ここは「花待館」の別館となっています。非公式で「うみねこのなく頃に」「テイルズオブエクシリア」「ファイナルファンタジー(13・零式)」「刀剣乱舞」の二次創作SSを掲載しています。
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お久しぶりです。やっと完成しました。
理御さんが暴れまくっております。
そんなわけでどうぞ。
注意
・嘉音くんが変態です。
・理御さんも変態です。
・金蔵さんが可哀想です。
そんな感じのお話しです。
帰ってきた風雲児? 後編
理御さんが暴れまくっております。
そんなわけでどうぞ。
注意
・嘉音くんが変態です。
・理御さんも変態です。
・金蔵さんが可哀想です。
そんな感じのお話しです。
帰ってきた風雲児? 後編
「お祖父さま、何やってるんですか。朱志香に見合い?何ですかこれ、全部却下です!」
いきなり書斎にずかずかと入ってきた揚げ句、孫娘にと寄せられた見合い写真の束を一つずつ引きちぎる次期当主を右代宮金蔵は為す術もなく見つめていた。
「あ、あの……理御?そこ、ワシの椅子……」
「知りませんよそんなの。こんなどこぞの馬の骨の写真なんて持ってくる方が悪いんです!」
理御はこともなげにそう返してまた一つ写真をゴミへと変えた。
びりびり。ぐしゃり。べきっ。
そんな音を立てていろんな名家のご子息が映し出された写真達が見るも無惨な紙くずへと変わっていく。
「おおベアトリーチェ……ワシはこういうときどうしたらいいのだろうな……育て方間違えたかもしれん……」
金蔵は悲しげに呟く。
愛用している椅子から追い出され、占領された。金蔵は絨毯の上で呆然と見守っているほかない。
神聖な書斎をゴミでいっぱいにされた。しかもきっと持って帰ってくれないだろう。
哀しみのあまり、金蔵は叫んだ。
「こんな次期当主に育つなんて……おじいちゃん悲ちい!」
帰ってきた風雲児? 後編
プールから帰ってきた朱志香と嘉音は屋敷の中が騒然としているのに気がついた。
「なんだろ……?」
「お館様の悲鳴が聞こえるのは僕の空耳ですかね?」
2人は顔を見合わせて、金蔵の部屋を訪ねることに決めた。
「祖父さま、入れてくれるかな……?」
「朱志香さんを入れないなんてことはありませんよ。この間なんか魔術の研究そっちのけでドレスの型紙起こしてましたし」
「祖父さま……」
呆気にとられたような顔の朱志香の手を引いて、嘉音は歩き出した。
「そんなわけで行きましょうか」
「う、うん!」
そんな若い恋人達を、熊沢は柱の陰から見守っていた。
「おいたわしやお嬢様……これからお二人に訪れる苦難など知るよしもなく……ああなんとおいたわしや……」
なにしろあの2人は恋人といえども使用人と令嬢。いくら好き合っているからといってそう易々と結ばれるはずがない。
可能性がないわけではないが、反対勢力が多すぎるのだ。
それを知っている熊沢は2人の幸せを願いつつ、2人を襲うであろう苦難を思って溜息を吐いた。
足下で鯖がびちびちと跳ねている。
それを見ながら源次は溜息を吐いた。
「熊沢。仕事をしなさい」
「ほっほっほ、今はちょうど休憩をしていたところでございますよ、ええ」
「……仕事をしなさい」
「祖父さま~……?」
金蔵の書斎の前で朱志香は遠慮がちに声を掛けた。何やら泣き叫ぶ声が聞こえたからである。
「何かあったんですかね?」
「いつもとは違うよなぁ……?」
中からは相変わらず金蔵の泣き声が聞こえる。
