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ここは「花待館」の別館となっています。非公式で「うみねこのなく頃に」「テイルズオブエクシリア」「ファイナルファンタジー(13・零式)」「刀剣乱舞」の二次創作SSを掲載しています。
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C90新刊のWEB版になります。
LRFF13シークレットエンディング後、とてもワーカーホリックなホープ君がライトさんにとあるお願いをする話です。
同人誌版は後日BOOTHにて通販予定です。(エロシーンが大幅増量の予定です)
妄想による職業・世界観の捏造がございます。


拍手[2回]


翌朝、気だるい体を引きずって二人は買出しに出ることにした。エクレールの日用品と、二人の食料の買出しである。とはいえ二週間分ともなれば量は大幅に増えるわけで、日用品を買う前にいったん家に帰る羽目になった。
「これで二日分くらいか?」
どさりと重たい紙袋をテーブルの上に置いてエクレールが問う。普段一人暮らしだから、二人とも二人分の感覚が掴めない。
「そうですね、また買出しに行かないと」
「……悪いな。泊り込みにしなければよかったか」
その声がなんだか気まずそうで、思わず苦笑いをこぼす。
「大丈夫ですよ。……あなたがここにいてくれるなら、食料の買出しぐらい朝飯前ですよ」
「食材ぐらい私の家からもってきてもよかったのに。……調味料とか」
足の早い食材があるなら、と思わなかったわけではない。そうしなかったのはひとえに、二人の生活がよく似ていて、エクレールの家の冷蔵庫に調味料ぐらいしかないという自己申告があったからである。職場が同じだから買出しのサイクルはどうあがいても同じになる。おまけにワーカーホリックの気があるホープに合わせて出勤していれば、たまの休みにしか料理をする機会がないのだろう。
その自己申告に申し訳ないとは思いながら、調味料は彼女の二週間後の生活のためにとって置いてもらうことにした。
「生物は入っていないんでしょう? それに……僕たち、恋人じゃないですか。本当は今すぐ結婚したいくらいなんですから、遠慮しないで」
「……そうか」
ふいと紙袋の中のレモンに視線を移した彼女の横顔が、うっすらと染まっていた。こういう瞬間に、愛されていると実感する。心の底から温かくなる幸せを噛み締めながら、次の買出しを促した。
「エクレールさんの、買いに行きましょうか」
「……ああ」
家を出て、今度はマーケットに向かう道を逸れて日用品を売っている店に入る。必要なものを買った後は、隣のブティックで白いワンピースを一着購入する。ついでその隣にあるランジェリーショップの前で、二人は足を止めた。入りますか、と聞けば、彼女は「私はな」と頷く。
「女物の下着しかないから、外で待っていればいいんじゃないか?」
「一人で待てというんですか」
そんなの絶対に嫌です、と駄々をこねていると、視界の端に一組の男女が写り込む。手に持っているのはハンドバッグ一つの女性のあとを大きな紙袋をいくつも持った男性がよろよろとついていくといった様子だが、おそらく女王様と憐れな下僕の図ではなく、いたって健全なカップルだろう。
「ほら、さっさと歩きなさいよ」
「こんなに荷物があったら無理だよ……」
理不尽ともいえる遣り取りをしながら、女性は二人の傍をすり抜けてランジェリーショップの前で立ち止まる。
「んもう、はーやーく!」
「まだ買うの!?」
当たり前でしょ、と店の中に入っていく女性に続いて、男性もそれが当然というように入店する。それをたっぷり見届けて、エクレールのほうを見る。
「……」
「……あの」
「なんだ」
「僕も入っていいですか?」
「……」
エクレールは渋い顔をしてたっぷり悩んだ後、一言仕方ない、とため息をついた。
「行くぞ」
彼女の後についてドアをくぐると、やたらピンク色の目立つ内装が目に飛び込んでくる。ファンシーな模様で彩られた壁にはもちろん色とりどりの下着が陳列されていて、客である女性たちが物色していた。
「あんまりきょろきょろするなよ」
