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ここは「花待館」の別館となっています。非公式で「うみねこのなく頃に」「テイルズオブエクシリア」「ファイナルファンタジー(13・零式)」「刀剣乱舞」の二次創作SSを掲載しています。
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えーと。試験期間中の息抜きで書いたベアジェシです。このカップリングとっても好きなんですけれど、あまり見かけないので書いてみました。
どうしてこうなった。
どうしてこうなった……。

注意!
・朱志香の過去に多大なる捏造があります。
・どっちかっていうと姉ベアト×朱志香っぽい。
・朱志香犯人説です。
・バッドエンドまっしぐら……ごめんなさい。次回はほのぼの書きたいです。

では、どうぞ。

小さな愛の花畑



拍手[4回]


それはスミレの花が薫る季節のことだった。
ずっと退屈だった自分は幼子の泣き声を聞いた。
こんな森の中に一体誰がいるのかと興味を覚えてそちらに向かった。
唯一この森に足を踏み入れた人間は今では屋敷の外にすら足を踏み出さない。
そのほかの人間は近づこうとすらしない。
森に入ってはいけないと言われているから。
恐ろしい魔女に食べられてしまうと言われているから。
普段誰も来ないこの森に足を踏み入れるような人間がいたのかと浮かれる自分に気が付いた。
辿り着いた泣き声の先には脱げた小さな靴、散らばるスミレ。
そして泥にまみれた白い肌。
それが全ての始まりだった。

小さな愛の花畑

夕暮れ時、森で見つけた小さな金髪娘は助けを求めて泣いていた。
「人間がこの森に入ってくるとは珍しい……転びでもしたか?」
そう声を掛けると、金髪娘の肩がびくりと震える。怯えるのも無理はない。自分は魔女で、彼女は人間。
自分は人間など食べはしない。そんなものは彼女の親たちが子供を森へ行かせまいとして作った御伽噺だ。けれど目の前の少女は幼くて、嘘を嘘と見抜くことなど出来なかったのだろう。だから魔女は出来るだけ優しく言葉を掛ける。
「怯えずとも良い。妾は人間を食らったりなどせぬ」
「ほんとう?」
こちらを向いた幼子の目は泣きはらして真っ赤だった。舌っ足らずな言葉に頷く。
「本当だとも。妾は嘘など吐かぬ……殊にそなたのような純真な子供に妾がどうして嘘など吐けようか?」
すると金髪娘は首を傾げてじゅんしん?と聞き返す。彼女の頬を転がり落ちる涙はいつの間にか止まっていて、それが何故か嬉しくてまた頷く。
「素直でまっさらなそなたのような者のことよ」
彼女は今度は「すなおで、まっさら」と言葉を咀嚼するように呟いてようやくにっこりと笑った。
それは何処までも愛らしい笑顔だった。
そう、まるでスミレの蕾が綻んで、小さな可愛らしい花を咲かせるかのように、何処までも無垢で愛らしく彼女は笑って見せた。
「そなたには笑顔がよく似合う。……それで、こんなところで何かあったのか?」
問えば金髪娘はその笑顔を曇らせる。
「まいご……迷子になっちゃった」
「迷子……」
「母さんに怒られて……お屋敷、飛び出して来ちゃったんだ」
そう小声で漏らした幼子はとてもばつが悪そうに笑顔を引っ込める。そうかと返して頭を撫でれば、彼女が弾かれたようにこちらを向く。
「どうしたのだ?」
「怒らないのか?」
「何故妾が怒るのか……?」
「その、勝手に森に入ったりして……えっと」
金髪娘のしょんぼりした表情に胸がつきりと痛む。だから魔女はもう一度微笑みかける。
「妾は客人は歓迎するぞ?……日も暮れてきた、そろそろ屋敷に戻らぬとそなたの母が心配するな」
魔女である自分には彼女一人を屋敷にまで送り届けることなど容易い。だから彼女を慈しむ母の元へ帰してやろうともう一度頭を撫でた。
「……あの」
「ん?」
「スミレ……」
「スミレ?」
「森の奥で、見つけたんだ……」
そういえば金髪娘の周りにはスミレが散らばっている。紫色の可愛らしい花は彼女のようにすっかり泥に汚れてしまっていた。これでは折角摘んだのにスミレも彼女も可哀想というものだろう。
「案ずるな。妾がそなたのケガもスミレも元通りにしてやろう」
そう彼女の頬に手を滑らせ、そっと目をふさぐ。
そうして唱える。
それはいつか聞いた魔法の呪文。
不幸せを幸せへと変える、魔法の言葉。
「さぁさ、思い出してご覧なさい……」
土汚れ一つない金髪娘が大きな大きなスミレの花束を持って笑っているさまを。それがどんなに幸せそうな光景かを。
金色の蝶々達が自分の思い描くさまに従って擦り傷だらけの彼女を癒し、その小さな手にスミレの花束となって納まってゆく。
「目を、開けて良いぞ」
「うん、……!」
金髪娘の表情が輝いた。それはそれは嬉しそうに、幸せそうに。
自分の心に温かい感情が広がっていくのを感じた。
「ありがとう!」
「そなたが喜ぶのであれば妾も魔法を使ったかいがあったというもの。さぁ、妾がそなたを屋敷まで連れて行ってやろう」
そうして、手を引いて森の出口へと向かう。薄暗い木々の間を抜けて辿り着いた右代宮家の広い広い庭には金髪娘の名を呼びながら使用人が走り回っていた。
「探して、くれてた……。本当に、ありがとう!」
自分の手をすり抜けて走り出した小さな背中がぴたりと止まる。彼女はくるりとこちらを向くと、花束の中から一握りのスミレを魔女の手に握らせた。
「これは……」
「今日のお礼!今度は、スミレの花畑で一緒に遊べますように、って!」
嗚呼、その笑顔のなんと無垢なことか。なんと純粋なことか。
その闇さえも吹き飛ばせそうなほどに明るい笑顔は、六軒島に縛り付けられた自分の心にさえも光をともし、自然とこちらまで笑みを浮かべた。
「今度は一緒に遊べると良いな。……妾の名は、ベアトリーチェという」
「ベアトリーチェ!」
彼女はその名前に驚きはしなかった。ますます嬉しそうに笑うだけ。
「ベアトリーチェは子供を食べちゃったりしないんだ、私覚えたぜ!」
「そうとも、妾はそんなことはしない。……そなたの名は?」
金髪娘はその笑顔を曇らせることなく、弾んだ声でその名を教えてくれた。
「じぇしか。右代宮、朱志香っていうんだ!」
「朱志香……そなたの名前、妾は忘れはせぬぞ」
「私もベアトリーチェのこと、忘れないぜ!」
別れの挨拶を告げて今度こそ金髪娘、朱志香は屋敷へと戻って行く。スミレに残された温かな手のひらの熱が何処までも愛おしかった。