「ベアトリーチェぇぇぇ!何故に次期当主がこんなのになってしまったのだ、わしの間違いを教えてくれぇぇえ!」
「次期当主って、まさか……」
「……!」
朱志香の不安そうな表情に嘉音は書斎の中に金蔵以外の人物がいることを悟った。
そしてそれが彼の天敵であることも。
「朱志香さん、とりあえずお部屋に行きましょう。ここにいては危険です」
朱志香の肩を掴んでそう言い聞かせると、彼女は引きつった顔で頷いた。
「う、うん……」
すると、くるりと回れ右をして朱志香の部屋に行こうとした2人の背中に声が掛けられる。
「聞きたいことがあるんだが」
「……はい?」
それは聞き慣れない男の声だった。2人がそちらを振り向くと、そこには一人の男が立っていた。青のコートに白のシャツに一房の赤いメッシュの髪をもったなかなかの美青年である。
「……イトミミズ……?」
嘉音の一言に男は不快そうに眉をひそめた。
「誰がイトミミズだ」
「え、違うんですか?」
「嘉音くん!……あ、あの、どちら様ですか?」
男は朱志香の顔をじっと見つめた。が、嘉音の某天敵のような怪しい見つめ方ではないのでそっとしておく。
ややあって男は彼女に問いかけた。
「……理御の、妹か?」
「え?……あ、はい……右代宮、朱志香と申します」
男はそうか、と頷くとまた口を開いた。
「早く逃げろ。あいつは地獄耳だぞ」
右代宮理御。
頭脳明晰、スポーツ万能(特にバドミントン)、眉目秀麗の三拍子揃った右代宮本家の跡継ぎの名前である。
その才能を認められて現在は次期当主として修行を続けており、昨年からロンドンへ留学をしていた。
中学でも高校でも生徒会長を務め、生徒達から絶大なる人気を誇ったらしく、現在でもたまにラブレターが来るとか来ないとかいうことである。
そんな非の打ち所のないような存在の理御は、重度のシスターコンプレックスを抱えていた。
何かにつけて妹の朱志香をストーキングし、彼女に言い寄る男が現れようものなら即座に駆けつけて制裁を加える。おかげで朱志香に淡い思いを抱く者がいても言い寄ることが出来ないという。
それだけならばまだいいだろう。
朱志香に異様に構ってみたり、兄を自称してみたり、挙げ句の果てにはロンドンに彼女を連れて行こうと策を練るほどなのである。朱志香とて理御を嫌ってはいないのだが、如何せんそのような行動と尻を抓るという仕置きのせいで理御は妹からの評判を大層下げていた。
「嘉哉くん……」
不安そうな朱志香に微笑みかける。
「大丈夫ですよ、朱志香さん。あなたは僕が守ります!」
「嘉哉くん……!」
彼女の瞳が僅かに潤む。それを見て嘉音は決意した。
(絶対に朱志香さんを守り抜く!あんな変態次期当主なんかに渡すもんか!)
遠くから響く金蔵の絶望の叫びをBGMに、2人は助け出された姫と騎士のように見つめ合った。ドアを叩くノックの音にすら気付かないほどに。
こんこん、という軽い音は段々強くなり、しまいにはドアを壊しかねない勢いのどんどんという重い音に変わっていく。
「きゃあっ!?」
ようやく気付いた朱志香が悲鳴を上げた。
「朱志香?いるんですか?」
ノックの主が怪訝そうな声を上げる。
「え、い、いるけどっ?」
「じゃあ開けますよ」
「えっ!?」
彼女の返事を聞く前にドアが豪快に開けられた。
「朱志香っ!お兄ちゃんが帰ってきたよ!」
そこに立っていたのはシスコン次期当主・右代宮理御本人だった。
「何で勝手に開けるんだよっ!?」
「決まっているでしょう、私は朱志香のお兄ちゃんだからね!」
「嫌だよそんな兄妹関係!」
