ここは「花待館」の別館となっています。非公式で「うみねこのなく頃に」「テイルズオブエクシリア」「ファイナルファンタジー(13・零式)」「刀剣乱舞」の二次創作SSを掲載しています。
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変態嘉音くんシリーズ第5弾(多分)です。今回一応の進展はあるのですが、相変わらず嘉音くんが変態です。
格好いい嘉音くんがお好きな方はご注意ください。最初から最後まで変態です。
では、どうぞ。
世界は虹色お花畑
格好いい嘉音くんがお好きな方はご注意ください。最初から最後まで変態です。
では、どうぞ。
世界は虹色お花畑
某月某日、晴れ。
僕の朱志香は今日も可愛い。
この間譲治様とラブラブデートに行って来たらしい紗音が買ってきたワンピースを着て鏡の前でくるっと回ってみる辺りなど鼻血ものだ。そういえば最近僕の朱志香が僕のことを自然に「嘉哉くん」と呼んでくれるようになった。とてもとても嬉しい。
あと今日は僕のために手作りクッキーを持ってきてくれた。
きっと朱志香は慣れない料理に四苦八苦したりチョコレートをあの真っ白な頬に飛び散らせたりして僕のために頑張ってくれたんだと感動した。ほんのちょっとビターなチョコレートクッキーも朱志香が作ったということそれだけで最高のお茶菓子になった。
そんなわけで僕は今日も元気です。
世界は虹色お花畑
その日、嘉音は上機嫌であった。どのくらい上機嫌かというと、鼻歌を歌いながら廊下をスキップで走っていくぐらいの上機嫌である。
本人としては目の前にお花畑が広がっていて、そこで白いひらひらワンピースを着た朱志香がにこにこ笑っているぐらいの情景が見えている。
いつもは(自称)クールで(自称)真面目な(自称)家具の彼がこんなにも上機嫌、いや、浮かれている原因は先日晴れて恋人になった右代宮家の令嬢・朱志香から貰ったチョコレートクッキーにある。
「朱志香の手作り……僕だけにくれた朱志香の手作りクッキー……早く食べたい……」
仕事があるのをこんなにも苦々しく思った日があっただろうか、と考えて、そういえば朱志香と恋仲になってからはいつものことだったと思い出す。家具として、勿論使用人としても失格だが、そんなことに構っている嘉音ではない。
彼の頭の中を染め上げているのは勿論朱志香のクッキーである。
「はぁ……朱志香に食べさせて貰いたい……」
そう思えばたちまち嘉音の脳内ではとんでもない妄想が展開されるわけである。ただし、本人としてはその光景は朱志香との逢い引きのイメージトレーニングであり、決して妄想などではないと思っている。
『嘉哉くん……』
襟元と胸元、袖口にフリル、胸元と袖口に黒いリボンの付いたエプロンドレスを着て黒いニーソックスを同色のガーターベルトでつり上げた朱志香がクッキーの小袋を持って恥ずかしそうに見つめてくれる。
『朱志香……よくお似合いです……』
『そ、そうかな……』
はい、と頷けば朱志香は途端に頬を染めて恥ずかしそうに笑う。
『こんなフリルふりふりでリボンひらひら満載の服は似合わないかなと思ったんだけど……嘉哉くん、こういうの好きだろ?』
パニエの仕込まれた黒いスカートが、エプロンの縁に縫いつけられたフリルがゆらゆらと揺れる。可愛い。実に可愛い。
『朱志香には何でも似合いますよ?僕はメイド服じゃなくて朱志香が好きなんです!』
『嘉哉くん……!』
潤んだ瞳で朱志香が見上げてくる。嘉音も優しく見つめ返す。
『私も……嘉哉くんのことが大好きだぜ!』
『朱志香……!』
ぎゅう、とだきしめてふわふわ揺れる金髪に顔を埋める。いい匂いがする。
『よ……嘉哉くん……』
『はい……』
『クッキー、今日の調理実習で作ったの……食べて……』
