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ここは「花待館」の別館となっています。非公式で「うみねこのなく頃に」「テイルズオブエクシリア」「ファイナルファンタジー(13・零式)」「刀剣乱舞」の二次創作SSを掲載しています。
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C90新刊のWEB版になります。
LRFF13シークレットエンディング後、とてもワーカーホリックなホープ君がライトさんにとあるお願いをする話です。
同人誌版は後日BOOTHにて通販予定です。(エロシーンが大幅増量の予定です)
妄想による職業・世界観の捏造がございます。


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しゅるしゅるという衣擦れの音を聞きながら、ホープの胸がどきどきと早鐘を打ち鳴らす。絶対に似合っているだろうし、清楚で可憐な様が見られるのは嬉しい。ゆっくり爪先からドレスに足を入れて、するすると白い肌を隠していくさまを、細い指が白いエプロンのリボンを結ぶさまを想像するだけで堪らなくなって、エクレールさぁん、と甘えた声でホープはバスルームのドアに頭を擦り付けた。
「なんだ、ホープ」
何かあったか、と彼女がドアの向こうから問いかけてくる。
「もう待てないです」
「もうちょっとだから……待ってくれ」
その言葉はどうやら嘘ではないらしく、すぐにドアが開く。
「すまなかった、ホープ。待たせたな」
その向こうには、ヴィクトリアンタイプのメイド服を纏ったエクレールが立っていた。
「エクレールさん……」
端的に言えば、想像以上だった。フリルのカチューシャを乗せて艶やかに光る薔薇色の髪も、機能美と可憐さを両立させながらも上半身のラインをあでやかに際立たせている。彼女がドレスの裾を持ち上げると白い素足が露わになった。ぼうっと見とれていると、エクレールはちょっとだけ困ったような表情になって、ふっくらと艶やかな唇がそうか、と動く。ドレスの裾をチョンと摘んだまま、彼女はぺこりとお辞儀をした。
「お待たせいたしました、ご主人様」
真っ白なふくらはぎ。細い足首。もう、耐えられそうにない。突っ立っていないで早く風呂に入れ、という優しい言葉も頭に入らない。
「私は先に寝室で待っている……―――っ!?」
耐えられなくて、その言葉でホープの中で何かが切れた。大股に歩み寄って柔らかい身体を抱き締める。赤く色づいた頬を手のひらで包んで、瑞々しい唇に己のそれを重ねた。
「……!」
必死に塗った口紅ごと舐めとるように甘い香りのするそこを食む。ぬるりと口内に舌を滑らせれば、突然のことに小さな舌が逃げ惑う。捕まえて絡めると、エクレールが鼻から抜けるように甘く、高くて小さなうめき声をあげた。とんと小さく自分の胸を叩かれるのを合図に唇を解放すると、頬を真っ赤に染め上げて潤んだ眼差しで彼女がこちらを睨む。
「我慢、出来ないです」
「おい、ホープ……っ」
問答無用。彼女をひょいと横抱きにして、ホープは一目散に寝室を目指した。可愛らしい抗議の声はきちんと聞こえているが、この際聞かなかったことにする。寝室のドアを開ければ、腕の中のエクレールが僅かに身じろいだ。
「ホープ」
「大丈夫です、優しくします」
そんなことは知ってる! と怒られても、ベッドに向かうホープの歩みは止まらない。
「あ……」
目的地について、衝撃のないように優しくベッドに降ろすと、これからどうなるのか分かっているように彼女は頬を染め上げた。
「寝るって言っただろ」
「だって、興奮しちゃったんです」
ねえ、と柔らかな身体にのし掛かると、縋るように白い指先がホープの胸をなぞる。それからゆっくりと頬を撫でられて……額をぴん、と弾かれた。痛い。
「痛いです……」
「お前、風呂はどうした」
「う……」