悲鳴を上げる朱志香に構わず、理御はずかずかと部屋の中に入ってくる。そして愛しい妹を抱きしめようとして……嘉音の存在に気付いた。
「……ああ、いたんですか」
「いましたよ、最初から」
火花でも散りそうな視線がぶつかり合う。
「仕事はいいんですか、……えっと、誰でしたっけ?」
「嘉音です。今日は有休を取ったので一日中お嬢様と一緒にいるんです」
「……ふ、2人とも……何やってんだよ、暑いよ……」
朱志香が微かに漏らした声に2人ははっと身を離した。
「すみません朱志香さん、あんな変態をあなたに近づけてしまって……」
「え、あ、あの……」
「ごめんね朱志香、暑くしてしまって……嘉音。変態とは誰のことですか」
理御の目が鋭く光る。次期当主に相応しい迫力に気圧されそうになりながら、嘉音はそれでも言い返した。
「勿論理御様に決まっているじゃないですか。朱志香さんは僕のお嫁さんになるんです!」
嘉音がそう言いきると、理御は驚愕とも衝撃ともつかぬ表情で固まった。そのままよろよろと後退し、朱志香の鞄に躓いてひっくり返った。
「……」
「嘉音くん……」
「朱志香さん……」
「ゆ……許しませんよ朱志香!」
再び理御が叫ぶ。
「小さい頃はお兄ちゃんと結婚するっていったでしょう!?」
「言ってねえよ!」
朱志香の反論に理御は泣き崩れた。
「お兄ちゃんと結婚するんだよといえば嫌だと言われ、私がロンドン留学すれば彼氏を作り……ああ朱志香、兄さんは悲しいよ!」
手のつけようのない(自称)兄に2人が顔を見合わせていると、再びノックの音がした。
「……開いているようだが、今いいか?」
そこに立っていたのは先ほどの青コートの青年だった。
「あ、はい……」
「理御。程々にしろと言っただろう」
「だってウィル!私の可愛い妹がよりによって変態家具なんかに取られて……私はどうしたらいいんですかぁぁ!」
ウィルと呼ばれた青年は深々と溜息を吐き、腕に抱えた高そうなアルバムの束と朱志香とを交互に見やった。
「取り込み中すまないが……朱志香」
「あ、はい。えっと……」
「ウィラード・H・ライトだ。ウィルでいい。それより見合い写真を持っていくように頼まれたんだが……」
ウィル、もといウィラードがそう口にした瞬間、赤い塊と黒い塊が彼の腕の中の見合い写真の束を燃えるゴミへと変えた。
「……妨害されたな」
「あ……あはは……」
苦笑いを浮かべて朱志香が燃えるゴミを見やる。赤い塊(理御)が奪ったものはぐしゃぐしゃに丸められ、黒い塊(嘉音)が奪ったものは見合い相手の顔にマジックできゅっと線が引かれていた。これではまともな写真としては使えない。何より相手に失礼だ。
「あ、あのね、嘉音くんとのこと、ちゃんと母さん達に話すから……そういうこと、しないで?」
嘉音は朱志香のその言葉に心がすっかりと晴れ渡った。
今日まで真面目に働いてきた(と彼は思っている)。辛いことも苦しいこともあったけれど、その苦労がようやく報われるのだ。
嬉しくて嬉しくて、嘉音は朱志香を抱きしめた。
「愛しています、朱志香さん!」
「お兄ちゃんは許しませんよぉぉぉっ!」
理御の絶叫が響き渡った。
お嬢様は今日も可愛いのだ。僕は朱志香さんがいてくれるだけでどんな仕事も頑張れる。
しかしどうやら今日からは朱志香さんを天敵から守ることに重点をおいた方が良さそうだ。何故なら変態次期当主が帰ってきてしまったからである。
僕の愛が朱志香様をきっと救うはずだ。お姫様は騎士と結ばれるって相場が決まっているんだ!
だから僕は変態の魔の手から朱志香さんを守り抜く!