それがあらぬ意味に聞こえて嘉音は思わず聞き返す。
『食べて……いいんですか?』
『だって、そのためにクッキー沢山作ったんだぜ?』
『僕の、ために……?』
『うん……』
暫く見つめ合って、嘉音は朱志香の頬に手を添える。すべすべしていて気持ちいい。
『朱志香、僕に食べさせてください』
彼女の頬が真っ赤に染まる。
『え……』
『朱志香に、食べさせて貰いたいんです』
耳まで真っ赤に染めて、朱志香はこくんと頷いた。綺麗にラッピングされた小袋からチョコレートクッキーを一枚取りだし、嘉音の口許に近づける。
『はい、あ~ん……』
さく、と囓ったクッキーはチョコレートだった。少しビターな味わいがたまらない。
『美味しいです、朱志香……』
『あ、もう一枚、いる……?』
同じようにクッキーを差し出してくるのをやんわりと制止して、彼女の手からクッキーを取り上げると桜色の柔らかい唇に挟ませる。
『ん……?』
『朱志香、愛しています……』
そうして、顔がゆっくりと近づいてゆく。クッキー、いや、朱志香の唇まであと数センチ……。
べしょん。
愛しい朱志香の唇に触れたと思ったら嘉音は絨毯に思い切り倒れ込んだ。妄想に浸っていたため、当然ではあるがどこも庇わずに顔から突っ込んでゆく。
「痛い……鼻が痛い……」
あくまで痛いのは自分の妄想ではなく思い切りぶつけた鼻である。普段ならここでのろのろと起きあがって妄想を再開するのだが、今日の嘉音は違う。クッキーが壊れたりしていないかを慌てて確かめて、ひびすら入っていないことを認めると安堵のため息を吐き出した。
「よかった……」
ゆっくり立ち上がって嘉音は今度こそ仕事場へと駆けていった。
突然だが、使用人室に常備してあるお茶は部屋の主である使用人達が買ってきたものが大半である。大体それは各自の好みによって某有名メーカーのティーバッグであったり、近所のスーパーでタイムセールだった茶葉であったり、はたまた自分でブレンドした茶葉だったりするのだが、たまに家人が買ってきてくれた茶葉というものも存在する。そして本日使用人室に置いてあるのは、朱志香がわざわざ買ってきてくれたダージリンであった。
ようやく休憩時間になった嘉音はその缶を取りだして頬ずりする。
「朱志香のお茶……」
彼はこの茶葉をほぼ自分1人で飲んできた。たまに紗音あたりが飲むと盛大なケンカを繰り広げて源次に雷を落とされたこともある。朱志香が使用人室を訪れたときには必ずこの茶葉を淹れたが、それ以外は死守してきた。理由はいたってシンプルで、朱志香がくれた茶葉だからという公私混同も甚だしいものである。
缶から茶葉を出して慣れた手つきで1人分の茶を淹れると鼻歌交じりにソファに座ってクッキーを囓る。ビターチョコレートとバニラエッセンスのハーモニーがとても美味しい。
「朱志香のクッキー……美味しい……」
紅茶を一口啜って朱志香と結婚を前提としたお付き合いを本当に始めたのだなぁと嘉音は感慨に耽った。少々愛が重すぎるようなところも否めないが、誰も彼を責められはしないだろう。使用人室には今この瞬間、嘉音以外に誰もいないのだから。
「……ん?結婚を前提としたお付き合い……ということは」
嘉音はそのフレーズだけを口に出して、しばし愕然とした。
結婚を前提としたお付き合い。
それはなんという甘い言葉であろうか。
愛し合う恋人達の普遍的な誓いではあるが、如何せん自分はしがない使用人で朱志香は令嬢である。身分の差としては天と地ほどの開きがある。
そして朱志香は優しく明るく美しい少女だ。群がる男という名の狼など星の数ほどいるだろう。その中で嘉音より身分の高い男など沢山いるだろう。
「……指輪、早い所渡して僕と結婚して貰おう……」
恋煩いの狼には相変わらず法律の壁など見えていないのであった。
