。
知られては困る真相を彼とボトルメールの作者、すなわち朱志香が共有していることを仄めかすことでもあった。
そして嘉哉は真相を隠すことを選んだからである。
もう一つの理由は全てを知ってしまったからだった。
爆発事故は事故ではなかったこと。
愛のない親族に愛を与えたかったこと。
昔の恋を諦めなければならなかったこと。
それでも罪を糾弾しなければならなかったこと。
右代宮戦人の罪が朱志香への裏切り、即ち魔法の否定だったこと。
そして、重症化した喘息に自らの死期を悟った朱志香が、戦人への恋も親族への愛も、嘉哉への恋さえも抱きしめたまま次々と親族達を殺していったこと。
それらは朱志香本人が伝えたことだった。真相を手紙に綴り、銀行のカードと嘉哉との思い出の品と一緒に箱に詰めて船長に託したのだった。
それを受け取った時、彼は全てを知った。
朱志香が彼に向けてくれた、真実の愛を知った。
だから、嘉哉は八城十八となった。
書かなければ、と筆を執って偽書を執筆する傍らで、彼が最初で最後に愛した朱志香が他の男と心を通わせかねない話を書くのはとんでもない苦痛であった。
朱志香が託した真実を守らなければ、という気持ちとこのまま朱志香の元に行って幸せになってしまいたいという気持ちの板挟みに陥った時に、ベルンカステルと名乗る魔女が現れた。
「あなたに朱志香を返してあげるわ」
「は……?」
魔女はくすくすと笑ってぱちんと指を鳴らす。すると、何もないはずの空間に人の姿が現れる。
ウェーブがかった金髪の美少女。
閉ざされた瞳は見えなかったけれど、その少女は間違いなく事故……いや、六軒島大量殺人事件で自らを犠牲にした嘉哉の恋人、右代宮朱志香であった。
「朱志香、さん……」
ゆっくりと腕の中に落ちてくる彼女を抱き留める。最後に抱いた時よりも小さく頼りなげに見えるのは彼が成長したせいだろうか。
「その朱志香はこのカケラから連れてきた彼女じゃないわ。あなたがあんまりにも嘆いているからちょっとした気まぐれで別のカケラから1986年以前の朱志香を連れてきただけよ」
「そんなことが……カケラ……!?」
思考が追いついていかない。
ベルンカステルは何を言っているのか、さっぱり分からない。
「ちなみに彼女はあんたのことなんか全然知らないわ。14才だから。……夏妃達に邪魔者扱いされるカケラに置いておくのも良かったんだけど、この子自身が死にそうだったのだもの」
朱志香の身体をかき抱く。そのカケラとやらの彼女の境遇を思えば、たしかにここに置いておく方がよいのだろう。
そして、魔女はこう言った。
「彼女をどうしようが、あとはあんたの勝手よ」
嘉哉の腕の中で朱志香が目覚めたのは夜明け頃だった。
「ぅ……ん……」
「おはようございます、朱志香さん」
眠そうに目を瞬かせた彼女はそこが自分の部屋でないことに気が付いて怯えたような顔をする。
「ここ……どこ……あんたは……」
「ここは僕の部屋です」
ぎゅ、と抱きしめると、朱志香は酷く怯えて暴れ始めた。
「やだっ……放せっ、放せよっ」
嘉哉を知らない頃の彼女は戦人を好いていた筈だ。ならば知らない男に抱きしめられているのは不愉快、もしくは屈辱に近いかもしれない。
しかし、彼にとってもそれは不愉快だった。だから無理矢理に口づける。
「んっ……ん、んぅ……」
深く口づけて朱志香の動きを押さえ込む。舌先で唇をつついて彼女の口内に入り込む。
「ふ……ぅん……っ」
唇を離すと2人の間に銀色の糸が伝う。朱志香の柔らかい身体をもう一度抱き込んでベッドに潜る。
「嫌だぁ……っ、離してぇ……」
「朱志香様……僕は嘉哉といいます」
今にも泣き出しそうな顔をしていた朱志香がこちらを見上げる。
「よし……や……」
「あなたはこれからここで生きるのです。あなたを邪魔者扱いする奥様達の元になど……返しません」
びくんと彼女の身体が震えた。
「そんな……こと……」