エクレールの忠告にはい、とよいこの返事をして、彼女のほうにある下着に目をやった。そういう店だけあってさすがにデザインも色もたくさんある。普段エクレールが着用している下着に関しては、ホープが手縫いしたものをプレゼントしたって罰は当たらないのではないかと常々思ってはいるのだが、こうして専門店で見てみると、市販のものも悪くないと思えてくる。
(でもこれなら多分、僕も作れると思うんだけど)
ということは、今は言わないことにする。代わりにちょっと可愛いなと思ったセットを手に取った。黒の総レース下着で、肩紐とブラカップやとても面積の小さいいわゆるTバックと呼ばれているショーツの周りにふんだんに細かなフリルがあしらわれている。どうしてこれがただのランジェリーショップにあるのか首を傾げたいところではあるが、似合いそうだ。フリル付きのガーターベルトがついているのがなお良い。
「僕、これとかいいと思うんですよ」
「却下」
「何でですか!」
「当たり前だろ! そんな紐みたいな下着、絶対着ないからな!」
紐みたいとは言うが、紐よりはずっと布面積があるはずだ。だが絶対に着ないといわれてしまっては仕方がないと棚に戻す。その代わりといってはなんだが、くるりと見回して目に付いた下着を手に取る。
「これはどうですか? 似合うと思うんですが」
「……おまえな」
こちらは白のシルク製の上品な下着だ。よく見るような布面積のブラジャーにも、サイドリボンのショーツにも、ついでにガーターベルトにも可愛らしいレースと細かなフリルがふんだんに使われた一品である。布面積もさっきのものよりもたくさんあり、肌触りもいいはずだ。
「駄目ですか?」
「何でお前が選んでいるんだ。私の下着なんだから好きに選ばせろ」
「そんなぁ……」
そんな風に駄々をこねていると、不意に女性たちの声が耳に飛び込んできた。
「ねぇ、あれ、エストハイムさんじゃない?」
「えぇ、誰それ? あの人、カッコいいけど」
「あんた知らないの? ほら、この間月刊レムリアの表紙にグラビア載ってたじゃない」
「ああ、あの人が……。ちゃんと名前なんか見てないから覚えているわけないでしょ。でもなんでこんなところに?」
どうやら月刊レムリア……先月表紙を飾り、巻頭に論文を寄稿した社会人類学系の雑誌の読者らしい。まぁ、確かにホープ一人だったら女性物の下着屋なんかに入ったりしないだろう。
いいでしょう、僕の恋人とデートなんですよ~、とホープは下着を持ったまま一人で浮かれていたが、次に聞こえてきた言葉に眉間に皺を寄せた。
「っていうか、女連れ? ほら、 あれ」
「えぇ、本当? やだあれ誰?」
「私エストハイムさんが勤めてるの近くの研究所だって言うからちょっと狙ってたのにぃ」
「あんたこの間も銀行マンにおんなじようなこと言ってたでしょ。……でもまぁ、あの人も美人かもしれないけどさ、こういうとこに連れてきて見せびらかすとか、ちょっとないよね」
その心無い、大して隠した音量でもない密談は、当然エクレールの耳にも届いていたらしい。形のよい眉を少し顰めて何も言わずに下着を選び始める。
「……ごめんなさい、エクレールさん」
「気にするな。いつものことだろう」
「いつも、って」
「ホープのことだから隠してはいないのだろう、とは思うんだが、どうも隠していると思われているみたいだ。……もっともここに入って最初の頃はお前を色仕掛けで落とした、なんていわれたこともあったからな。……最近はなんだ、お前の婚約者? って言うのが浸透してきたみたいで週刊誌に売りつける、とか言われることもある。さぞかし高値で売れるんだろうな。なかなか女っ気のない、噂も聞かないスキャンダル知らずのイケメン研究者だから、ってな」
「そんな」
「色仕掛け云々はそうとられてもおかしくはないだろうし、週刊誌は載せられたところでホープの逃げ場がなくなるだけだからな」
淡々とこちらを見ないままに答える彼女は、静かに憤っているようにも見える。確かに自分の下心満載で彼女を就職させたことは否定しないし、確かに週刊誌に書きたてられたところでホープとエクレールは正真正銘の恋人同士なのだから痛くも痒くもない。むしろホープなどは大々的に公表してしまえとさえ思っているのだが、それが伝わらないのが不満といえば不満であるし、ホープ自身に直接言わずにエクレールに言うあたりに、特別腹が立つ。