「嘉音くん、お洗濯もの畳んでちょうだい」
休憩時間が終わるや否や紗音が洗濯物を持って使用人室に入ってきた。早速嘉音はふて腐れる。洗濯物がまるでバベルの塔かと思わんばかりに積み上げられていたからである。
「姉さん……これ、多くない?」
「しょうがないでしょ、このところお天気が悪かったんだから。ほら、お嬢様のお洋服もあるから畳んでちょうだい」
「お嬢様の……僕の朱志香の……」
洗濯物を畳みながら嘉音はついつい妄想の世界に飛んで行く。
『嘉哉くん、洗濯物、持ってきてくれたんだ……ありがとう』
朱志香に洗濯物を渡すと、彼女は恥ずかしそうに笑う。
『いえ、僕が朱志香の洗濯物を畳みたかったんです』
きっちり畳まれた洗濯物に朱志香は頬を埋めて、うん、と小さな声で頷く。
『きれいに畳んでくれて……凄く嬉しいよ、嘉哉くん』
『朱志香……』
『わ、私も……その、嘉哉くんの洗濯物、きれいに畳めたらいいんだけど……』
しゅんと項垂れる彼女を引き寄せて腕の中に閉じこめる。
『大丈夫です。僕がちゃんと付いていますから……』
『嘉哉くん……』
うるうると潤んだ瞳で見つめられて、嘉音の鼓動は高鳴るばかり。今すぐいちゃつきたいのを抑えて朱志香の耳元で囁いた。
『朱志香……結婚してください』
『……はい……』
「朱志香ラ~ブ!」
思い余って叫んだ嘉音の横っ面をタオルが張った。
「痛いじゃないか姉さん!」
「五月蝿いわよ、嘉音くん?しっかりお仕事なさい?」
「いいじゃないか少しぐらい!姉さんだってたまに『譲治様ラ~ブ!』って叫んでるじゃないか!」
あんまりにあんまりなので紗音に抗議すると、彼女はきっ、と睨み付けてくる。
「休憩中に叫ぶからいいの!っていうか、お仕事ぐらいちゃんとやってよ!お嬢様に言いつけるからね!」
「お嬢様はそれでも僕を愛してくれるもん!」
そう叫ぶと、姉は露骨に変なものを見るような顔になった。
「ねぇ、嘉音くん……それ、愛が重すぎるんじゃない?」
重いとは失礼な、と嘉音は憤った。が、自分の手の中にある朱志香のハンカチを見て、途端に顔が緩む。
「これ、僕がプレゼントしたハンカチだ……やっぱり僕と朱志香はラブラブなんだ……」
「……嘉音くん、床に垂らした涎、ちゃんと拭いてね?」
紗音が呆れたように零した呟きは、勿論嘉音の耳には届いていなかった。
本日の仕事があらかた終わり、夜勤でもないので嘉音は朱志香の部屋のベッドの中にいた。むろん無許可である。朱志香の香りに包まれて、嘉音は実に上機嫌であった。ちなみに朱志香本人は現在シャワーを浴びている。
しかもこのベッドはシャワーから上がった朱志香が寝る場所である。
『あ……あの、嘉哉くん』
目を閉じればネグリジェ姿の朱志香が嘉音の胸にもたれかかる。その細い肩を抱いて返事をする。
『どうしましたか?』
『あの……その……ここにいて、平気なの?』
彼女の頬はリンゴのように赤い。それがまた可愛らしくて、口元が自然と緩む。
『はい。今日は夜勤もありませんから』
『そっか……』
嬉しそうに身体をすり寄せる朱志香をぎゅっと抱きしめて、ふわふわの髪を梳く。
『朱志香……今晩はあなたの傍で過ごしてもいいですか?』
『うん……』
ふわりと微笑む彼女があんまりにも可愛らしくて、ついつい理性のタガが外れる。柔らかい身体を押し倒すと、朱志香の頬がもっと赤く染まった。
『嘉哉、君……?』
『大好きです、朱志香……』
ちゅ、と触れるだけの口付けを落として覆い被さる。
『嘉哉くん……私も、大好きだぜ……』
朱志香の腕が嘉音の背中に回される。
『よろしいですか……?』
『ん……』
そうしてもう一度、二人の唇が重なった。
「嘉哉くん……」
「朱志香……」
「何やってるの……?」
「じぇ、朱志香っ!?」