すっかり忘れていた。本当は我慢なんて効くはずもないのだが、このままベッドに雪崩れ込みたいと見上げても、彼女は許してくれなかった。
「駄目だ。風呂に入って汗を流してこい。……でないとこのまま寝る」
正直に白状すると、ホープとしてはその方が困る。理性のタガなんてほぼ外れているのに、一晩中お預けなんて食らってしまったら明日は買い出しどころの騒ぎではないだろう。
「本当に待っててくれますか?」
「当たり前だろ。……そのためのメイド服なんだろう?」
前の世界ではまず見られなかったような悪戯っぽい微笑みに、ホープもくすりと微笑み返した。健全に似合うと思ったのは嘘ではないが、確かにそう言った目的が含まれていたことも否定しない。この変なところで聡明な恋人はそのあたりもよく分かって付き合ってくれるのが、本当に嬉しかった。
「……分かりました。急いでお風呂に入ってきますね。寝ちゃったら嫌ですよ」
「寝るもんか」
苦笑交じりの返答に満足して、ホープはいそいそとバスルームに向かった。
「……あ」
風呂から上がった後のことで頭がいっぱいで、着替えるべき下着のこともすっかり忘れて。


☆  ☆  ☆


辛うじてバスルームに置きっぱなしにしていたバスローヴを羽織って、今さらながら赤面して寝室に戻る。ベッドの上で大人しく待っていてくれたエクレールが出迎えてくれた。
「お前、着替え忘れてただろ」
「忘れてました」
てへ、と笑ってみせると、彼女はまったくお前は、と苦く笑う。
「後で穿くんだろうな?」
「もちろんです! そんな、ぱんつ穿かないと落ち着きませんし……」
「ならいい」
頷いた彼女の頬に手のひらを滑らせて、ふっくらした唇にもう一度口付ける。腰を引き寄せてシーツの海に沈めれば、鼻から抜ける甘い声とともにしなやかな腕がホープの背に回された。舌をねじ込んで思う存分口内を堪能して唇を離せば、二人の間に透明な糸が伝う。
「ねぇ、……いい、ですか」
「……ああ」
頬を赤く染めたその言葉が合図だった。メイド服の上から丸く張り出している胸に優しく触れる。そのままゆっくりと撫でさすると、エクレールがくすぐったそうに身を捩った。
「……っ、こら」
「こっちのほうがいいですか?」
指先に力を込めると、彼女が僅かに息を詰める。そのままむにむにと手の動きに合わせて柔らかく形を変えるその場所を思うさま揉み倒す。
「柔らかい、です」
「ん……」
身体を小さく震わせながら、時折はぁ、と息を荒げるのが実に色っぽい。普段の研究者然とした姿からは想像もできない、ホープだけが知っているエクレールの姿だ。ドレスの襟元のボタンに手を掛けて、彼女の耳元で囁く。
「優しく、します」
「……知ってる」
その返事を聞くや否や、ホープは目の前のボタンをぷちりと外した。三つ目までは容易に外せたのだが、その下はエプロンが邪魔で外せない。かといって買ったばかりのメイド服を破いてしまうのも気が引ける。だが脱がすのも……と迷っていると、エクレールがエプロンの中に手を突っ込んで、ぷちぷちと残りのボタンを外してしまった。
「これでどうだ? ……ご主人さま」
「とてもイイ仕事だと思います」
ありがとうございます、とエプロンの下に隠れた双丘に顔を突っ込むと、そのままぎゅっと頭を抱え込まれる。柔らかくて温かくて、何とも幸せな心地がする。
「ほら、このまま寝てしまえ」
「嫌ですよ」
優しい声に優しく返して、エプロン越しにふにゅんと胸を包み込む。手触りからするとどうやらブラジャーを着けているようなので、後ろに手を伸ばしてドレス越しにホックを外してみる。
「あっ」
「ブラジャー、着けてたら寝苦しいんじゃないですか?」
エプロンのリボンを解きながら囁くと、頬を赤く染めたエクレールはぷいとそっぽを向いてしまった。白くて小さな耳がほんのり赤く染まっている。おいしそう、と思ったときにはその可愛らしい耳をぺろりと舐めていた。
「ふ、ん……っ!」
「ご主人様の質問に答えてくれないんですか?」
「誰、が」
「だってエクレールさんがそう言ったんじゃないですか。……ね?」