「……誰が変態ですって?」
ふと嘉音が後ろを振り向くと、バドミントンのラケットを持った理御が薄笑いを浮かべて立っていた。
「理御様に決まっているじゃないですか」
「言いたいことはそれだけですか?」
寒気すら感じるようになった薄笑いに、嘉音は必死で対抗する。
「何ですか理御様、シスコンは二次元だけにしてください!」
しかしそれが命取りだった。鬼のような形相を浮かべた理御がラケットを振り上げる。
「変態に朱志香は渡しませんからねぇぇっ!」
「ぎゃああああああっ!」
魔女の棋譜
使用人・嘉音
事件前にバドミントンのラケットで殴られ死亡(?)理御に気に入られる努力をすればどうにかなったのかもしれない。
本音を口に出しすぎるのも困りものである。
「朱志香と結ばれたければ私に勝って見せなさい。そうすれば考えてやらなくもないです……あ、やっぱり嫌です」(by理御)
理御に勝って朱志香と結ばれて欲しいものである。
「絶対認めませんからね!」(by理御)
おわり
いきなり書斎にずかずかと入ってきた揚げ句、孫娘にと寄せられた見合い写真の束を一つずつ引きちぎる次期当主を右代宮金蔵は為す術もなく見つめていた。
「あ、あの……理御?そこ、ワシの椅子……」
「知りませんよそんなの。こんなどこぞの馬の骨の写真なんて持ってくる方が悪いんです!」
理御はこともなげにそう返してまた一つ写真をゴミへと変えた。
びりびり。ぐしゃり。べきっ。
そんな音を立てていろんな名家のご子息が映し出された写真達が見るも無惨な紙くずへと変わっていく。
「おおベアトリーチェ……ワシはこういうときどうしたらいいのだろうな……育て方間違えたかもしれん……」
金蔵は悲しげに呟く。
愛用している椅子から追い出され、占領された。金蔵は絨毯の上で呆然と見守っているほかない。
神聖な書斎をゴミでいっぱいにされた。しかもきっと持って帰ってくれないだろう。
哀しみのあまり、金蔵は叫んだ。
「こんな次期当主に育つなんて……おじいちゃん悲ちい!」
帰ってきた風雲児? 後編
プールから帰ってきた朱志香と嘉音は屋敷の中が騒然としているのに気がついた。
「なんだろ……?」
「お館様の悲鳴が聞こえるのは僕の空耳ですかね?」
2人は顔を見合わせて、金蔵の部屋を訪ねることに決めた。
「祖父さま、入れてくれるかな……?」
「朱志香さんを入れないなんてことはありませんよ。この間なんか魔術の研究そっちのけでドレスの型紙起こしてましたし」
「祖父さま……」
呆気にとられたような顔の朱志香の手を引いて、嘉音は歩き出した。
「そんなわけで行きましょうか」
「う、うん!」
そんな若い恋人達を、熊沢は柱の陰から見守っていた。
「おいたわしやお嬢様……これからお二人に訪れる苦難など知るよしもなく……ああなんとおいたわしや……」
なにしろあの2人は恋人といえども使用人と令嬢。いくら好き合っているからといってそう易々と結ばれるはずがない。
可能性がないわけではないが、反対勢力が多すぎるのだ。
それを知っている熊沢は2人の幸せを願いつつ、2人を襲うであろう苦難を思って溜息を吐いた。
足下で鯖がびちびちと跳ねている。
それを見ながら源次は溜息を吐いた。
「熊沢。仕事をしなさい」
「ほっほっほ、今はちょうど休憩をしていたところでございますよ、ええ」
「……仕事をしなさい」
「祖父さま~……?」
金蔵の書斎の前で朱志香は遠慮がちに声を掛けた。何やら泣き叫ぶ声が聞こえたからである。
「何かあったんですかね?」
「いつもとは違うよなぁ……?」
中からは相変わらず金蔵の泣き声が聞こえる。
「ベアトリーチェぇぇぇ!何故に次期当主がこんなのになってしまったのだ、わしの間違いを教えてくれぇぇえ!」
「次期当主って、まさか……」
「……!」
朱志香の不安そうな表情に嘉音は書斎の中に金蔵以外の人物がいることを悟った。
そしてそれが彼の天敵であることも。
「朱志香さん、とりあえずお部屋に行きましょう。ここにいては危険です」