「とりあえず、そういう人間を排除できる力がないのがつらいところですね」
「手段を選ぶ気のない発言はやめたほうがいいぞ。これからの進退にかかわる」
そんな遣り取りをしている間にも、野次馬の声が耳に障る。
「あれ、でもエストハイムさんって婚約者いなかったっけ? ほら、秘書だか助手だかっていう」
「えぇ、嘘、じゃあ浮気?」
「え、本人じゃなくて?」
「婚約者ならもうちょっと隠すでしょ! えぇ、やだぁ、エストハイムさんそんな人だったなんて、ちょっと幻滅」
婚約者本人ですが何か!? と文句を言いたい気分でいっぱいになっているところに、さらなる追い討ちがかかる。
「それもう週刊誌に売っちゃえば? ほら、週刊センなんとかみたいな」
写真撮って売っちゃえば? なんて面倒くさそうに密談をしている女性たちに、否応にもふつふつと怒りが沸いてくる。
何年この幸せを望んでいたと思っているのか。千年越えだ。自発的に週刊誌に垂れ流すぶんには問題ないのだが、二人のことをまったく知らない人間に垂れ流されれば、事実の歪曲は免れない。色仕掛けとか、週刊誌に売るとか、そんなことを彼女の口から言わせたくなかった。言わせるつもりもなかった。
「……それで、聞きたいんだが。婚約者ってなんだ。まだ私たちはそこまでじゃないだろう? 勝手に言いふらしていたのか」
その問いには堂々と胸を張る。まだ冗談めいたプロポーズしかしていないが、そう遠くない未来にそうなる予定だからである。
「ええ。僕が勝手に言いふらしていました」
「何故だ? ……私に一言も相談せずに」
「どうしても一緒にいたかったから。……僕の婚約者、っていうことにすれば、他の人間に言い寄られることもないでしょう?」
「だが、現にお前は言い寄られているだろう? なんの効果もなければ、無理に嘘をつく必要もないと思うが」
いくらエクレールに言い寄る男がいなくなったとしても、ホープ自身に付き纏う人間がいる限り、安泰とは言いがたい。それをすっかり忘れていた。憤りも怒りも、彼女に言葉の刃を投げつけた人間たちだけに向かうものではない。今彼女に告白されるまで知るすべもなく、外野共にそんな好き勝手な憶測を言わせるままで、有効な対策すら立てられなかった自分に対して向いていた。
「ごめんなさい。僕が知らなければならなかったのに。……こんなに一緒にいるのに」
「私が言わなかっただけだ。……お前の研究を妨げたくないし、もう慣れた。他に婚約者も秘書もいないんだろう?」
「当たり前ですよ! 僕にはあなただけです。あのときから……あの、ヴァイルピークスであなたが守ってくれた時から、ずっと、永遠に」
それは愛が重いな、とエクレールが笑った。その柔らかな身体をぎゅっと抱きしめて、囁く。
「あなたと恋人同士、というものを楽しんでみたかったんです。だから外堀から埋めるようなまねをしたんです。……でも、いっそのこと、週刊誌に僕から垂れ流してしまいましょうか」
それを聞いたエクレールが呆れたように仕方ないなと溜め息を吐く。
「私は玄関先で張り込まれるのはごめんだな。お前の家に張り込ませればいいんじゃないか?」
「そうしたら僕の家でお泊り出来なくなっちゃいますよ」
「じゃあ、うちに来るか? お前の家で出来ないなら、……まぁ大分狭い部屋だが私の家ならまだマシだろう。すぐにはマスコミも気が付かないだろうし。……隣人の声はたまにうるさいがな」
彼女の住むアパートは、この国のアパートにはよくあることだが壁が薄いらしい。騒いでいる声も何もかもが聞こえるため、たまに耳栓を使っている……というのはエクレールの言である。そんなに壁の薄いアパートに住まわせて、ホープとしてはセキュリティやプライバシーが心配で心配でならないのだが、同じ職場の同じ研究室、室長と助手という関係のせいでなかなか同居に持ち込めない。
「……やっぱり一緒に住みましょうよ。それで週刊誌の張り込みが来たら惚気ましょうよ。そういうの夢だったんです」
「だから転職する気はないって言っているだろ」
「転職しないで僕と一緒に住みましょ?」
「それはいろいろうるさいだろ、外野が」
外野なんてどうでもいいです、とさらにぎゅうぎゅうエクレールを抱きしめていると、白い指先が腕をはたいた。
