ここは「花待館」の別館となっています。非公式で「うみねこのなく頃に」「テイルズオブエクシリア」「ファイナルファンタジー(13・零式)」「刀剣乱舞」の二次創作SSを掲載しています。
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お久しぶりです。
ようやく前編が書き上がりました。変態嘉音くんシリーズです。
来月のコピー本よりも変態な気がしてきた。
そして今回はそういう理由でR15です。格好いい嘉音くんなんていません。
では、どうぞ。
帰ってきた風雲児? 前編
ようやく前編が書き上がりました。変態嘉音くんシリーズです。
来月のコピー本よりも変態な気がしてきた。
そして今回はそういう理由でR15です。格好いい嘉音くんなんていません。
では、どうぞ。
帰ってきた風雲児? 前編
某月某日、晴れ。某国際空港にて。
午後のロビーに彼らは降り立った。
「流石に13時間もじっとしているのは退屈でしたね」
二人組のうち1人が連れに話しかける。連れの男はしばらくの考慮の末、ぽつりと漏らす。
「あぁいう時は寝るもんだ」
「そうですか?」
「……お前、行きはどうしてた」
「写真集を眺めるのに忙しくてついつい……」
相方のおよそ真面目に答えているとは思えない答えに男は溜息を吐き、次の話題に切り替えた。
「それで、ここからどう行くんだ。電車か?」
「電車と飛行機と船です」
「……そうか」
再び溜息を吐いて男は歩き出す。その背中を追いかけながら、彼の相方は懐かしげに呟いた。
「一年ぶりの日本……楽しみです」
帰ってきた風雲児? 前編
某月某日、新島のレジャー施設にて。
嘉音はプールサイドに座って朱志香が着替えてくるのを待っていた。
(朱志香さん……早く来ないかな。どんな水着なんだろう、デートなんだしやっぱり……)
そう。本日は朱志香とデートなのである。たまたま新島のレジャー施設の無料券が2枚手に入ったのでどうかと朱志香に誘われたのだった。勿論二つ返事で了承した嘉音は有給をもぎ取ってここにいるというわけである。
(僕専用のあんな水着やこんな水着かな!)
そんなことを妄想すればたちまち嘉音の脳内では布面積の少ない水着を着た朱志香が浮かんでくる。
『よ、嘉哉くん……これ、どうかな……』
恥ずかしげに立ちつくす彼女は胸元を手でかくし、少しでも肌が見えないようにと頑張っている。だから嘉音はそっとその手をどけて囁くのだ。
『とても可愛らしいです……誰にも見せたくないぐらいに素敵です』
『嘉哉くん……』
『朱志香……』
見つめ合って、どちらからともなく身を寄せ合う。柔らかい感触に嘉音の心臓は高鳴りっぱなしだ。
『朱志香……愛しています』
『私も……愛してるよ、嘉哉くん』
「……よし、これで行こう」
垂れてきた鼻血を適当に拭い、嘉音はまた朱志香が着替えてくるのを待った。
「お待たせ、嘉哉くん!」
「あ、朱志香さん……!」
数分後、ぱたぱたと駆けてきた朱志香の姿に嘉音の目は釘付けになった。
(白のスクール水着、だと……!?)
彼女が着ているのは白のスクール水着。学校で着るものではないようで、ゼッケンなどはついていない。
デートで着るには少し地味かもしれないが、朱志香のその姿に嘉音は完全に悩殺されていた。
(ああ、朱志香さんの素晴らしい身体のラインがあんなに露わになって……しかも揺れてる!)
嘉音とて健全な青少年である。水着姿の恋人が気になってしまうのは仕方のないことだ。しかもスクール水着の中に収まっている彼女の胸が走るたびに窮屈そうに揺れるのである。
(これはあれですか、日頃の僕の頑張りに対するご褒美ですか?触っていいんですか?)