「僕は……この世界ではかつてあなたの家具でした。けれど、あなたを守ることがとうとう出来なかった……だから、今度こそは守ってみせます。あなたを傷つける全てをこの手で葬り去りましょう。あなたがいつも笑っていられる世界を作りましょう。あなたのためなら僕は何でも出来る……だから」
全て本当のこと。
朱志香と結ばれて少し経った頃に、彼は突然解雇を言い渡された。
だから彼は魔女ベアトリーチェと化した朱志香を止めることが出来なかった。
朱志香の汚れのない心にどす黒いどろどろした憎しみが広がっていくのを止められなかった。
そして、朱志香の心を侵す全てのものから彼女を守りきることが出来なかった。
けれど、今度こそ朱志香を守りきってみせる。
彼女が望むならなんだって出来る。
彼女を傷つけるものはなんであろうと……例えそれが紗音であろうとも、嘉哉は葬り去れるだろう。
朱志香があの太陽のような微笑みをもう一度見せてくれるのならば、彼は魔女の爪先にだって躊躇なくキスできるだろう。
愛してください、と抱きしめた腕の中で朱志香が体を震わせた。
「嘉哉……さん……」
「朱志香……この世界であなたを失ってから、僕の時間はずっと止まったままでした……どうしようもなくあなたが欲しかった……」
それが今、彼女は彼の腕の中にいる。
確かに目の前にいる少女は嘉哉の世界の中にいた朱志香ではない。けれど、姿も、声も、匂いも、身に纏う雰囲気も朱志香のそれだ。
彼が偽書で描写した、ベアトリーチェを失って、新たなるベアトリーチェを創りだした右代宮戦人と同じシチュエーション。
けれど、それでも彼女が朱志香ではないと嘆くには、彼はあまりに朱志香を愛しすぎていた。
記憶の中で嘉哉くん、と笑う右代宮朱志香と寸分違わず、されど時間だけが違う彼女は、それでもやはり右代宮朱志香だったのだから。
「愛しているんです……あなたを、あなただけを愛しています……」
「嘉哉さん……」
背中に回されるしなやかな腕の感触に渇いた心が癒えていく。
「私……ここにいても、良いの……?」
「ここに……いてください……」
きつくきつく抱きしめて、漸く愛しい人が戻ってきた喜びに嘉哉は涙した。
暫くして朱志香が彼を嘉哉くんと呼ぶようになった頃、嘉哉は全てを話すことにした。
「朱志香、僕はずっと……朱志香の物語を書いていたんだ」
「私の……?」
「そう。前にも話したけど、朱志香はこの世界では死んだことになってる。絵羽様と、縁寿様を除いて」
「紗音や……譲治兄さんも?」
「そう。それと、……戦人様も」
あの日の新聞を見せる。12年前の10月6日の夕刊。
六軒島爆発事故。
伊豆諸島にある右代宮家所蔵の島で起きた爆発事故。
親族会議のために前々日から集まっていた当主・右代宮蔵臼を始めとする16人の生存は絶望的……。
その翌日の朝刊。
右代宮家本邸から離れた隠れ屋敷の地下で右代宮絵羽が見つかる。
そして、その数年後の日付の夕刊。
六軒島爆発事故の様子を描いたボトルメールが発見される。
「ボトルメール……?」
「そう、ボトルメール」
「ベアトリーチェのボトルメールのことか?」
それを聞いて、驚いた。
「知っているの?」
「だって……あれは……みんなが幸せになれる魔法を私が自分で書いたものだから……母さん達から邪魔者にされなくてすむ……愛のある世界を書いたものだから」
「碑文通りに殺人事件が起きるんだ……」
「碑文……殺人……!?そんな……碑文って、何のことだよ……それに、殺人……って……そんな、そんなの、私は書いた覚えがねぇぜ!」
そう言えばそうだ。碑文が飾られたのは朱志香が16歳の時だった。ちょうど今の彼女と同じ年頃だ。14で嘉哉の元に連れてこられた彼女が知るはずがない。
「碑文は金蔵様が当主選びのために作ったものなんだ。その碑文に沿って、13人が殺されて、遺った5人も最後は死んでしまう……そう言う内容なんだ」
「……犯人は、私……ベアトリーチェなのか?」