「どうでもよくはないだろ。……それで、結局私はその下着を買わなきゃいけないのか?」
つやつやと光る紅い唇が、まるで誘うようにホープの近くに寄せられる。普段外でこんなことしないのになぁと嬉しく思いつつ顔を寄せると、外野がうそぉ、と悲鳴が上がる。
(こそこそするんなら、もっと隠せばいいのに)
どうせ隠す気もないんだろう、と思いながら唇に触れようとすると、指先で押し返される。
「いいじゃないですか、ほら、あなたは僕の婚約者なんだし」
不届きな外野にも聞こえるようにはっきりと声に出せば、彼女の頬が赤く染まる。そのさまを見るだけで、もう外野の様子などどうでもよくなっていた。
「僕のために、買ってください」
この人は僕のものだ。誰が奪おうとしても、僕たちの絆に立ち入れるはずがない。そんな優越感を覚えながら、ホープはエクレールの額に唇を押し当てる。
「ホープ!」
きっと軽く睨む彼女の蒼の瞳はどこまでも澄んでいて、反射的に青い下着も買ってもらおうと思いついた。原色ではない、澄んだ湖面の色の下着。
「青いのも買いましょうよ。……サックス、っていうんでしたっけ」
「そうだが……話を逸らすんじゃない。女ばっかりいる下着屋でそういうことをするなと言っているんだ。そういうところからマスコミにすっぱ抜かれたりするんだからな? 休暇明けに掛かってくる電話は八割私とお前の長期休暇の内容だからな? 今から私が保証しておいてやる」
実は一度、エクレールとデートしているところにマスコミと鉢合わせたことがある。幸いその記者が二人の知り合い……以前前の世界について話したことのある人間だったから、なんだか妙に輝いた微笑みのまま見逃してくれたのだ。結局その時は写真を取られることもなく、インターネット上に情報が流出することもなく、平穏無事ではあった。だが、いつまでもそうだとは限らない。
「……そうでしょうね」
二週間の休暇。今日がその一日目になるわけだが、二週間家でじっとしている気もない。二人でどこか遊びに行きたい。そうなれば、きっと人の眼は避けて通れないだろうし、件の記者のように見逃してくれるほどすべての記者が甘いわけではない。自分の欲望のままに動けないのは少しばかり悲しくはあるが、それでも二人を守るためだ。
「エクレールさんが僕の為の勝負下着を買ってくれたら約束します」
「……まったく」
仕方がないな、と彼女は溜め息を吐いた。ホープの手の中にある下着を奪い取り、サイズを確かめる。僅かに顔を顰めて、呆れたように口を開く。
「お前、これサイズ違うぞ」
「えっ」
そのサイズで合っていた筈なのに、と首を傾げれば、エクレールがさらに問いかける。
「どこにあった?」
「えと、そこです。……白の、」
「あぁ、これか」
暫くラックをごそごそと漁っていた彼女は、しかし新しい下着を持ち出すことなくホープに手渡す。
「それが私のサイズだ。……間違えるなよ」
「え、は、はい」
反射的に受け取って頷くと、彼女は満足そうにうなずいて、また下着を受け取った。
「エクレールさん、あの」
「カゴ、頼めるか」
「あ、はい」
言われたとおり手近にあるカゴを渡すと、ホープがおねだりした下着がぽんと放り込まれる。
「エクレールさん、蒼いのも」
ついでにおねだりすると、有無を言わせない口調でぴしゃりと言い切られる。
「色違いは買わない」
「じゃあほら、このフリル付きのやつにしましょう。総レースとかじゃないですけど、可愛いでしょう? ほらここ、ぱんつの紐なんてこれシルクのリボンですよ!」
手に取って白い下着の横にあった、デザインが違う下着を勧めるも、エクレールは首を横に振る。
「後は私の趣味で買わせてもらうからな」
「そんなぁ……」
「その代わり、後で着てやるから」
それならまだいいかなと頷いて、ふと首を傾げた。何やら誤魔化された気がする。
「ねぇ、エクレールさん」
「なんだ」
「下着のサイズ、なんですけど」
それだけで彼女は察してくれたらしい。ホープの耳元に唇を寄せて、小さな声で教えてくれた。
「お前に知られていることまで、外野に知られたくない。……ダメか?」
「駄目じゃにゃいです!」
ダイレクトに耳元に吹き込まれる吐息と声に、自分の声が裏返る。格好悪いとは思ったのだが、エクレールはそうは思わなかったらしい。