実際にはただの自然現象で、ご褒美でも何でもない上に触っていいはずがないのだが、嘉音にはそう考えることしかできなかった。朱志香が照れたように笑う。
「この水着、どうかな……?」
「とても素晴らしいです!ありがとうございます!」
元気いっぱいにそう返事をした嘉音に首を傾げると、朱志香はプールのほうを眺めた。
「良かった、ちょっと空いてるね」
「はい……泳ぎ、ますか?」
ストレッチを始める彼女にそう尋ねると、朱志香はこくんと頷く。
「そのつもりだけど……嘉哉くんは泳がないの?」
「いえ、その……」
朱志香が泳がないのなら嘉音は一緒にプールサイドで遊ぶつもりだった。何しろこのプールは南国のビーチを模していて、水の色から砂浜からリゾート気分を楽しめるのである。そんな場所で朱志香と戯れるつもりだったのだ。
がしかし、彼女は泳ぐという。ただでさえ悩殺ものの姿なのに、水に濡れたりしたら朱志香の身体に水着がぴったり貼り付いて大変なことになってしまう。そんなことを心配するあまり、嘉音は泳ぐのはやめてくださいと言うつもりだった。
(べ、別に僕が泳げないからとかそういうんじゃない!僕だって5メートルは泳げる!)
水に濡れた朱志香の艶姿を見たい気持ちもある。しかしそれを見て他の男が言い寄ってこないかが心配である。
(でも……朱志香さん、楽しそうだ。……朱志香さんの素晴らしい姿と僕の心の平穏……どう考えても前者を取るしかないだろう!)
嘉音が妄想と葛藤をしているのを見て朱志香が首を傾げる。
「……嘉哉くん?」
「ぼっ、僕も一緒に泳ぎます!」
「……うん!」
頷くと彼女は彼の手を握って波打ち際へと駆けだしていった。
(黄金郷ってこの事か!水の中だしあんなことやこんなこともあるはずだ!)
朱志香の手の温かさと自主規制の必要な妄想で嘉音の頭の中にはまさにお花畑が広がっていた。
嘉音は水泳が得意なわけではない。むしろ苦手な部類だ。小学校時代の水泳では5メートルしか泳げなかった。別にそれを恥じていたわけではないのだが、朱志香を一目見た瞬間から恋に落ちてしまった嘉音は彼女の在学中、決してプールに入ることはなかった。朱志香が卒業してからは流石にプールに入ってはいたのだが、あまりに泳げないために補習を受ける羽目になった。
それほど苦手な水泳を、愛しいあまりにこれまで格好いいところしか見せてこなかった(と彼は思っている)朱志香に、見せる。
幻滅されるだろうかと不安が過ぎる。けれども足は止まらない。
とうとう2人は水の中に飛び込んだ。綺麗な青い水が2人の間をゆらゆらと満たす。
「嘉哉くん」
「は、はい……?」
朱志香がふわりと笑う。
「……しようか?」
嘉音は自分の耳を疑った。まさか朱志香がそんなことを言ってくれるなんて思いもよらなかったのである。たちまち彼の頭の中はめくるめく自主規制の必要な妄想が氾濫する。
(これはあれか、そういう流れなんですか朱志香さん!)
「はい!」
「そうと決まればほら、まずは浮くところから始めようぜ!」
朱志香の笑顔が眩しい。眩しいが話がかみ合わない。
「……え?」
「……?」
彼女もそれに気付いたのだろう、きょとんと小首を傾げて彼を見つめる。
「じぇ、朱志香さん……しようかって、泳ぐ練習ですか?」
「プールですることってそれぐらいしかないけど……?」
嘉音は恥じ入った。
そうだ。朱志香は純粋培養なのだ。純真無垢なのだ。そんな彼女が嘉音の妄想するようなことなどどうして考えていようか。
「わかりました、僕、頑張ります!」
プールでは休憩時間というものがある。あまりにも長く泳いでいると健康上の問題を引き起こすからであろう。
このプールにも当然ながら休憩時間はあるのだが、嘉音はベンチに座りながら朱志香の太股の感触を堪能していた。
(朱志香さんの太股……)
嘉音がプールに入らない理由をとうの昔に看破していた朱志香はそれはもう丁寧に教えてくれた。彼女の手に掴まって彼は頑張って泳いだ。おかげで泳ぐということに大分慣れてきたような気がする。
小学生ぐらいの子供達が彼を指差して何か言っていたようだが、そんなことは気にしない。
「嘉哉くん、この休憩時間が終わったら手に掴まらないで泳いでみない?」
「……頑張ります……」
そろそろ一人で泳げるようになった気もするが、嘉音は今一つ気が進まなかった。
(朱志香さんと触れあっていたいなぁ……)
そう、2人で泳いでいる間はずっと朱志香に触っていられるのだ。柔らかくてすべすべの腕に触っていられるのだ。
しかし自分が一人で泳げるようにならなければ、きっと彼女は悲しむだろう。彼女の悲しむ顔だけは見たくない。
(それにきっと僕が泳げるようになったらご褒美くれるよね!僕頑張る!)