それが、全ての始まりだった。

ベアトリーチェが右代宮朱志香を愛おしみ、慈しむ始まりだった。

ベアトリーチェは回想の微睡みから現実へと意識を向ける。
彼女の眼下には炎に包まれる六軒島。屋敷で何があったのかなど、魔女には分かるはずもない。ただ、燃えさかる炎が全ての想い出までも燃やし尽くしていくのが辛くて、ベアトリーチェはそこから目を逸らした。だが一つだけ、気付く。
「そうだ……朱志香」
この地獄絵図のような光景から己が慈しんだ娘だけでも助け出さなければ。
彼女が二度と六軒島に戻ることが叶わなくても、幸せに生きているのを見るだけでベアトリーチェは幸せになれるのだから。
炎の熱さを、降りかかる火の粉を振り払いながら玄関ホールに飛び込む。
朱志香の名を叫んでみても応えはない。
だから屋敷中を走り回った。彼女の自室、使用人室、食堂など探せる場所は全て探した。
途中、何人もの死体を見つけた。真っ赤な液体が染みついた床や魔法陣も見た。
右代宮家の親族。使用人。そして金蔵。
凄惨な状況で絶命したと思われる人々が沢山いた。
抱き合ったまま絶命している恋人達に胸が痛んだ。
それなのに、一番会いたい少女はいなかった。
「……朱志香……」
走り疲れた頃、金蔵の書斎に辿り着いた。
ベアトリーチェが一番来たくなかった場所。いや、来られなかった場所。
サソリの魔法陣が描かれたドアノブは魔女の天敵だ。
「それでも妾は……朱志香を救わねばならぬ!」
がくがくと震える膝を叱咤して足を踏ん張り、己が手のひらが焼け付く痛みを振り切ってドアを開ける。
魔女を拒む鍵がないように、ドアもまた重い音を立ててベアトリーチェを受け入れた。
恐る恐る足を踏み入れて部屋の中を見回す。
「……!」
炎によって照らされた机の傍に、はたして朱志香は倒れていた。
「朱志香!」
駆け寄って抱き上げれば、彼女はうっすらと目を開けた。
「ベアト……リーチェ……」
「朱志香!何をしているのだ、早くここから……」
しかし朱志香は首を横に振る。
「いいんだ……私は、これで……」
理由を問いただせば彼女はすぐそばを指さした。その指の先には一丁の銃。
「まさか、アレは……」
「ごめん、ごめんベアト……こんなことになって……」
朱志香の頬を一筋の涙が伝う。その悲しげな声を頭を振って遮った。
「朱志香……そんなことはよいのだ、早く、早くこの島から出なければそなたまで……」
「ううん、私はずっとここにいる」
「何故!そなたにはまだ、……!」
長い人生があるだろう、そう魔女は言いたかった。けれど、見てしまった。
朱志香の脇腹には銃創があった。
決して浅くはなく、絨毯に広がる血の染みも酷い。放っておけば彼女の命の灯はうみねこが戻ってくるまで持たないだろう。
「しっかり撃って欲しかったんだけどな……全然駄目だった」
「待て、今妾が魔法で……」
傷を治してやろうとすれば腕の中の朱志香は首を横に振る。だからベアトリーチェには何も出来ない。
「ベアト……今まで、ベアトがいたから私は生きてこれた……」
「それならこれからも妾はそなたの傍にいる!だから……」
「でも、もう駄目なんだ……私は罪を犯してしまった……」
「そんなこと……そなたがどんな罪を犯そうと妾が」
「戦人の罪はみんなの死を以て。……私の罪は、この事件と一緒に私が死ぬことで償わなければならないんだ」
右代宮戦人の罪。それはいったい何だったのだろうか。
右代宮の親族や使用人が死ななければならないほどの罪だったのだろうか。