何の飾り気も傷跡もない、滑らかな耳朶を舐めたり甘噛みしたりしながら囁いていると、もぞりと彼女の足元が動く。
「おしえて、エクレール」
たっぷり吐息を含ませた声を吹き込めば、エクレールは歯を食いしばって大きく震えた。
「ホープ、の……ば、か……っ!」
荒い息を吐きながら抗議する姿は劣情を煽りこそすれ、ホープのそういうやる気を削ぐ効果は何一つない。肩紐を留めているボタンを外せば、あっさりとエプロンは彼女の前を露わにした。もう一度腰のリボンを結んで、露わになった場所に手を伸ばす。何度触れても柔らかい双丘は、しっとりと手に吸い付いてくる。
「やらかい、です」
「あ、ああ」
震える声を漏らす恋人の両の乳房をたっぷりと手のひらで堪能してから、しっかりと主張してくる蕾を指先で弾く。
「……っ!」
「ここ、気持ちいい、ですね?」
「や、ぁっ」
勢いよく首を横に振りながらも甘い声を殺しきれないエクレールを、嘘ばっかり、と責め立てる。
「ここは気持ちいいって言ってますよ?」
きゅっと頂を摘んでやれば、耐えきれないというように背中が反った。もう一度シーツの海に沈めてから、ボタンが外されたドレスの前を肌蹴て、片方の膨らみを出してやる。それから濃いピンク色に主張している蕾に唇を寄せた。
「あ……ホープ……」
悩ましげに弾んだ吐息に腰のあたりがずんと重くなるのを感じる。舌を這わせれば、いやいやと首を横に振りながら嬌声が高く漏れる。甘噛みすれば、きっと彼女は耐えられない。だからちゅうっと強く吸い上げる。ホープの肩に置かれた手は、懸命に押しのけようとしているように見えながら、もう力が入っていない。
「あ、んん……!」
「駄目ですよ、噛んじゃ」
エクレールがきゅっと唇を噛み締める。それを咎めて、唾液に濡れた唇を人差し指で擽る。唇の力が緩んだ隙に、その温かな口内に指を潜り込ませた。それと同時に吸っていた蕾にかり、と歯を立てる。
「あ、ああぁっ!」
細い腰がびくびくと跳ねて、ホープのバスローヴを握る指先に力が籠もる。指に僅かに歯が当たったものの、彼女はすぐに可愛らしい声を聞かせてくれた。
「気持ちよかったですか?」
「……それ、は……」
まだエクレールの中で羞恥心が捨てきれないらしい。唾液に濡れた赤い頂を弾いてやると、ひぅ、と高い声が漏れる。このまま何もわからなくなるぐらいに二人でドロドロに溶けてしまえば、恥ずかしがりやの彼女も素直になってくれるだろうか。なってくれるとは思うのだが、如何せん彼女がそうなる頃には自分も何もわからなくなって、無我夢中で愛を貪っているためによく覚えていないのである。
「じゃあ、気持ちよくなりましょうね」
ついとお腹を撫でると、赤い頬がますます赤くなる。そのまま手は下に。スカートを持ち上げて、淡いクリーム色の下着に口付ける。
「可愛い」
賢明に閉じようとする脚の間にはホープの身体が挟まっている。ぽすぽすと踵で軽く蹴ってくる恋人の太ももをがっちり抱え込んで、右の内腿に口付けた。
「い、やだ……っ」
「嫌、ですか?」
ぺろぺろと舌を這わせながら聞けば、恥ずかしい、と答えが返ってくる。とはいえこういうことを知らない仲ではない。行きつくところへは行っているのだから、彼女の身体は僅かな期待にふるりと震えている。今だってホープに敏感な太ももを舐められながら、びくびくと身体を震わせて耐えているのだ。その我慢している様がやはりどうしようもなくいやらしく見えて、抱えていた片足を肩に乗せると、その指先でショーツのクロッチをなぞった。温かさと、にじみ出る湿り気が指に伝わる。
「濡れて、ますね」
「ぁ……は、ぁ……ほーぷが、あんなこと、するから……あぁっ!」
無我夢中でその場所を弄りながら、ホープは自分の腹の奥からぞくぞくと震えが走るのを感じた。バスローヴの帯を乱暴に解いて脱ぎ捨てると、エクレールに覆い被さって唇を重ねる。
「ん、……ふ、ぁ……」