どこまでもどうしようもない理由で自分を奮い立たせる嘉音であった。
休憩時間終了の笛が鳴る。
朱志香は先にプールに入り、彼に手を差し伸べた。
「嘉哉くん、来て!」
「はいっ!」
嘉音も続いて入り、水を蹴る。
一心不乱に水を蹴り、息を継ぐ。彼の目に見えているのは朱志香。
もうすぐ彼女のところに着く。そうしたらきっと幸せになれる。
だから嘉音は泳ぐ。行く手を阻む水を掻き分け、朱志香が広げた腕の中に飛び込んだ。
「きゃっ!」
そんな可愛らしい悲鳴が聞こえた。嘉音の顔面には白い水着と柔らかくて温かい感触。
朱志香の胸に思いきり飛び込んでいた。
「よ、嘉哉くん……」
「朱志香さん……」
顔を上げれば頬を真っ赤に染めた朱志香。
「あ、あの……ね、公共の場でこんなことするの、よくないと思うんだ……その、事故なら、しょうがないけど」
「……!」
そうだ。事故とはいえ、朱志香の胸に顔面を埋めるというとんでもないことをやらかしてしまったのだ。
だから彼女を抱きしめた。
「すみません……事故で、その……もう、公共の場ではしませんから……」
「うん……」
不意に頬に柔らかいものが当たる感触がした。
朱志香のほうを見れば、頬を染めて笑っている。
「それなら、大丈夫。嘉哉くん、泳げてたよ!」
「朱志香さん……!」
そうして、2人の唇が近づいた。
「……む」
船に揺られながら、その青年は顔をしかめた。連れの男がちらりとそちらを見る。
「どうした?」
「いえ、何だか嫌な予感が」
「……どういうことだ」
男は怪訝そうに問う。
「具体的には私の可愛い妹に危機が迫っているような」
「……お前という名の危機だな」
「どういう意味ですか」
「そのままの意味だ」
むっとしたように返す相方に男はそう答える。
「まったく、冗談も程々にしないとお尻を抓りますよ?ウィル」
ウィル、と呼ばれた男は深々と溜息を吐いてこういった。
「お前の妹に同情すらぁ。……シスコンも大概にしろよ?理御」
理御と呼ばれた青年は涼しげに遠くを見やった。
六軒島が近づいてきていた。
つづく
午後のロビーに彼らは降り立った。
「流石に13時間もじっとしているのは退屈でしたね」
二人組のうち1人が連れに話しかける。連れの男はしばらくの考慮の末、ぽつりと漏らす。
「あぁいう時は寝るもんだ」
「そうですか?」
「……お前、行きはどうしてた」
「写真集を眺めるのに忙しくてついつい……」
相方のおよそ真面目に答えているとは思えない答えに男は溜息を吐き、次の話題に切り替えた。
「それで、ここからどう行くんだ。電車か?」
「電車と飛行機と船です」
「……そうか」
再び溜息を吐いて男は歩き出す。その背中を追いかけながら、彼の相方は懐かしげに呟いた。
「一年ぶりの日本……楽しみです」
帰ってきた風雲児? 前編
某月某日、新島のレジャー施設にて。
嘉音はプールサイドに座って朱志香が着替えてくるのを待っていた。
(朱志香さん……早く来ないかな。どんな水着なんだろう、デートなんだしやっぱり……)
そう。本日は朱志香とデートなのである。たまたま新島のレジャー施設の無料券が2枚手に入ったのでどうかと朱志香に誘われたのだった。勿論二つ返事で了承した嘉音は有給をもぎ取ってここにいるというわけである。
(僕専用のあんな水着やこんな水着かな!)