そして、朱志香がこのような凶行にでなければならないほどの罪だったのだろうか。
この、明るくて優しい日溜まりのような少女にこれほどの大罪を犯させるほどの罪だったのだろうか。
けれど。
自分が慈しんだ少女がどんな大罪を犯そうとも。
自分の名を騙って罪を犯そうとも。
「妾は……妾は朱志香に生きていて欲しいのだ……!」
ベアトリーチェの眼から涙が溢れる。
「妾はそなたの哀しみに気付いてやれなかった……苦しみを分かつことが出来なかった……そなたに幸せを与えることが出来たとばかり思って、喜んでいた……!何故妾にそなたの哀しみを話してくれなかったのだ、苦しみを分けてくれなかったのだ!そうすれば妾はそなたの辛さを引き受けたのに……妾は……そなたが愛おしいのに……」
血に塗れた朱志香の頼りない指先がベアトリーチェの頬に伸ばされる。
「ごめん……でも、私は……ベアトが大好きだったから……」
「朱志香……」
「大好きだぜ……ベアトリーチェ」
「妾も……妾も朱志香のことが大好きだぞ……」
そうして朱志香はふわりと微笑んだ。
「今度は、スミレの花畑で……一緒に……遊べます、よう……に……」
ぱたりと力無く指先が投げ出される。
「……朱志香?」
眠るように瞼を閉じた彼女はとても幸せそうだった。
「朱志香?」
けれど、その胸が呼吸で上下することは二度とない。
「朱志香ッ……起きるのだ、朱志香!」
彼女の名を叫んで身体を揺さぶっても、もう目覚めることはない。
ぱたぱたと熱い雫が朱志香の青白い頬に落ちる。
もう一度その穏やかな死に顔を見つめて、魔女は朱志香の命をつなぎ止められなかったことを漸く受け入れた。
咲き誇る炎の花を鎮めるように、どこからかスミレの花が降る。
まるで結ばれぬ二人を祝福するかのように。
「あぁ……そうだな……今度は……今度こそは……スミレの花畑で遊ぼうな……朱志香……」
むせ返るようなスミレの香りの中、初めて彼女の唇に落とした口付けは、酷くかなしい味がした。

それはスミレの花が薫る季節のことだった。
ずっと退屈だった自分は幼子の泣き声を聞いた。
こんな森の中に一体誰がいるのかと興味を覚えてそちらに向かった。
辿り着いた泣き声の先には脱げた小さな靴、散らばるスミレ。
そして泥にまみれた白い肌。
それが全ての始まりだった。
そして今、暗闇の中魔女は目を覚ます。
あの日出会ったスミレ色のドレスの金髪娘を後生大事に抱きしめて、その額に口付けを落とす。
「妾との約束も……忘れるでないぞ……?」
この黄金郷で、彼女はどんな人生を送るのだろうか。
辛いことなど忘れて、愛する者たちと共に人生を歩めるだろうか。
たまには自分と遊んで、年頃の娘らしい幸せを享受するだろうか。
「願わくば……そなたに数多の幸せがあらんことを……朱志香……」
あの日の満面の笑顔が脳裏に蘇る。
『今度は、スミレの花畑で一緒に遊べますように!』
暗闇の中、どこからかスミレの香りが届いた気がした。
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性別:
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職業:
社会人
趣味:
読書、小説書き等々
自己紹介:
文章書きです。こちらではうみねこ、テイルズ、FF中心に二次創作を書いていきたいと思います。
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