「ベアトリーチェだって、ボトルメールには書いてある……けれど、朱志香が犯人だって……手紙をくれて……」
「……見せてくれないか?」
手紙と真相の書かれたノートを渡す。彼女はそれを全て読むからと寝室に入っていってしまった。
「朱志香……」
碑文のことも、殺人のことも知らなくても、彼女は確かに朱志香だ。
だからこそ心配で心配で仕方ないのだ。
朱志香を自分の鳥籠の中に閉じこめたのに、それでもまだ死んだ戦人に彼女を攫われる不安に襲われる。
朱志香はお前のものではないと嘲笑われて彼女を攫われてしまう悪夢を彼はここ数日見ていたのだ。
だから、寝室にそっと入り込む。
「嘉哉くん……」
気付いた朱志香がこちらを向く。その眼には、涙。
「朱志香……!?」
「この世界の私……も、辛かったんだ……本当は殺したくなんて、なかっ……」
朱志香の頬を涙が伝う。
「朱志香……」
抱きしめると、彼の腕の中で朱志香は何度もしゃくり上げた。
「嘉哉くん……っ、私……」
「どこにも……どこにも行かないでください!」
言葉を遮ってもっときつく抱きしめる。
「嘉哉くん……」
「朱志香が戦人様を愛していたのは知ってます。でも……それでも、僕はあなたを……」
ぎゅ、としなやかな腕が抱き返す。
「うん……どこにも、行かない……」
大好きで、ずっとずっと聞きたくて、それでも朱志香がいない時には叶わなかった優しい声。
「だから……私を元の世界に帰さないで……私……白い魔女のままでいたい……」
「元の世界になんて返しません……ずっと、僕の傍にいてください……愛してるんです……朱志香」
「嘉哉くん……」
「事件当日、僕は島にいることが出来なかったんだ……」
「え……でも、嘉音くん、って嘉哉くんの事じゃ……」
「姉さんの……紗音の行動を半分削って、そこに僕を入れたんだ……朱志香が、僕を島にいさせてくれた」
「あ……」
「だから……僕は朱志香の物語を書き続けるんだ……だけど、朱志香が戦人様と愛し合うのを書くのが、辛くて……」
「嘉哉くん……大丈夫……大丈夫だよ……私はずっと傍にいるから……」
一番聞きたかった声。一番欲しかった言葉。
元のカケラがどうなろうと、嘉哉の知ったことではなかった。
何故なら、今この瞬間、朱志香は彼だけのものなのだから。
だから、腕の中の宝物を壊してしまわないように優しく抱きしめて口づけた。
「ん……っ」
「朱志香……愛してる。この世で一番愛してる……」
通販で買ったワンピースの胸元に手を這わせる。
「あ……っ、嘉哉くん……っ」
首筋に口づけて、重なる鼓動に酔いしれた。
朱志香と床を共にするのは10年ぶりだった。嘉哉の元で養育された腕の中の朱志香は相変わらず可愛らしくて、やっぱりもうどこにも帰したくなくなっていた。
思い返してみれば、朱志香はずっと嘉哉のことを気に掛けていた。それに応えなかったのは彼の罪。
贖罪のために朱志香を抱くわけではない。
けれど、密告されても傍にいることが出来なかったから事件が起こってしまったのかもしれないとずっと後悔してきた。
後で聞いたことだったが、2人のことを密告したのは紗音だった。
ずっと信頼していたけれど、しかし姉は譲治との結婚という誘惑には勝てなかったのだろう。
もともと、紗音と譲治、嘉音と朱志香の二組のうち、どちらかしか結ばれなかったのだ。右代宮家の当主候補は朱志香と譲治。しかし当主と結婚するのが使用人では親たちの収まりがつかなかったのだ。
だから紗音が譲治と結婚してしまえば嘉音は朱志香と結婚することは出来なくなる。だからといって朱志香が他の男と愛を育むのを見ているのも辛かった。だから島から出てしまったほうがましだと思った。
だが嘉音が朱志香と結婚できれば紗音が譲治と結婚することは出来なくなる。しかし紗音は元々本家のメイドだから、譲治と一年に一回だけ会って、諦めるだけですむのだ。
けれどその緊張状態は譲治と結婚したいがための紗音の行動で崩されてしまったのだ。
未発表の原稿に書いた紗音との決闘。