そんなことを妄想すればたちまち嘉音の脳内では布面積の少ない水着を着た朱志香が浮かんでくる。
『よ、嘉哉くん……これ、どうかな……』
恥ずかしげに立ちつくす彼女は胸元を手でかくし、少しでも肌が見えないようにと頑張っている。だから嘉音はそっとその手をどけて囁くのだ。
『とても可愛らしいです……誰にも見せたくないぐらいに素敵です』
『嘉哉くん……』
『朱志香……』
見つめ合って、どちらからともなく身を寄せ合う。柔らかい感触に嘉音の心臓は高鳴りっぱなしだ。
『朱志香……愛しています』
『私も……愛してるよ、嘉哉くん』
「……よし、これで行こう」
垂れてきた鼻血を適当に拭い、嘉音はまた朱志香が着替えてくるのを待った。
「お待たせ、嘉哉くん!」
「あ、朱志香さん……!」
数分後、ぱたぱたと駆けてきた朱志香の姿に嘉音の目は釘付けになった。
(白のスクール水着、だと……!?)
彼女が着ているのは白のスクール水着。学校で着るものではないようで、ゼッケンなどはついていない。
デートで着るには少し地味かもしれないが、朱志香のその姿に嘉音は完全に悩殺されていた。
(ああ、朱志香さんの素晴らしい身体のラインがあんなに露わになって……しかも揺れてる!)
嘉音とて健全な青少年である。水着姿の恋人が気になってしまうのは仕方のないことだ。しかもスクール水着の中に収まっている彼女の胸が走るたびに窮屈そうに揺れるのである。
(これはあれですか、日頃の僕の頑張りに対するご褒美ですか?触っていいんですか?)
実際にはただの自然現象で、ご褒美でも何でもない上に触っていいはずがないのだが、嘉音にはそう考えることしかできなかった。朱志香が照れたように笑う。
「この水着、どうかな……?」
「とても素晴らしいです!ありがとうございます!」
元気いっぱいにそう返事をした嘉音に首を傾げると、朱志香はプールのほうを眺めた。
「良かった、ちょっと空いてるね」
「はい……泳ぎ、ますか?」
ストレッチを始める彼女にそう尋ねると、朱志香はこくんと頷く。
「そのつもりだけど……嘉哉くんは泳がないの?」
「いえ、その……」
朱志香が泳がないのなら嘉音は一緒にプールサイドで遊ぶつもりだった。何しろこのプールは南国のビーチを模していて、水の色から砂浜からリゾート気分を楽しめるのである。そんな場所で朱志香と戯れるつもりだったのだ。
がしかし、彼女は泳ぐという。ただでさえ悩殺ものの姿なのに、水に濡れたりしたら朱志香の身体に水着がぴったり貼り付いて大変なことになってしまう。そんなことを心配するあまり、嘉音は泳ぐのはやめてくださいと言うつもりだった。
(べ、別に僕が泳げないからとかそういうんじゃない!僕だって5メートルは泳げる!)
水に濡れた朱志香の艶姿を見たい気持ちもある。しかしそれを見て他の男が言い寄ってこないかが心配である。
(でも……朱志香さん、楽しそうだ。……朱志香さんの素晴らしい姿と僕の心の平穏……どう考えても前者を取るしかないだろう!)
嘉音が妄想と葛藤をしているのを見て朱志香が首を傾げる。
「……嘉哉くん?」
「ぼっ、僕も一緒に泳ぎます!」
「……うん!」
頷くと彼女は彼の手を握って波打ち際へと駆けだしていった。
(黄金郷ってこの事か!水の中だしあんなことやこんなこともあるはずだ!)
朱志香の手の温かさと自主規制の必要な妄想で嘉音の頭の中にはまさにお花畑が広がっていた。
嘉音は水泳が得意なわけではない。むしろ苦手な部類だ。小学校時代の水泳では5メートルしか泳げなかった。別にそれを恥じていたわけではないのだが、朱志香を一目見た瞬間から恋に落ちてしまった嘉音は彼女の在学中、決してプールに入ることはなかった。朱志香が卒業してからは流石にプールに入ってはいたのだが、あまりに泳げないために補習を受ける羽目になった。
それほど苦手な水泳を、愛しいあまりにこれまで格好いいところしか見せてこなかった(と彼は思っている)朱志香に、見せる。
幻滅されるだろうかと不安が過ぎる。けれども足は止まらない。
とうとう2人は水の中に飛び込んだ。綺麗な青い水が2人の間をゆらゆらと満たす。
「嘉哉くん」
「は、はい……?」
朱志香がふわりと笑う。
「……しようか?」
嘉音は自分の耳を疑った。まさか朱志香がそんなことを言ってくれるなんて思いもよらなかったのである。たちまち彼の頭の中はめくるめく自主規制の必要な妄想が氾濫する。
(これはあれか、そういう流れなんですか朱志香さん!)