貪りながら下着を脱がせて、柔らかい尻を揉みしだく。嫌がって逃げ出そうとする身体を捕まえたまま、その奥の泉へと指先を伸ばした。温かい滑りに誘われるようにつぷりと指が沈む。喉の奥でエクレールが声にならない嬌声を揚げた。唇を離せば、彼女は身を捩って逃げようとする。
「逃げないで」
「だ、って……これ、汚れるだろ」
結構高いんだろう、と言われて、それもそうか、と納得してしまう。確かに安くはなかった。元々コスプレ用に売っていたものではなく、急にメイドを雇うことになった家の為に売っていたものだ。したがって生地の材質もいいし、ボタン一つとっても細かい装飾が施されている。本当にメイドを雇う家ならばデザインにもっと細かい指定ができるらしいが、出来合いのものでも十二分に良いものである。
だがしかし、だ。
「駄目です。……だって、僕のこと、監視してくれるんでしょう?」
「だからってこれじゃなくてもいいだろ!?」
「それこそ駄目ですよ。これじゃなきゃ僕、ちゃんと寝ません。……それに、この方が気持ちいいんじゃないですか?」
瞬時にエクレールの頬がリンゴもかくやというほどに染まる。初めての時から今に至るまで彼女は一言もそういうプレイが好きとは言わなかったが、まさか我慢していたのだろうか。
「……あの」
「おまえ、はっ!」
むにににに、と頬を引っ張られて、ホープは堪らず悲鳴を上げた。
「ひゅわあああ、いたいれふ!」
「どうして! 余計なことを! 言うんだ!」
ぶにっと力の限り引っ張られた頬は、解放されたときにはじんじんと小さな痛みが残っていた。素直にごめんなさいと謝れば、そっぽを向かれる。
「エクレールさん?」
「もう、今日は寝る」
「えっ」
ここまで来てお預けなんて酷い、とショックを受ける間もなく、気付けばホープはエクレールに覆い被さっていた。
「駄目ですよ、エクレールさん。……ご主人様の顔を引っ張るなんて、お仕置きが必要、ですよね?」
「まだそのネタを引っ張るのか!?」
「引っ張りますよ? だって、こうすれば今夜は二人きりで仲良くできるでしょ?」
お前、とまた身を捩る彼女の泉に、再び指先を差し入れる。少しなぞれば腰が跳ねて、とろりと蜜が零れてくる。その滑りの力を借りて、差し入れていた指を二本、ぐっと奥まで差し込んだ。
「あ……っ」
「ほら、気持ちよくなりましょう?」
滴る蜜を指先に纏わせてエクレールの一番敏感な芽に親指の腹を這わせると、甘い声は一層高くなる。
「気持ちいいですか?」
耳元で囁くと、僅かに頭がこくりと頷く。それに気をよくして探るように刺激を加えれば、スカートをめくられて露わになった白い腰が誘うように怪しく揺れた。
「ホープ」
涙の膜の揺蕩う蒼い瞳がホープを見つめる。何度も口づけを交わしたせいでグロスの取れかけた唇が、ホープを呼ぶ。
「終わったら、本当に寝るんだろうな……?」
「ちゃんと寝ますよ」
そう言って指を引き抜けば、その指先に名残惜しげに蜜が纏わりつく。彼女の腰を抱いて、入り口に己の怒張を宛がう。
「ね、いい、ですか……?」
「ああ。……いい」
その甘く掠れた声に誘われるようにゆっくりと侵入すると、鋭く息を吐く音と共にエクレールの身体がぐっと弓なりに反った。
「……だいじょうぶ、ですか」
ぎゅうぎゅうと搾り取らんばかりに締め付けてくる彼女の中に、ホープも息を詰めながら問いかける。まるで金魚のように唇をはくはくと動かしながら、それでも頷く恋人がいじらしい。
「……動きますよ」
「ん……」
部屋の中が快適であることに越したことはないと設置したエアコンの稼働も空しく、二人して汗だくになりながら動き出す。上になったり下になったりしながら何度も欲望を吐き出して、結局エクレールが一番高い嬌声を上げてぐったりとシーツに沈み込むころには二人とも疲労困憊の体だった。ホープとしては非常に満足したけれども。


☆  ☆  ☆


気が付けばうとうとと微睡んでいたらしい。ぶにぶにと頬を引っ張られる感触に目を覚ますと、恋人がホープの頬をふくれっ面で引っ張っていた。
「あの、怒ってます……?」