はっ、と目を開ければ、呆然と目を見開いた朱志香がそこにいた。朱志香にはいい所を見せたい、というのが嘉音の心情なので、言い訳にもならない言い訳を自信満々でする。こうなっては嘉音はもう問題児でしかない。
「朱志香のベッドを温めておこうと思いまして」
「……」
「あと、僕、今日ここで寝たかったんです!」
「……」
朱志香は呆然としたまま何も言わない。暫く見つめ合っていると、彼女はくるりと嘉音に背を向けた。
「じぇ、朱志香?」
「ごめん、今日私母さんのところで寝るね……嘉哉くん、そこで寝たいんでしょ?」
「ち、違うんです、違うんです、朱志香っ!」
「だって……現に寝てるし……」
嘉音はそこで自分がまだ朱志香のベッドの中にいた事実を知る。慌てて抜け出してぱたぱたと歩き出す朱志香の後ろ姿を追いかけて、叫ぶ。
「朱志香ぁぁ!愛しているんだぁぁぁぁっ!」
ぴた、と朱志香の足が止まる。後ろから彼女を抱きしめて耳元で囁いた。
「今晩は朱志香の抱き枕になりたかったんです……勝手にベッドの中に潜り込んだりしてすみませんでした」
彼女が振り返って嘉音を見つめる。
「寝てる間に……変な事しない……?」
「し、しません!」
本当は変なことをしたい。もの凄くしたい。けれども寝ている間にそんなことをするのは朱志香の愛を信頼していないように思えて、彼は泣く泣くそう誓った。
「嘉哉くん」
「はい」
頬にちゅ、と柔らかいものが触れた。はっとして朱志香の顔を見れば、彼女は頬を赤く染めて微笑んでいる。
「大好き!」
その笑顔があまりに眩しくて、美しくて、今日はとても良い日だったと嘉音は本気で思ったのだった。
六軒島はいつもと変わらない暮らしが続いている。でも、僕の目に映る景色は全く違う。
僕の朱志香さえそこにいれば世界は一面お花畑。
クッキー貰ったり紅茶貰ったり、朱志香の抱き枕になったりして、今日も僕は元気です。
僕の朱志香さえいればその他の有象無象は背景に過ぎないのだから!
「誰が有象無象ですって?」
地の底からはい上がってきたような声を耳にして振り返れば、空恐ろしい微笑みを浮かべた紗音が立っていた。
「え、僕と朱志香以外の万物に決まってr……」
「ねえ嘉音くん、私と譲治様は有象無象じゃないわよねぇ?」
「何を言ってるの姉さん、有象無象に決まってるじゃないk……」
そこで嘉音はようやく気付く。紗音が振り上げた花瓶に気付く。
「よくも私の譲治様を有象無象にしてくれたわねぇぇぇぇぇぇっ!」
「ぎゃああああああああああっ!」
が、いくら待っても予想した痛みは来なかった。恐る恐る目を開けると、朱志香が紗音を一生懸命取り押さえている。
「しゃ、紗音、ダメだ、そういうことしちゃダメだ!」
「いいえお嬢様、止めないでください!嘉音くんはここでしっかり躾ておかないと社会に出せないんです!」
「そ、それは……」
「お嬢様は嘉音くんが将来引きこもりのニートになっちゃってもいいんですか?」
「いや、それは良くないけど……」
紗音は再び花瓶を振り上げる。
「ひぃっ!」
「紗音、それどっかで見たと思ったら母さんの花瓶!高いらしいから割ったらやばいって!」
「えっ!?奥様の花瓶!?」
紗音が花瓶をあわあわと戻しに行き、ようやく花瓶の恐怖から解放される。
「朱志香、ありがとうございます」
「いや、いいんだ。偶然通りかかったから……」
そう照れる朱志香のスカートの裾が揺れる。赤い布に隠された白い下着が見えて、気付いたときには嘉音は感想を漏らしていた。
「朱志香……今日のお下着は白なんですね……可愛いです」
すうっと朱志香が真顔に戻る。
「嘉哉くん」
「はい」
「立って」
言われたとおりに立つと、朱志香が手を振り上げた。
「嘉哉くんのバカぁぁぁっ!」
ぱぁん、と小気味よい音が響いた。
魔女の棋譜
使用人・嘉音
事件前に死亡(?)