「なら、良かった」
くすりと小さく笑みを零して、彼女は言う。その笑顔が愛らしくて、ホープもつられて微笑んだ。
「ちゃんとあれ、後で着てくださいね」
仕方ないな、とエクレールがまた笑う。彼女の為なら、下着代ぐらいたっぷり払わせてもらってもばちは当たらないだろう、とにこにこしながら取り出した財布は、他ならぬ彼女自身の手によってホープのカバンの中に逆戻りした。ちょっと悲しかった。


☆  ☆  ☆


その夜のことである。
「エクレールさん、お風呂どうぞ」
自分の寝室にエクレールを呼びに行くと、彼女は下着を袋から出している最中だった。だいたいどんな下着を買ったかは知っているので、部屋に入ったところで彼女も特段怒ることはない。
「ああ、先に入ってくれ」
「だってエクレールさん、今日は疲れたでしょう?」
そうは言ってみたものの、家主が先に入れと言われてしまってはどうしようもない。
「……一緒に入りますか?」
「また今度な」
「じゃあ明日」
食い下がれば今度って言ってるだろ、と怒られてしまう。ちょっと悲しい気分になりながら、ホープはバスルームへととぼとぼ向かった。着ているものを全部脱ぎ捨てて、バスルームに入る。アロマオイルを垂らした湯船に浸かりながら、天井を見上げる。
「今日、エクレールさん……着てくれるかな」
下着のことである。昨晩ぐちゃぐちゃにしてしまったメイド服は洗って、既に乾いている。流石に外に出るときには着てもらえないので、今日は一日普段着でいてもらったことになる。
メイド服だけならばきっと着てくれると思うのだ。問題は下着である。結局あの白い下着以外は彼女の趣味であるらしい淡いパステルカラーの、総レースでもサイドリボンでもない(ホープから言わせれば)シンプルな下着を購入していた。エクレールが選んだ下着だ、どんなものだって彼女が着さえすれば何でも似合うと思うのだが、ホープのよこしまな希望を断るときに言ってくれたのだ。
『後で着てやるから』
エクレールに限って約束を違えることはしないだろうが、おそらく明るい場所では見せてくれまい。今までだって穿いている下着を見せてくれたことがないのだ、そこまでしっかり念を押しておけばよかった、と今さらながら後悔する。
「……」
ぶくぶくとお湯に顔を沈めながら考える。下着が見たいのは、何もよこしまな心からだけではない。彼女の恋人だという特権、優越感をまわりに振り撒きたいというのもあった。
(……エクレールさんのすべてを知っているつもりだった)
趣味嗜好も、生年月日も、身長体重も、スリーサイズも知っている。生活スタイルはおろか夜の事情だって知っているのだから、知らないことなんて全くないと思っていた。
(僕の知らないところであんな目に遭っているなんて……知らなかった)
どうして気づかなかったのだろう。
エクレールがひた隠しにしていたから?
ホープの耳に入らないようにしていたから?
(でも……それなら言ってほしかった。僕は、あなたの恋人なのに……)
今夜は無性に彼女を貪りたくてたまらなかった。
(すき、なのに。全部、僕のものにしたい)
(僕の色に、あなたを染めたい)
自分だけの、女神。いつだって背中を押してくれた。彼女の言葉を支えに、ずっと生きてきた。
(ブーニベルゼがライトさんを欲しがったのは、きっと僕がずっとあの人を欲しかったからかもしれない。……でも、渡さない。誰にも)
執着にも近い恋心を、メイド服を着たエクレールは受け取ってくれるのだろうか。自信を持って受け止めてくれるとは胸を張れないけれど、もしかしたら今ならその愛を受け取って、同じだけ愛情を返してくれるのではないだろうか、と思えた。

続く
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プロフィール
HN:
くれさききとか
性別:
女性
職業:
社会人
趣味:
読書、小説書き等々
自己紹介:
文章書きです。こちらではうみねこ、テイルズ、FF中心に二次創作を書いていきたいと思います。
呟いています→@kurekito

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