恐る恐るホープが問い掛けると、かすれた声が怒ってない、と返ってくる。水の入ったグラスを差し出せば、エクレールはのろのろと起き上がって飲み干した。唇の端から溢れた水が白い肌をつうと伝う様に、どうしようもなく身体が熱くなる。冷たいものでも食べれば少しは治まるかと部屋を出ようとすると、気だるげにこちらを見つめるエクレールと目があった。
「どうした……?」
「アイスキャンディ、食べますか? 暑すぎて買いだめしてたんです」
持ってきますよ、と微笑みかけると、彼女はこくんと頷いた。その様は先程の乱れ方からは想像もできないくらいにいとけなくて、ますますホープの口許が緩む。何て可愛い人なんだろうと幸せを噛み締めながらキッチンに向かい、冷凍庫を開けると……少し前に買った練乳アイスキャンディの箱が鎮座していた。
「練乳……」
このアイスキャンディを買った日は非常に暑い夜だったのも、あまりに疲れていて甘いものが食べたかったのも認めよう。エクレールさんも練乳好きかな、と思ったのも認めよう。買ったその時は特になにも考えず、甘くて美味しいアイスキャンディが手に入ったことに大喜びだったのだ。決して疚しい想像をして買った訳ではない。……のだが、先程まで彼女と仲良くしていたホープの頭の中では、そういう妄想がぐるぐると繰り広げられていた。ちょっと細めの白いアイスキャンディをくわえる艶々の唇とか、溶け出てきた練乳や手首を伝うアイスの雫が落ちてしまわないように舐めとる小さな舌だとか、齧ったキャンディを呑み込む喉の動きだとか、色んなものがもわもわと脳裏に渦巻いている。ただでさえ先程の余韻が残っているのに更に燃料が投下されて、興奮するなという方が無理というものだ。
「わぁぁあああ!!!」
思わず悲鳴をあげてごんごんと額を冷蔵庫にぶつけ、自分にだけ都合のよい、大分いやらしい妄想を振り払う。自分を沈めるためにアイスキャンディを取りに来たのに、これでは台無しだ。
「早く持ってこう……」
額をさすりながらアイスキャンディを二本取り出して、冷凍庫のドアを閉める。寝室に戻ると、軽く身なりを整えたらしいエクレールがスカートの裾を摘まんで出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
可愛い。
「僕、幸せです」
素直に呟けば、ちらりと軽く睨まれる。
「二週間だけだからな」
勿論構いませんとも。ご主人様とメイドが本職ではないのだから、普段は恋人同士がいい。それが分かっているから、きっと彼女も引き受けてくれたのだろう。
「で、……なんで練乳」
ホープの手にあるものに目を留めたエクレールは、露骨に怪訝そうな顔をする。
「いえあの違うんです! たまたま買ったのが! 練乳だったんです!」
「珍しいな」
いつもはアイスコーヒーで済ませるやつが、と言われて、そういえばそうだと思い当たる。基本的にホープは職場では甘いものは食べない。学生の頃からそうだったが、両親のくれるものや仕事でもらうもの以外は食べ物をもらったことがない。なまじ女性に人気があったからクリスマスには山ほどお誘いが来たし、「もらってください」と女性から綺麗にラッピングされたファッジやチョコレート、クッキーの類を差し出されることも多かった。
それらをすべて受け取らなかったのは、エクレールがこの世界に生きている、という確信があったからだ。いわば一種の願掛けのようなもので、研究室の教授や両親にも「どうしても会いたい人がいるから、甘いものを我慢する」と宣言してなるべく甘味を避けていた。友人には大層心配されたし、モテるからとやっかみを言われたこともあった。
今でも甘いものをあまり食べないのは、その時の癖がまだ残っているのと、単純にエクレールもあまり食べないからである。再会する前のことはあまり教えてくれないが、モデルのバイトをしたことがあるとセラに教えてもらったことがある。おそらくその時の習慣が残っているのだろう。
そのホープがアイスキャンディを買った、というのがどうやら彼女には不思議らしい。これからはもう少し積極的に甘いものを食べるべきかなぁと思いながらも、練乳アイスキャンディを買った理由を口にする。