2人がもしも現実で決闘して、二人共が倒れてしまったとしても、朱志香は戦人と結婚して当主になるだろう。なぜなら彼女はベアトリーチェだから。実際朱志香の幸せを願って書いた本来の筋書きはその筈だった。
それなのに執筆中にどうしようもなく紗音が憎くなって、紗音の行動の全てを自分に書き換えたくなった。
朱志香を裏切り、嘉哉を裏切った紗音への恨みが爆発したのだ。
だからあの筋書きは彼の個人的な恨み故だと言える。
けれど、彼の敗北という現実に、嘉哉の妄想は勝つことが出来なかった。傍に朱志香がいなかったから。
紗音が勝った時点で朱志香は嘉音と愛し合うことが出来なくなって、結果ベアトリーチェとひとつになった。
もし密告されても朱志香を攫って島から出ていれば、こんな事件は起きなかったのかもしれない。
その苦い後悔が胸を満たす。
「嘉哉、くん……?」
不安そうな声にはっと現実に引き戻される。朱志香はワンピースが申し訳程度に腹に引っ掛かっているしどけない格好で、潤んだ目のままこちらを見ていた。
「どうしたの……」
「朱志香のこと、考えてた」
「この世界の私のこと?」
「うん……ずっと離さなければ事件が起きることもなかったかな、って」
「……わかんないけど……多分、私はそれでも事件を起こしたかもしれない」
「朱志香……」
腕の中にいる朱志香はずっと夏妃達から疎まれていた、とベルンカステルが言っていたか。
「私……母さん達に嫌われてるから……幾ら自分のことに精一杯がんばれるもう1人の自分を作っても、辛いものはやっぱり辛いんだぜ……?」
はらりと涙がこぼれ落ちる。
「もしかしたら愛されていたのかもしれない……でも、愛されているフリをして嫌われているのはもっと辛いから、そういう時はベアトに慰めて貰ったんだ……お母様、大丈夫ですよって」
待ち続けるのが辛くて、口約束をバカ正直に信じているのを大人達にバカにされて、それでも彼女は待っていたのだ。ベアトリーチェをイマジナリーフレンドとして創り出すことで、ずっと励まして貰ったり慰めて貰ったりしながら、待ち続けていたのだ。
「ねえ、嘉哉くん……」
「うん」
「本当はね、私も、この世界の右代宮朱志香も、戦人との約束なんて諦めかけていたのかもしれない。ベアトがいてくれたから、ずっと好きでいることが出来たのかもしれない。けど、多分、どうしようもない事情で諦めなきゃいけなかったのかもしれない……」
いとこ同士の結婚は可能だが、家が栄えないという理由で却下されたのかもしれない、と嘉哉はぼんやり思う。一度却下されてしまえば覆ることがないのが右代宮家。しかも戦人は朱志香の魔法を否定した。その辺りが彼女をベアトリーチェの母親たらしめる事情なのだろう。
「だけど……私、今は……嘉哉くんの傍にいたい」
「朱志香……」
「もうこの世界で戦人が迎えに来てくれることはないし、このまま母さん達のところに戻っても戦人と恋することは出来ないんだ……それに、嘉哉くんを、幸せにしたい……」
その一言が嬉しかった。
彼女の華奢な身体を抱きしめる。
「朱志香……、大好きです、あなたが……あなただけが……っ」
「よしや、くん……っ、わたしも、好きぃ……っ」
12年越しの想い。それはずっと叶わないと想っていた。
この世に真の意味での魔女が存在するならば、それは朱志香と再び心を通わせる奇跡を起こしてくれたベルンカステルが適当なのだろう。
いや、奇跡を起こした自分たちと見るべきか。
ともあれこうして再び朱志香は彼の鳥籠へと囚われる。
温かな身体を腕の中に抱きしめて、嘉哉は幸せのうちに目を閉じた。
それはあまりにも突発的に起きたことだった。
嘉哉のあずかり知らぬところで、彼の大切な人を奪ってしまった。
彼が八城十八と名乗り始め、女性のフリをしたのはボトルメールに嘉音という名前があったから、というのがひとつの理由だった。
爆発事故の日は右代宮家の親族会議だった。その場に何故彼がいなかったか。