発見当時、嬉しそうな顔で鼻から血を大量に流していたため、死因は大量出血と見られる。傍には血文字で相合い傘が書かれており、傘の下には「よしや」「じぇしか」と書かれていた。
思っても言って良いことと悪いことがあるという良い見本だと思われる。本当に彼の頭はお花畑だったようだ。
「あんな事言うんだから、もう嘉哉くんのバカっ!」(by朱志香)
僕の朱志香は今日も可愛い。
この間譲治様とラブラブデートに行って来たらしい紗音が買ってきたワンピースを着て鏡の前でくるっと回ってみる辺りなど鼻血ものだ。そういえば最近僕の朱志香が僕のことを自然に「嘉哉くん」と呼んでくれるようになった。とてもとても嬉しい。
あと今日は僕のために手作りクッキーを持ってきてくれた。
きっと朱志香は慣れない料理に四苦八苦したりチョコレートをあの真っ白な頬に飛び散らせたりして僕のために頑張ってくれたんだと感動した。ほんのちょっとビターなチョコレートクッキーも朱志香が作ったということそれだけで最高のお茶菓子になった。
そんなわけで僕は今日も元気です。
世界は虹色お花畑
その日、嘉音は上機嫌であった。どのくらい上機嫌かというと、鼻歌を歌いながら廊下をスキップで走っていくぐらいの上機嫌である。
本人としては目の前にお花畑が広がっていて、そこで白いひらひらワンピースを着た朱志香がにこにこ笑っているぐらいの情景が見えている。
いつもは(自称)クールで(自称)真面目な(自称)家具の彼がこんなにも上機嫌、いや、浮かれている原因は先日晴れて恋人になった右代宮家の令嬢・朱志香から貰ったチョコレートクッキーにある。
「朱志香の手作り……僕だけにくれた朱志香の手作りクッキー……早く食べたい……」
仕事があるのをこんなにも苦々しく思った日があっただろうか、と考えて、そういえば朱志香と恋仲になってからはいつものことだったと思い出す。家具として、勿論使用人としても失格だが、そんなことに構っている嘉音ではない。
彼の頭の中を染め上げているのは勿論朱志香のクッキーである。
「はぁ……朱志香に食べさせて貰いたい……」
そう思えばたちまち嘉音の脳内ではとんでもない妄想が展開されるわけである。ただし、本人としてはその光景は朱志香との逢い引きのイメージトレーニングであり、決して妄想などではないと思っている。
『嘉哉くん……』
襟元と胸元、袖口にフリル、胸元と袖口に黒いリボンの付いたエプロンドレスを着て黒いニーソックスを同色のガーターベルトでつり上げた朱志香がクッキーの小袋を持って恥ずかしそうに見つめてくれる。
『朱志香……よくお似合いです……』
『そ、そうかな……』
はい、と頷けば朱志香は途端に頬を染めて恥ずかしそうに笑う。
『こんなフリルふりふりでリボンひらひら満載の服は似合わないかなと思ったんだけど……嘉哉くん、こういうの好きだろ?』
パニエの仕込まれた黒いスカートが、エプロンの縁に縫いつけられたフリルがゆらゆらと揺れる。可愛い。実に可愛い。
『朱志香には何でも似合いますよ?僕はメイド服じゃなくて朱志香が好きなんです!』
『嘉哉くん……!』
潤んだ瞳で朱志香が見上げてくる。嘉音も優しく見つめ返す。
『私も……嘉哉くんのことが大好きだぜ!』
『朱志香……!』
ぎゅう、とだきしめてふわふわ揺れる金髪に顔を埋める。いい匂いがする。
『よ……嘉哉くん……』
『はい……』
『クッキー、今日の調理実習で作ったの……食べて……』
それがあらぬ意味に聞こえて嘉音は思わず聞き返す。
『食べて……いいんですか?』
『だって、そのためにクッキー沢山作ったんだぜ?』
『僕の、ために……?』
『うん……』
暫く見つめ合って、嘉音は朱志香の頬に手を添える。すべすべしていて気持ちいい。
『朱志香、僕に食べさせてください』
彼女の頬が真っ赤に染まる。
『え……』