「一番甘いのが食べたくて」
「それだけ毎日遅くまで仕事をしていればそれは疲れるだろうな」
私も買って帰ればよかった、とぼやくエクレールにアイスキャンディを渡すと、先程までホープと絡めあっていた小さな舌が白くて硬い氷の塊をぺろりと舐めた。これはとんでもないものを渡してしまった。彼女は恐らくそんなつもりで舐めているわけではあるまいに、どうしても先程の下世話な妄想が頭をもたげる。思わずごくりと唾を飲み込むと、青い瞳がちらりとこちらを向く。
「何見てる? ……溶けるぞ」
「わひゃい!」
その言葉にホープも慌ててアイスキャンディを口に運ぶ。冷房が効いていても少しだけ溶けていた。しゃりしゃりと音を立てて食べ進め、練乳の甘さを堪能する。冷えていると甘さは感じにくいが、恋人と食べているからか十分に甘い。しあわせ、なんて感慨に浸っていると、あっ、と焦ったような声が耳に入った。
「エクレールさん?」
「れ、練乳が溶けただけだ、気にするな」
見ればアイスキャンディを持つ彼女の指に、とろりと真っ白い練乳が垂れている。ぱくりと指をくわえて練乳を舐めとった後、彼女は慌てて氷の塊を口に運ぶ。もうそれだけでホープはどうしたらいいか分からなくなって、とにかく自分の分のアイスキャンディを口に運んだ。お腹の中は冷えても、多分別のところは冷えてくれない。何故なら目の前に赤くて小さな舌で白い練乳をぺろぺろと舐めとっているエクレールがいるからである。
「ホープ……?」
何時の間にやらアイスキャンディを食べ終えて、彼女が不思議そうな目でこちらを見ている。
「お前、さっきから変だぞ? そんな据わった眼をして……」
「だ、大丈夫です。ちょっとヨコシマな妄想をしてただけですから」
「ヨコシマな妄想ってお前、まさか」
ぽろりと零した本音に何かを察したのか、エクレールの眼がついとホープの下半身に向く。そういえば下着を穿き忘れていたと目を移せば、興奮したせいか何だか股間が立派なことになっている。
「あの……お前、この後はもう寝るんだよな!? 寝ると言ってくれご主人様」
「これで寝ろと言いますか!? 無理ですよ!」
あまりに真剣な表情でそんなことを言われて思わず訴えかけると、エクレールは頬を真っ赤に染め上げる。そのままじっとホープの眼を見つめて、おずおずと口を開いた。
「どうしたら、寝るんだ……」
「どうしたらって、それは……ですね」
下半身の立派なものが落ち着かない限り寝られないし、このまま放っておいてはどうやったって落ち着かない。かといってエクレールの前で「すみませんトイレで落ち着けてきます」なんていうのは寂しいし格好悪いような気がする。が、彼女の先ほどの言葉を聞く限り、多分今夜はもう寝てほしいのだろう。
「手伝っていただければ……その、多分」
「多分ってなんだ、多分って」
胡散臭そうな目をしながら、それでも彼女はホープの欲望の先端に手を伸ばす。
「……とにかく、落ち着けば寝るんだな?」
「落ち着けば、ですけど」
「わかった。……メイドの仕事には多分含まれていないと思うがな。私はメイドじゃなくてお前の……その、恋人、だから」
「エクレールさん……」
恋人であるというその言葉が、素直に嬉しい。エクレールはきゅっと眉間に皺を寄せて、あのな、と不満げな声を上げる。
「もう私は眠いんだ。落ち着かないと寝れないっていうからやっているだけで、お前が落ち着いたら寝るからな」
「わかってますよぅ」
おそらく本当に眠いのだろう、少し機嫌の悪そうな声に唇を尖らせると、彼女はならいい、とだけ言ってホープのアレを指先でなぞった。
「今日は本当にこれで寝るんだぞ」

☆☆☆

「……ごめんなさい、やり過ぎました?」
「今日だけで……何回目だ……」
その言葉すらもう疲れ切っていて、この情事に彼女の残った体力を使わせてしまったと思い当たる。
「だって、ここのところ、ずっと仲良くしてませんでしたし……研究室は人がいないから、昨日も仮眠室に連れ込みたい衝動と戦っていたんですよ」