朱志香の肩を掴んでそう言い聞かせると、彼女は引きつった顔で頷いた。
「う、うん……」
すると、くるりと回れ右をして朱志香の部屋に行こうとした2人の背中に声が掛けられる。
「聞きたいことがあるんだが」
「……はい?」
それは聞き慣れない男の声だった。2人がそちらを振り向くと、そこには一人の男が立っていた。青のコートに白のシャツに一房の赤いメッシュの髪をもったなかなかの美青年である。
「……イトミミズ……?」
嘉音の一言に男は不快そうに眉をひそめた。
「誰がイトミミズだ」
「え、違うんですか?」
「嘉音くん!……あ、あの、どちら様ですか?」
男は朱志香の顔をじっと見つめた。が、嘉音の某天敵のような怪しい見つめ方ではないのでそっとしておく。
ややあって男は彼女に問いかけた。
「……理御の、妹か?」
「え?……あ、はい……右代宮、朱志香と申します」
男はそうか、と頷くとまた口を開いた。
「早く逃げろ。あいつは地獄耳だぞ」
右代宮理御。
頭脳明晰、スポーツ万能(特にバドミントン)、眉目秀麗の三拍子揃った右代宮本家の跡継ぎの名前である。
その才能を認められて現在は次期当主として修行を続けており、昨年からロンドンへ留学をしていた。
中学でも高校でも生徒会長を務め、生徒達から絶大なる人気を誇ったらしく、現在でもたまにラブレターが来るとか来ないとかいうことである。
そんな非の打ち所のないような存在の理御は、重度のシスターコンプレックスを抱えていた。
何かにつけて妹の朱志香をストーキングし、彼女に言い寄る男が現れようものなら即座に駆けつけて制裁を加える。おかげで朱志香に淡い思いを抱く者がいても言い寄ることが出来ないという。
それだけならばまだいいだろう。
朱志香に異様に構ってみたり、兄を自称してみたり、挙げ句の果てにはロンドンに彼女を連れて行こうと策を練るほどなのである。朱志香とて理御を嫌ってはいないのだが、如何せんそのような行動と尻を抓るという仕置きのせいで理御は妹からの評判を大層下げていた。
「嘉哉くん……」
不安そうな朱志香に微笑みかける。
「大丈夫ですよ、朱志香さん。あなたは僕が守ります!」
「嘉哉くん……!」
彼女の瞳が僅かに潤む。それを見て嘉音は決意した。
(絶対に朱志香さんを守り抜く!あんな変態次期当主なんかに渡すもんか!)
遠くから響く金蔵の絶望の叫びをBGMに、2人は助け出された姫と騎士のように見つめ合った。ドアを叩くノックの音にすら気付かないほどに。
こんこん、という軽い音は段々強くなり、しまいにはドアを壊しかねない勢いのどんどんという重い音に変わっていく。
「きゃあっ!?」
ようやく気付いた朱志香が悲鳴を上げた。
「朱志香?いるんですか?」
ノックの主が怪訝そうな声を上げる。
「え、い、いるけどっ?」
「じゃあ開けますよ」
「えっ!?」
彼女の返事を聞く前にドアが豪快に開けられた。
「朱志香っ!お兄ちゃんが帰ってきたよ!」
そこに立っていたのはシスコン次期当主・右代宮理御本人だった。
「何で勝手に開けるんだよっ!?」
「決まっているでしょう、私は朱志香のお兄ちゃんだからね!」
「嫌だよそんな兄妹関係!」
悲鳴を上げる朱志香に構わず、理御はずかずかと部屋の中に入ってくる。そして愛しい妹を抱きしめようとして……嘉音の存在に気付いた。
「……ああ、いたんですか」
「いましたよ、最初から」
火花でも散りそうな視線がぶつかり合う。
「仕事はいいんですか、……えっと、誰でしたっけ?」
「嘉音です。今日は有休を取ったので一日中お嬢様と一緒にいるんです」
「……ふ、2人とも……何やってんだよ、暑いよ……」
朱志香が微かに漏らした声に2人ははっと身を離した。
「すみません朱志香さん、あんな変態をあなたに近づけてしまって……」
「え、あ、あの……」
「ごめんね朱志香、暑くしてしまって……嘉音。変態とは誰のことですか」