それは右代宮家を解雇されたからであった。
朱志香と心を通わせて少し経った頃に突然通告されたことだった。
それなのに、彼の名前がボトルメールに書いてあったのだ。
それは即ち、『嘉音』を社会から隠すということ。
知られては困る真相を彼とボトルメールの作者、すなわち朱志香が共有していることを仄めかすことでもあった。
そして嘉哉は真相を隠すことを選んだからである。
もう一つの理由は全てを知ってしまったからだった。
爆発事故は事故ではなかったこと。
愛のない親族に愛を与えたかったこと。
昔の恋を諦めなければならなかったこと。
それでも罪を糾弾しなければならなかったこと。
右代宮戦人の罪が朱志香への裏切り、即ち魔法の否定だったこと。
そして、重症化した喘息に自らの死期を悟った朱志香が、戦人への恋も親族への愛も、嘉哉への恋さえも抱きしめたまま次々と親族達を殺していったこと。
それらは朱志香本人が伝えたことだった。真相を手紙に綴り、銀行のカードと嘉哉との思い出の品と一緒に箱に詰めて船長に託したのだった。
それを受け取った時、彼は全てを知った。
朱志香が彼に向けてくれた、真実の愛を知った。
だから、嘉哉は八城十八となった。
書かなければ、と筆を執って偽書を執筆する傍らで、彼が最初で最後に愛した朱志香が他の男と心を通わせかねない話を書くのはとんでもない苦痛であった。
朱志香が託した真実を守らなければ、という気持ちとこのまま朱志香の元に行って幸せになってしまいたいという気持ちの板挟みに陥った時に、ベルンカステルと名乗る魔女が現れた。
「あなたに朱志香を返してあげるわ」
「は……?」
魔女はくすくすと笑ってぱちんと指を鳴らす。すると、何もないはずの空間に人の姿が現れる。
ウェーブがかった金髪の美少女。
閉ざされた瞳は見えなかったけれど、その少女は間違いなく事故……いや、六軒島大量殺人事件で自らを犠牲にした嘉哉の恋人、右代宮朱志香であった。
「朱志香、さん……」
ゆっくりと腕の中に落ちてくる彼女を抱き留める。最後に抱いた時よりも小さく頼りなげに見えるのは彼が成長したせいだろうか。
「その朱志香はこのカケラから連れてきた彼女じゃないわ。あなたがあんまりにも嘆いているからちょっとした気まぐれで別のカケラから1986年以前の朱志香を連れてきただけよ」
「そんなことが……カケラ……!?」
思考が追いついていかない。
ベルンカステルは何を言っているのか、さっぱり分からない。
「ちなみに彼女はあんたのことなんか全然知らないわ。14才だから。……夏妃達に邪魔者扱いされるカケラに置いておくのも良かったんだけど、この子自身が死にそうだったのだもの」
朱志香の身体をかき抱く。そのカケラとやらの彼女の境遇を思えば、たしかにここに置いておく方がよいのだろう。
そして、魔女はこう言った。
「彼女をどうしようが、あとはあんたの勝手よ」
嘉哉の腕の中で朱志香が目覚めたのは夜明け頃だった。
「ぅ……ん……」
「おはようございます、朱志香さん」
眠そうに目を瞬かせた彼女はそこが自分の部屋でないことに気が付いて怯えたような顔をする。
「ここ……どこ……あんたは……」
「ここは僕の部屋です」
ぎゅ、と抱きしめると、朱志香は酷く怯えて暴れ始めた。
「やだっ……放せっ、放せよっ」
嘉哉を知らない頃の彼女は戦人を好いていた筈だ。ならば知らない男に抱きしめられているのは不愉快、もしくは屈辱に近いかもしれない。
しかし、彼にとってもそれは不愉快だった。だから無理矢理に口づける。
「んっ……ん、んぅ……」
深く口づけて朱志香の動きを押さえ込む。舌先で唇をつついて彼女の口内に入り込む。
「ふ……ぅん……っ」
唇を離すと2人の間に銀色の糸が伝う。朱志香の柔らかい身体をもう一度抱き込んでベッドに潜る。
「嫌だぁ……っ、離してぇ……」
「朱志香様……僕は嘉哉といいます」
今にも泣き出しそうな顔をしていた朱志香がこちらを見上げる。
「よし……や……」