「はい!」
「そうと決まればほら、まずは浮くところから始めようぜ!」
朱志香の笑顔が眩しい。眩しいが話がかみ合わない。
「……え?」
「……?」
彼女もそれに気付いたのだろう、きょとんと小首を傾げて彼を見つめる。
「じぇ、朱志香さん……しようかって、泳ぐ練習ですか?」
「プールですることってそれぐらいしかないけど……?」
嘉音は恥じ入った。
そうだ。朱志香は純粋培養なのだ。純真無垢なのだ。そんな彼女が嘉音の妄想するようなことなどどうして考えていようか。
「わかりました、僕、頑張ります!」
プールでは休憩時間というものがある。あまりにも長く泳いでいると健康上の問題を引き起こすからであろう。
このプールにも当然ながら休憩時間はあるのだが、嘉音はベンチに座りながら朱志香の太股の感触を堪能していた。
(朱志香さんの太股……)
嘉音がプールに入らない理由をとうの昔に看破していた朱志香はそれはもう丁寧に教えてくれた。彼女の手に掴まって彼は頑張って泳いだ。おかげで泳ぐということに大分慣れてきたような気がする。
小学生ぐらいの子供達が彼を指差して何か言っていたようだが、そんなことは気にしない。
「嘉哉くん、この休憩時間が終わったら手に掴まらないで泳いでみない?」
「……頑張ります……」
そろそろ一人で泳げるようになった気もするが、嘉音は今一つ気が進まなかった。
(朱志香さんと触れあっていたいなぁ……)
そう、2人で泳いでいる間はずっと朱志香に触っていられるのだ。柔らかくてすべすべの腕に触っていられるのだ。
しかし自分が一人で泳げるようにならなければ、きっと彼女は悲しむだろう。彼女の悲しむ顔だけは見たくない。
(それにきっと僕が泳げるようになったらご褒美くれるよね!僕頑張る!)
どこまでもどうしようもない理由で自分を奮い立たせる嘉音であった。
休憩時間終了の笛が鳴る。
朱志香は先にプールに入り、彼に手を差し伸べた。
「嘉哉くん、来て!」
「はいっ!」
嘉音も続いて入り、水を蹴る。
一心不乱に水を蹴り、息を継ぐ。彼の目に見えているのは朱志香。
もうすぐ彼女のところに着く。そうしたらきっと幸せになれる。
だから嘉音は泳ぐ。行く手を阻む水を掻き分け、朱志香が広げた腕の中に飛び込んだ。
「きゃっ!」
そんな可愛らしい悲鳴が聞こえた。嘉音の顔面には白い水着と柔らかくて温かい感触。
朱志香の胸に思いきり飛び込んでいた。
「よ、嘉哉くん……」
「朱志香さん……」
顔を上げれば頬を真っ赤に染めた朱志香。
「あ、あの……ね、公共の場でこんなことするの、よくないと思うんだ……その、事故なら、しょうがないけど」
「……!」
そうだ。事故とはいえ、朱志香の胸に顔面を埋めるというとんでもないことをやらかしてしまったのだ。
だから彼女を抱きしめた。
「すみません……事故で、その……もう、公共の場ではしませんから……」
「うん……」
不意に頬に柔らかいものが当たる感触がした。
朱志香のほうを見れば、頬を染めて笑っている。
「それなら、大丈夫。嘉哉くん、泳げてたよ!」
「朱志香さん……!」
そうして、2人の唇が近づいた。
「……む」
船に揺られながら、その青年は顔をしかめた。連れの男がちらりとそちらを見る。
「どうした?」
「いえ、何だか嫌な予感が」
「……どういうことだ」
男は怪訝そうに問う。
「具体的には私の可愛い妹に危機が迫っているような」
「……お前という名の危機だな」
「どういう意味ですか」
「そのままの意味だ」
むっとしたように返す相方に男はそう答える。
「まったく、冗談も程々にしないとお尻を抓りますよ?ウィル」
ウィル、と呼ばれた男は深々と溜息を吐いてこういった。
「お前の妹に同情すらぁ。……シスコンも大概にしろよ?理御」
理御と呼ばれた青年は涼しげに遠くを見やった。
六軒島が近づいてきていた。
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