『朱志香に、食べさせて貰いたいんです』
耳まで真っ赤に染めて、朱志香はこくんと頷いた。綺麗にラッピングされた小袋からチョコレートクッキーを一枚取りだし、嘉音の口許に近づける。
『はい、あ~ん……』
さく、と囓ったクッキーはチョコレートだった。少しビターな味わいがたまらない。
『美味しいです、朱志香……』
『あ、もう一枚、いる……?』
同じようにクッキーを差し出してくるのをやんわりと制止して、彼女の手からクッキーを取り上げると桜色の柔らかい唇に挟ませる。
『ん……?』
『朱志香、愛しています……』
そうして、顔がゆっくりと近づいてゆく。クッキー、いや、朱志香の唇まであと数センチ……。
べしょん。
愛しい朱志香の唇に触れたと思ったら嘉音は絨毯に思い切り倒れ込んだ。妄想に浸っていたため、当然ではあるがどこも庇わずに顔から突っ込んでゆく。
「痛い……鼻が痛い……」
あくまで痛いのは自分の妄想ではなく思い切りぶつけた鼻である。普段ならここでのろのろと起きあがって妄想を再開するのだが、今日の嘉音は違う。クッキーが壊れたりしていないかを慌てて確かめて、ひびすら入っていないことを認めると安堵のため息を吐き出した。
「よかった……」
ゆっくり立ち上がって嘉音は今度こそ仕事場へと駆けていった。
突然だが、使用人室に常備してあるお茶は部屋の主である使用人達が買ってきたものが大半である。大体それは各自の好みによって某有名メーカーのティーバッグであったり、近所のスーパーでタイムセールだった茶葉であったり、はたまた自分でブレンドした茶葉だったりするのだが、たまに家人が買ってきてくれた茶葉というものも存在する。そして本日使用人室に置いてあるのは、朱志香がわざわざ買ってきてくれたダージリンであった。
ようやく休憩時間になった嘉音はその缶を取りだして頬ずりする。
「朱志香のお茶……」
彼はこの茶葉をほぼ自分1人で飲んできた。たまに紗音あたりが飲むと盛大なケンカを繰り広げて源次に雷を落とされたこともある。朱志香が使用人室を訪れたときには必ずこの茶葉を淹れたが、それ以外は死守してきた。理由はいたってシンプルで、朱志香がくれた茶葉だからという公私混同も甚だしいものである。
缶から茶葉を出して慣れた手つきで1人分の茶を淹れると鼻歌交じりにソファに座ってクッキーを囓る。ビターチョコレートとバニラエッセンスのハーモニーがとても美味しい。
「朱志香のクッキー……美味しい……」
紅茶を一口啜って朱志香と結婚を前提としたお付き合いを本当に始めたのだなぁと嘉音は感慨に耽った。少々愛が重すぎるようなところも否めないが、誰も彼を責められはしないだろう。使用人室には今この瞬間、嘉音以外に誰もいないのだから。
「……ん?結婚を前提としたお付き合い……ということは」
嘉音はそのフレーズだけを口に出して、しばし愕然とした。
結婚を前提としたお付き合い。
それはなんという甘い言葉であろうか。
愛し合う恋人達の普遍的な誓いではあるが、如何せん自分はしがない使用人で朱志香は令嬢である。身分の差としては天と地ほどの開きがある。
そして朱志香は優しく明るく美しい少女だ。群がる男という名の狼など星の数ほどいるだろう。その中で嘉音より身分の高い男など沢山いるだろう。
「……指輪、早い所渡して僕と結婚して貰おう……」
恋煩いの狼には相変わらず法律の壁など見えていないのであった。
「嘉音くん、お洗濯もの畳んでちょうだい」
休憩時間が終わるや否や紗音が洗濯物を持って使用人室に入ってきた。早速嘉音はふて腐れる。洗濯物がまるでバベルの塔かと思わんばかりに積み上げられていたからである。
「姉さん……これ、多くない?」
「しょうがないでしょ、このところお天気が悪かったんだから。ほら、お嬢様のお洋服もあるから畳んでちょうだい」
「お嬢様の……僕の朱志香の……」