「あなたはこれからここで生きるのです。あなたを邪魔者扱いする奥様達の元になど……返しません」
びくんと彼女の身体が震えた。
「そんな……こと……」
「僕は……この世界ではかつてあなたの家具でした。けれど、あなたを守ることがとうとう出来なかった……だから、今度こそは守ってみせます。あなたを傷つける全てをこの手で葬り去りましょう。あなたがいつも笑っていられる世界を作りましょう。あなたのためなら僕は何でも出来る……だから」
全て本当のこと。
朱志香と結ばれて少し経った頃に、彼は突然解雇を言い渡された。
だから彼は魔女ベアトリーチェと化した朱志香を止めることが出来なかった。
朱志香の汚れのない心にどす黒いどろどろした憎しみが広がっていくのを止められなかった。
そして、朱志香の心を侵す全てのものから彼女を守りきることが出来なかった。
けれど、今度こそ朱志香を守りきってみせる。
彼女が望むならなんだって出来る。
彼女を傷つけるものはなんであろうと……例えそれが紗音であろうとも、嘉哉は葬り去れるだろう。
朱志香があの太陽のような微笑みをもう一度見せてくれるのならば、彼は魔女の爪先にだって躊躇なくキスできるだろう。
愛してください、と抱きしめた腕の中で朱志香が体を震わせた。
「嘉哉……さん……」
「朱志香……この世界であなたを失ってから、僕の時間はずっと止まったままでした……どうしようもなくあなたが欲しかった……」
それが今、彼女は彼の腕の中にいる。
確かに目の前にいる少女は嘉哉の世界の中にいた朱志香ではない。けれど、姿も、声も、匂いも、身に纏う雰囲気も朱志香のそれだ。
彼が偽書で描写した、ベアトリーチェを失って、新たなるベアトリーチェを創りだした右代宮戦人と同じシチュエーション。
けれど、それでも彼女が朱志香ではないと嘆くには、彼はあまりに朱志香を愛しすぎていた。
記憶の中で嘉哉くん、と笑う右代宮朱志香と寸分違わず、されど時間だけが違う彼女は、それでもやはり右代宮朱志香だったのだから。
「愛しているんです……あなたを、あなただけを愛しています……」
「嘉哉さん……」
背中に回されるしなやかな腕の感触に渇いた心が癒えていく。
「私……ここにいても、良いの……?」
「ここに……いてください……」
きつくきつく抱きしめて、漸く愛しい人が戻ってきた喜びに嘉哉は涙した。
暫くして朱志香が彼を嘉哉くんと呼ぶようになった頃、嘉哉は全てを話すことにした。
「朱志香、僕はずっと……朱志香の物語を書いていたんだ」
「私の……?」
「そう。前にも話したけど、朱志香はこの世界では死んだことになってる。絵羽様と、縁寿様を除いて」
「紗音や……譲治兄さんも?」
「そう。それと、……戦人様も」
あの日の新聞を見せる。12年前の10月6日の夕刊。
六軒島爆発事故。
伊豆諸島にある右代宮家所蔵の島で起きた爆発事故。
親族会議のために前々日から集まっていた当主・右代宮蔵臼を始めとする16人の生存は絶望的……。
その翌日の朝刊。
右代宮家本邸から離れた隠れ屋敷の地下で右代宮絵羽が見つかる。
そして、その数年後の日付の夕刊。
六軒島爆発事故の様子を描いたボトルメールが発見される。
「ボトルメール……?」
「そう、ボトルメール」
「ベアトリーチェのボトルメールのことか?」
それを聞いて、驚いた。
「知っているの?」
「だって……あれは……みんなが幸せになれる魔法を私が自分で書いたものだから……母さん達から邪魔者にされなくてすむ……愛のある世界を書いたものだから」
「碑文通りに殺人事件が起きるんだ……」
「碑文……殺人……!?そんな……碑文って、何のことだよ……それに、殺人……って……そんな、そんなの、私は書いた覚えがねぇぜ!」
そう言えばそうだ。碑文が飾られたのは朱志香が16歳の時だった。ちょうど今の彼女と同じ年頃だ。14で嘉哉の元に連れてこられた彼女が知るはずがない。