理御の目が鋭く光る。次期当主に相応しい迫力に気圧されそうになりながら、嘉音はそれでも言い返した。
「勿論理御様に決まっているじゃないですか。朱志香さんは僕のお嫁さんになるんです!」
嘉音がそう言いきると、理御は驚愕とも衝撃ともつかぬ表情で固まった。そのままよろよろと後退し、朱志香の鞄に躓いてひっくり返った。
「……」
「嘉音くん……」
「朱志香さん……」
「ゆ……許しませんよ朱志香!」
再び理御が叫ぶ。
「小さい頃はお兄ちゃんと結婚するっていったでしょう!?」
「言ってねえよ!」
朱志香の反論に理御は泣き崩れた。
「お兄ちゃんと結婚するんだよといえば嫌だと言われ、私がロンドン留学すれば彼氏を作り……ああ朱志香、兄さんは悲しいよ!」
手のつけようのない(自称)兄に2人が顔を見合わせていると、再びノックの音がした。
「……開いているようだが、今いいか?」
そこに立っていたのは先ほどの青コートの青年だった。
「あ、はい……」
「理御。程々にしろと言っただろう」
「だってウィル!私の可愛い妹がよりによって変態家具なんかに取られて……私はどうしたらいいんですかぁぁ!」
ウィルと呼ばれた青年は深々と溜息を吐き、腕に抱えた高そうなアルバムの束と朱志香とを交互に見やった。
「取り込み中すまないが……朱志香」
「あ、はい。えっと……」
「ウィラード・H・ライトだ。ウィルでいい。それより見合い写真を持っていくように頼まれたんだが……」
ウィル、もといウィラードがそう口にした瞬間、赤い塊と黒い塊が彼の腕の中の見合い写真の束を燃えるゴミへと変えた。
「……妨害されたな」
「あ……あはは……」
苦笑いを浮かべて朱志香が燃えるゴミを見やる。赤い塊(理御)が奪ったものはぐしゃぐしゃに丸められ、黒い塊(嘉音)が奪ったものは見合い相手の顔にマジックできゅっと線が引かれていた。これではまともな写真としては使えない。何より相手に失礼だ。
「あ、あのね、嘉音くんとのこと、ちゃんと母さん達に話すから……そういうこと、しないで?」
嘉音は朱志香のその言葉に心がすっかりと晴れ渡った。
今日まで真面目に働いてきた(と彼は思っている)。辛いことも苦しいこともあったけれど、その苦労がようやく報われるのだ。
嬉しくて嬉しくて、嘉音は朱志香を抱きしめた。
「愛しています、朱志香さん!」
「お兄ちゃんは許しませんよぉぉぉっ!」
理御の絶叫が響き渡った。
お嬢様は今日も可愛いのだ。僕は朱志香さんがいてくれるだけでどんな仕事も頑張れる。
しかしどうやら今日からは朱志香さんを天敵から守ることに重点をおいた方が良さそうだ。何故なら変態次期当主が帰ってきてしまったからである。
僕の愛が朱志香様をきっと救うはずだ。お姫様は騎士と結ばれるって相場が決まっているんだ!
だから僕は変態の魔の手から朱志香さんを守り抜く!
「……誰が変態ですって?」
ふと嘉音が後ろを振り向くと、バドミントンのラケットを持った理御が薄笑いを浮かべて立っていた。
「理御様に決まっているじゃないですか」
「言いたいことはそれだけですか?」
寒気すら感じるようになった薄笑いに、嘉音は必死で対抗する。
「何ですか理御様、シスコンは二次元だけにしてください!」
しかしそれが命取りだった。鬼のような形相を浮かべた理御がラケットを振り上げる。
「変態に朱志香は渡しませんからねぇぇっ!」
「ぎゃああああああっ!」
魔女の棋譜
使用人・嘉音
事件前にバドミントンのラケットで殴られ死亡(?)理御に気に入られる努力をすればどうにかなったのかもしれない。
本音を口に出しすぎるのも困りものである。
「朱志香と結ばれたければ私に勝って見せなさい。そうすれば考えてやらなくもないです……あ、やっぱり嫌です」(by理御)
理御に勝って朱志香と結ばれて欲しいものである。
「絶対認めませんからね!」(by理御)
おわり
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