洗濯物を畳みながら嘉音はついつい妄想の世界に飛んで行く。
『嘉哉くん、洗濯物、持ってきてくれたんだ……ありがとう』
朱志香に洗濯物を渡すと、彼女は恥ずかしそうに笑う。
『いえ、僕が朱志香の洗濯物を畳みたかったんです』
きっちり畳まれた洗濯物に朱志香は頬を埋めて、うん、と小さな声で頷く。
『きれいに畳んでくれて……凄く嬉しいよ、嘉哉くん』
『朱志香……』
『わ、私も……その、嘉哉くんの洗濯物、きれいに畳めたらいいんだけど……』
しゅんと項垂れる彼女を引き寄せて腕の中に閉じこめる。
『大丈夫です。僕がちゃんと付いていますから……』
『嘉哉くん……』
うるうると潤んだ瞳で見つめられて、嘉音の鼓動は高鳴るばかり。今すぐいちゃつきたいのを抑えて朱志香の耳元で囁いた。
『朱志香……結婚してください』
『……はい……』
「朱志香ラ~ブ!」
思い余って叫んだ嘉音の横っ面をタオルが張った。
「痛いじゃないか姉さん!」
「五月蝿いわよ、嘉音くん?しっかりお仕事なさい?」
「いいじゃないか少しぐらい!姉さんだってたまに『譲治様ラ~ブ!』って叫んでるじゃないか!」
あんまりにあんまりなので紗音に抗議すると、彼女はきっ、と睨み付けてくる。
「休憩中に叫ぶからいいの!っていうか、お仕事ぐらいちゃんとやってよ!お嬢様に言いつけるからね!」
「お嬢様はそれでも僕を愛してくれるもん!」
そう叫ぶと、姉は露骨に変なものを見るような顔になった。
「ねぇ、嘉音くん……それ、愛が重すぎるんじゃない?」
重いとは失礼な、と嘉音は憤った。が、自分の手の中にある朱志香のハンカチを見て、途端に顔が緩む。
「これ、僕がプレゼントしたハンカチだ……やっぱり僕と朱志香はラブラブなんだ……」
「……嘉音くん、床に垂らした涎、ちゃんと拭いてね?」
紗音が呆れたように零した呟きは、勿論嘉音の耳には届いていなかった。
本日の仕事があらかた終わり、夜勤でもないので嘉音は朱志香の部屋のベッドの中にいた。むろん無許可である。朱志香の香りに包まれて、嘉音は実に上機嫌であった。ちなみに朱志香本人は現在シャワーを浴びている。
しかもこのベッドはシャワーから上がった朱志香が寝る場所である。
『あ……あの、嘉哉くん』
目を閉じればネグリジェ姿の朱志香が嘉音の胸にもたれかかる。その細い肩を抱いて返事をする。
『どうしましたか?』
『あの……その……ここにいて、平気なの?』
彼女の頬はリンゴのように赤い。それがまた可愛らしくて、口元が自然と緩む。
『はい。今日は夜勤もありませんから』
『そっか……』
嬉しそうに身体をすり寄せる朱志香をぎゅっと抱きしめて、ふわふわの髪を梳く。
『朱志香……今晩はあなたの傍で過ごしてもいいですか?』
『うん……』
ふわりと微笑む彼女があんまりにも可愛らしくて、ついつい理性のタガが外れる。柔らかい身体を押し倒すと、朱志香の頬がもっと赤く染まった。
『嘉哉、君……?』
『大好きです、朱志香……』
ちゅ、と触れるだけの口付けを落として覆い被さる。
『嘉哉くん……私も、大好きだぜ……』
朱志香の腕が嘉音の背中に回される。
『よろしいですか……?』
『ん……』
そうしてもう一度、二人の唇が重なった。
「嘉哉くん……」
「朱志香……」
「何やってるの……?」
「じぇ、朱志香っ!?」
はっ、と目を開ければ、呆然と目を見開いた朱志香がそこにいた。朱志香にはいい所を見せたい、というのが嘉音の心情なので、言い訳にもならない言い訳を自信満々でする。こうなっては嘉音はもう問題児でしかない。
「朱志香のベッドを温めておこうと思いまして」
「……」
「あと、僕、今日ここで寝たかったんです!」
「……」
朱志香は呆然としたまま何も言わない。暫く見つめ合っていると、彼女はくるりと嘉音に背を向けた。
「じぇ、朱志香?」