「碑文は金蔵様が当主選びのために作ったものなんだ。その碑文に沿って、13人が殺されて、遺った5人も最後は死んでしまう……そう言う内容なんだ」
「……犯人は、私……ベアトリーチェなのか?」
「ベアトリーチェだって、ボトルメールには書いてある……けれど、朱志香が犯人だって……手紙をくれて……」
「……見せてくれないか?」
手紙と真相の書かれたノートを渡す。彼女はそれを全て読むからと寝室に入っていってしまった。
「朱志香……」
碑文のことも、殺人のことも知らなくても、彼女は確かに朱志香だ。
だからこそ心配で心配で仕方ないのだ。
朱志香を自分の鳥籠の中に閉じこめたのに、それでもまだ死んだ戦人に彼女を攫われる不安に襲われる。
朱志香はお前のものではないと嘲笑われて彼女を攫われてしまう悪夢を彼はここ数日見ていたのだ。
だから、寝室にそっと入り込む。
「嘉哉くん……」
気付いた朱志香がこちらを向く。その眼には、涙。
「朱志香……!?」
「この世界の私……も、辛かったんだ……本当は殺したくなんて、なかっ……」
朱志香の頬を涙が伝う。
「朱志香……」
抱きしめると、彼の腕の中で朱志香は何度もしゃくり上げた。
「嘉哉くん……っ、私……」
「どこにも……どこにも行かないでください!」
言葉を遮ってもっときつく抱きしめる。
「嘉哉くん……」
「朱志香が戦人様を愛していたのは知ってます。でも……それでも、僕はあなたを……」
ぎゅ、としなやかな腕が抱き返す。
「うん……どこにも、行かない……」
大好きで、ずっとずっと聞きたくて、それでも朱志香がいない時には叶わなかった優しい声。
「だから……私を元の世界に帰さないで……私……白い魔女のままでいたい……」
「元の世界になんて返しません……ずっと、僕の傍にいてください……愛してるんです……朱志香」
「嘉哉くん……」
「事件当日、僕は島にいることが出来なかったんだ……」
「え……でも、嘉音くん、って嘉哉くんの事じゃ……」
「姉さんの……紗音の行動を半分削って、そこに僕を入れたんだ……朱志香が、僕を島にいさせてくれた」
「あ……」
「だから……僕は朱志香の物語を書き続けるんだ……だけど、朱志香が戦人様と愛し合うのを書くのが、辛くて……」
「嘉哉くん……大丈夫……大丈夫だよ……私はずっと傍にいるから……」
一番聞きたかった声。一番欲しかった言葉。
元のカケラがどうなろうと、嘉哉の知ったことではなかった。
何故なら、今この瞬間、朱志香は彼だけのものなのだから。
だから、腕の中の宝物を壊してしまわないように優しく抱きしめて口づけた。
「ん……っ」
「朱志香……愛してる。この世で一番愛してる……」
通販で買ったワンピースの胸元に手を這わせる。
「あ……っ、嘉哉くん……っ」
首筋に口づけて、重なる鼓動に酔いしれた。
朱志香と床を共にするのは10年ぶりだった。嘉哉の元で養育された腕の中の朱志香は相変わらず可愛らしくて、やっぱりもうどこにも帰したくなくなっていた。
思い返してみれば、朱志香はずっと嘉哉のことを気に掛けていた。それに応えなかったのは彼の罪。
贖罪のために朱志香を抱くわけではない。
けれど、密告されても傍にいることが出来なかったから事件が起こってしまったのかもしれないとずっと後悔してきた。
後で聞いたことだったが、2人のことを密告したのは紗音だった。
ずっと信頼していたけれど、しかし姉は譲治との結婚という誘惑には勝てなかったのだろう。
もともと、紗音と譲治、嘉音と朱志香の二組のうち、どちらかしか結ばれなかったのだ。右代宮家の当主候補は朱志香と譲治。しかし当主と結婚するのが使用人では親たちの収まりがつかなかったのだ。
だから紗音が譲治と結婚してしまえば嘉音は朱志香と結婚することは出来なくなる。だからといって朱志香が他の男と愛を育むのを見ているのも辛かった。だから島から出てしまったほうがましだと思った。