そう。エストハイム研究室にはエクレールのほかに職員がいない。就職したいと願い出る者(特に女性が多かった)もいたし、推薦状も山のように届いていたのだが、ホープはエクレールを除いては一度として助手というものを採用したことがない。
何も研究会で知り合った研究者から助手に熱い眼差しを向けられたと愚痴をこぼされたことがあるからではない。単にエクレールを探すという目的に、助手など不要だと思ったからだ。後日件の研究者に恋人を助手にしたと報告したところ、痴情の縺れになりそうな助手などいらないだろうと愚痴られたのだが、確かに一理あると思ったために彼女以外には助手を迎えていないのである。
そんなわけで研究などが長引いたときの為にある仮眠室ではあるが、ホープとエクレール以外は足を踏み入れたことすらない。本当はそこで仲良くしたいな、などと考えてはいたのだが、そうは問屋が卸さない。研究室でも二人きりではあるが、もし仲良くして資料が汚れてしまったら、きっと二人とも後悔する。ならば仮眠室でと企んでいたのだが、そういうわけにもいかない。仮眠室に行くと言えば、エクレールは必然的に電話番をすると言い出すのだ。
故に己の欲望を抑えるのに必死だった、といえば、彼女は気だるげに眼を開けて、そうかという。
「そうですよ。ずっと我慢してたんですから」
「……だからこんなに?」
「そうです。本当は毎日仲良くしたいくらいなのに……」
ぶつぶつと恨みがましくつぶやいていると、けだるげな声が耳を打つ。
「じゃあ、今度泊まるか」
「本当ですか!?」
「……ああ。もっともばれたら大変なことになるだろうがな」
「そんなことは承知の上ですよ!」
「そう、か」
そうですよ! と力説すると、エクレールは嬉しそうにとろりと笑って、眠そうな声でふにゃりと呟く。
「きたい、してる」
「な、な、な」
なんですと!? 期待している!? あまりに嬉しすぎる言葉に一瞬自分の耳を疑った。乱れっぱなしのメイド服に包まれた肩を掴んで揺すって、もう一度言ってほしいと切に願ったが、残念ながら彼女はすでに眠りの淵に落ちていた。規則正しい呼吸を聞きながらホープは自分の口の端が上がるのを感じる。
「がっかりは、絶対にさせませんから」
手放すつもりはない。でも、エクレールが翼を広げて大空を舞う姿が見たい。それは相反する願いだろうか。……なににも囚われない彼女が見たいと願うのに、自分に囚われてほしいと願うのは、果たして罪だろうか。彼女の期待を裏切るつもりなど毛頭ない。それでも、ホープ・エストハイムと結婚などしない方が……彼女は幸せなのだろうか。
「……僕と結婚した方が……幸せですよね?」
一人だけでは答えなど。到底出ようはずもない。それでも、ふとした瞬間に不安と疑念に襲われる。前の世界でホープの前から姿を消した彼女。二十一歳という若さで前の世界でのライトニング……エクレール・ファロンという人生を散らした彼女は、本当はどんな生き方がしたいのだろう。彼女には何が一番必要なのだろう。……それは、ホープに与えられるものだろうか。ホープ自身が持っているものだろうか。
「……なければ、どうなっちゃうのかな」
窓の外では、暗闇の中で木々を渡る風がざわざわと鳴いていた。不安をあおるその音を聞かなかったことにして、彼は無理やり先ほどまでの幸せな気分を思い出す。
「エクレールさんは今ここにいる。……それで、いいじゃないか」
たとえそうでなくとも、今彼女がここにいる現実のほうが重要だ。そう思うことにした。

続く
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くれさききとか
性別:
女性
職業:
社会人
趣味:
読書、小説書き等々
自己紹介:
文章書きです。こちらではうみねこ、テイルズ、FF中心に二次創作を書いていきたいと思います。
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