「ごめん、今日私母さんのところで寝るね……嘉哉くん、そこで寝たいんでしょ?」
「ち、違うんです、違うんです、朱志香っ!」
「だって……現に寝てるし……」
嘉音はそこで自分がまだ朱志香のベッドの中にいた事実を知る。慌てて抜け出してぱたぱたと歩き出す朱志香の後ろ姿を追いかけて、叫ぶ。
「朱志香ぁぁ!愛しているんだぁぁぁぁっ!」
ぴた、と朱志香の足が止まる。後ろから彼女を抱きしめて耳元で囁いた。
「今晩は朱志香の抱き枕になりたかったんです……勝手にベッドの中に潜り込んだりしてすみませんでした」
彼女が振り返って嘉音を見つめる。
「寝てる間に……変な事しない……?」
「し、しません!」
本当は変なことをしたい。もの凄くしたい。けれども寝ている間にそんなことをするのは朱志香の愛を信頼していないように思えて、彼は泣く泣くそう誓った。
「嘉哉くん」
「はい」
頬にちゅ、と柔らかいものが触れた。はっとして朱志香の顔を見れば、彼女は頬を赤く染めて微笑んでいる。
「大好き!」
その笑顔があまりに眩しくて、美しくて、今日はとても良い日だったと嘉音は本気で思ったのだった。
六軒島はいつもと変わらない暮らしが続いている。でも、僕の目に映る景色は全く違う。
僕の朱志香さえそこにいれば世界は一面お花畑。
クッキー貰ったり紅茶貰ったり、朱志香の抱き枕になったりして、今日も僕は元気です。
僕の朱志香さえいればその他の有象無象は背景に過ぎないのだから!
「誰が有象無象ですって?」
地の底からはい上がってきたような声を耳にして振り返れば、空恐ろしい微笑みを浮かべた紗音が立っていた。
「え、僕と朱志香以外の万物に決まってr……」
「ねえ嘉音くん、私と譲治様は有象無象じゃないわよねぇ?」
「何を言ってるの姉さん、有象無象に決まってるじゃないk……」
そこで嘉音はようやく気付く。紗音が振り上げた花瓶に気付く。
「よくも私の譲治様を有象無象にしてくれたわねぇぇぇぇぇぇっ!」
「ぎゃああああああああああっ!」
が、いくら待っても予想した痛みは来なかった。恐る恐る目を開けると、朱志香が紗音を一生懸命取り押さえている。
「しゃ、紗音、ダメだ、そういうことしちゃダメだ!」
「いいえお嬢様、止めないでください!嘉音くんはここでしっかり躾ておかないと社会に出せないんです!」
「そ、それは……」
「お嬢様は嘉音くんが将来引きこもりのニートになっちゃってもいいんですか?」
「いや、それは良くないけど……」
紗音は再び花瓶を振り上げる。
「ひぃっ!」
「紗音、それどっかで見たと思ったら母さんの花瓶!高いらしいから割ったらやばいって!」
「えっ!?奥様の花瓶!?」
紗音が花瓶をあわあわと戻しに行き、ようやく花瓶の恐怖から解放される。
「朱志香、ありがとうございます」
「いや、いいんだ。偶然通りかかったから……」
そう照れる朱志香のスカートの裾が揺れる。赤い布に隠された白い下着が見えて、気付いたときには嘉音は感想を漏らしていた。
「朱志香……今日のお下着は白なんですね……可愛いです」
すうっと朱志香が真顔に戻る。
「嘉哉くん」
「はい」
「立って」
言われたとおりに立つと、朱志香が手を振り上げた。
「嘉哉くんのバカぁぁぁっ!」
ぱぁん、と小気味よい音が響いた。
魔女の棋譜
使用人・嘉音
事件前に死亡(?)
発見当時、嬉しそうな顔で鼻から血を大量に流していたため、死因は大量出血と見られる。傍には血文字で相合い傘が書かれており、傘の下には「よしや」「じぇしか」と書かれていた。
思っても言って良いことと悪いことがあるという良い見本だと思われる。本当に彼の頭はお花畑だったようだ。
「あんな事言うんだから、もう嘉哉くんのバカっ!」(by朱志香)
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