だが嘉音が朱志香と結婚できれば紗音が譲治と結婚することは出来なくなる。しかし紗音は元々本家のメイドだから、譲治と一年に一回だけ会って、諦めるだけですむのだ。
けれどその緊張状態は譲治と結婚したいがための紗音の行動で崩されてしまったのだ。
未発表の原稿に書いた紗音との決闘。
2人がもしも現実で決闘して、二人共が倒れてしまったとしても、朱志香は戦人と結婚して当主になるだろう。なぜなら彼女はベアトリーチェだから。実際朱志香の幸せを願って書いた本来の筋書きはその筈だった。
それなのに執筆中にどうしようもなく紗音が憎くなって、紗音の行動の全てを自分に書き換えたくなった。
朱志香を裏切り、嘉哉を裏切った紗音への恨みが爆発したのだ。
だからあの筋書きは彼の個人的な恨み故だと言える。
けれど、彼の敗北という現実に、嘉哉の妄想は勝つことが出来なかった。傍に朱志香がいなかったから。
紗音が勝った時点で朱志香は嘉音と愛し合うことが出来なくなって、結果ベアトリーチェとひとつになった。
もし密告されても朱志香を攫って島から出ていれば、こんな事件は起きなかったのかもしれない。
その苦い後悔が胸を満たす。
「嘉哉、くん……?」
不安そうな声にはっと現実に引き戻される。朱志香はワンピースが申し訳程度に腹に引っ掛かっているしどけない格好で、潤んだ目のままこちらを見ていた。
「どうしたの……」
「朱志香のこと、考えてた」
「この世界の私のこと?」
「うん……ずっと離さなければ事件が起きることもなかったかな、って」
「……わかんないけど……多分、私はそれでも事件を起こしたかもしれない」
「朱志香……」
腕の中にいる朱志香はずっと夏妃達から疎まれていた、とベルンカステルが言っていたか。
「私……母さん達に嫌われてるから……幾ら自分のことに精一杯がんばれるもう1人の自分を作っても、辛いものはやっぱり辛いんだぜ……?」
はらりと涙がこぼれ落ちる。
「もしかしたら愛されていたのかもしれない……でも、愛されているフリをして嫌われているのはもっと辛いから、そういう時はベアトに慰めて貰ったんだ……お母様、大丈夫ですよって」
待ち続けるのが辛くて、口約束をバカ正直に信じているのを大人達にバカにされて、それでも彼女は待っていたのだ。ベアトリーチェをイマジナリーフレンドとして創り出すことで、ずっと励まして貰ったり慰めて貰ったりしながら、待ち続けていたのだ。
「ねえ、嘉哉くん……」
「うん」
「本当はね、私も、この世界の右代宮朱志香も、戦人との約束なんて諦めかけていたのかもしれない。ベアトがいてくれたから、ずっと好きでいることが出来たのかもしれない。けど、多分、どうしようもない事情で諦めなきゃいけなかったのかもしれない……」
いとこ同士の結婚は可能だが、家が栄えないという理由で却下されたのかもしれない、と嘉哉はぼんやり思う。一度却下されてしまえば覆ることがないのが右代宮家。しかも戦人は朱志香の魔法を否定した。その辺りが彼女をベアトリーチェの母親たらしめる事情なのだろう。
「だけど……私、今は……嘉哉くんの傍にいたい」
「朱志香……」
「もうこの世界で戦人が迎えに来てくれることはないし、このまま母さん達のところに戻っても戦人と恋することは出来ないんだ……それに、嘉哉くんを、幸せにしたい……」
その一言が嬉しかった。
彼女の華奢な身体を抱きしめる。
「朱志香……、大好きです、あなたが……あなただけが……っ」
「よしや、くん……っ、わたしも、好きぃ……っ」
12年越しの想い。それはずっと叶わないと想っていた。
この世に真の意味での魔女が存在するならば、それは朱志香と再び心を通わせる奇跡を起こしてくれたベルンカステルが適当なのだろう。
いや、奇跡を起こした自分たちと見るべきか。
ともあれこうして再び朱志香は彼の鳥籠へと囚われる。
温かな身体を腕の中に抱きしめて、嘉哉は幸せのうちに目を閉じた。
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