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ここは「花待館」の別館となっています。非公式で「うみねこのなく頃に」「テイルズオブエクシリア」「ファイナルファンタジー(13・零式)」「刀剣乱舞」の二次創作SSを掲載しています。
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お久しぶりです。
今回はツイッターでお世話になっている「そらそらぶるー」のそら様からリクエストをいただいたカノジェシSSです。
そして今回びっくりするほど暗いです。あと紗音ちゃんがなんだかんだで酷い。
嘉音くんはいつも通りヤンデレです。
あ、あとさりげなく朱志香=ベアトリーチェ説です。リクエスト品なのにこんなので本当に申し訳ないです……。
それから拍手やコメントありがとうございます、お返事していいものなのか分からないのですが、本当に嬉しいです!

それではどうぞ。

「鳥籠破り」



拍手[3回]


決して恋い焦がれてはならない人だと分かっていた。
それでも恋をして、初めて他人の世界に踏み込んだ。
彼女の中に期待していたものが見つけられなくて、初めて本当の意味で彼女の世界を土足で踏みにじった。
それなのに微笑む朱志香が愛しくて悲しくて、彼女をこの腕の中に閉じこめた。
本当の意味で嘉音を受け入れた朱志香を、彼は一生守りたいと思ったのだ。
例えその先に待つのは深く険しい茨の森だとしても。

鳥籠破り

カーテンから差し込む光に嘉音は目を覚ました。窓の外を見ればまだ暗い夜空に生まれ出でようとする太陽の光が差している。まだ少し眠れるとベッドに潜り込もうとして、普段よりも柔らかい感触に若干の驚きを覚える。ふと隣を見れば、金色の髪の少女がこちらに背を向けて眠っていた。
そして、彼は思い出す。
昨夜は彼女を腕の中にかき抱いて、無理矢理にでもこちらを向かせて、そのまま寝てしまったのだ。
「朱志香……」
少女の名を呼んで、再びその華奢な身体を抱きよせる。
「ん……」
朱志香が目をゆっくりと開ける。そのあどけなさが愛おしくて、出来るだけ優しく声を掛ける。
「お目覚めですか?」
「か……嘉哉、くん……」
彼女の瞳に一瞬だけ浮かんだのは恐怖の色。それは紛れもなく嘉音がしたことの代償。無理に事を急ぎすぎて呼ぶことを強いた彼の本名は朱志香の悲しみに彩られていて、それが少しだけ寂しかった。
「お体は……大丈夫ですか?」
「う……ん……」
「今夜はもう……何も酷いことをしませんから……」
抱きしめて柔らかな金髪を梳けば、朱志香は俯いて遠慮がちに腕を彼の背へと回す。
「朱志香様……」
「……ごめん、ね……」
「……?」
「もう、ずっと……嘉哉くんだけ見てる……から」
「朱志香様……ずっと、あなたを離さなくても……許してくれますか?」
「……うん……」
再び顔を上げた朱志香の瞳に恐怖の色はもう無かった。
代わりに浮かんでいた嘉音が求めて止まなかった幸せそうな笑顔に、彼は涙が出るほど嬉しさを感じた。

数日が経った。
「おはよう、嘉音くん」
「おはよう、姉さん」
いつも通り紗音と挨拶を交わす。いつもは優しい光を湛えているはずの紗音の瞳は何故か冷たくて、彼は違和感を感じる。それを知ってか知らずか、彼女は何食わぬ顔でこちらに問う。
「お嬢様と何かあったの?」
「……別に、何も」
「……そう。私の勝ち、だね」
それが何のことなのか、嘉音は気付くことが出来なかった。

その朝の申し送りで源次に解雇を言い渡されるまでは。

「どういうことですか!?」
「私にも分からん。……本当に思い当たることはないのか?」
問いつめれば源次は溜息を吐いて逆に問い返す。
「……ありません」
朱志香との逢瀬は数えるほどはあったけれど、二人が逢うのはいつも朱志香の部屋だったし、ましてや何処かに行ったことなんてない。本当に分からない。
『私の勝ち、だね』
紗音の言葉がフラッシュバックする。そして、嘉音は思い出す。
家具である自分が朱志香と結ばれるためには紗音が譲治と結ばれるのを阻止しなければならないことを。
そして紗音も嘉音が朱志香と結ばれるのを阻止するであろうことを。
まさか、そのために付け回していたとでも言うのだろうか。
そして嘉音が朱志香と進展したことを知り、夏妃に言いつけたのだろうか。
それしかない。
紗音は右代宮家に勤める前から仲良くしていた姉だから疑いたくはないけれど、それしか考えつかない。
「……」
姉は嘉音の幸せよりも朱志香の幸せよりも、自分と譲治の幸せを取ったのだ。
祝うと言ったくせにとても祝う気分にはなれなくて、嘉音は荷物を纏めるために自室へと向かったのであった。

荷物を纏めながら考えた。
何年も想い続けてようやく朱志香と結ばれたのだ。このまま彼女を一人にはしたくない。
愛し合うことそれ自体が罪だなんて純粋な朱志香に教えてしまうわけにはいかない。
けれど解雇された以上ここには居られなくて、それが悔しくて涙がこぼれる。
嘉音はどうすればいいのか考え続ける。
解雇されて何もしなければ彼女は自分を捜すことすら許されないだろう。
それならば。
「……絶対に……朱志香に相応しい人間になって戻ってくる……!」
溢れる涙を拭いながら彼はそう決意した。
そのまま朱志香の部屋へと急ぐ。ノックをすれば愛しい彼女が何も知らない無垢な笑顔で出迎えてくれる。
「朱志香」
「ん……!?」
部屋の中に入って朱志香をきつく抱きしめる。
「朱志香、聞いてください」
「う、うん……」
「僕は……右代宮家を解雇されました」
耳元で彼女が息を呑む。
「え……!?」
「紗音に……あなたとのことを密告されて……」
「そんな……っ」
体を震わせる朱志香をもっときつく抱きしめる。彼女が離れてしまわないように。そして、告げる。
「しばらく会えませんが……僕は必ずあなたの元へ戻ってきます。ですから待っていてください」
沈黙が降りる。悠久に感じられるほどの長い長い沈黙のあと、彼女が小さな声で呟いた。
「どのぐらい……?」
「え?」
「どのぐらい、待てばいいの……」
「……分かりません。しかし」
「いいよ……来なくても、もう……」
「朱志香……」
「待たせるだけ待たせて、結局は誰も来ないから……もう、そんなに期待させなくて、いいよ……」
朱志香の声色は悲しみと絶望に満ち溢れていて、嘉音の胸が締め付けられる。その言葉には何が去来するのか、彼には分からない。
彼女が昔の思い人をどんな気持ちで見送ったのか、この言葉で全てが分かるような気がして、嘉音の中に言いようのない憤りがわき起こる。
彼がここで去っていってしまえば、朱志香はまた独りぼっち。
紗音がいようといとこがいようと、結局鳥籠に一人残されることには変わりないだろう。
その寂しさはどれほどだろう。
自分を閉じこめる鳥籠を、広い空を舞うことすら許されないその身体を、どれほど呪うだろう。
ならば、期待をさせる必要などないではないか。彼女を手放す必要などないではないか。
「……分かりました」
「うん……」
「ですから、今日一日だけここに匿ってください」
だからそう囁く。
「どういうこと……?」
「あなたをこの島から攫っていきます」
もう一度、朱志香が息を呑んだ。
「……!」
「あなたをここに残して悲しませるぐらいなら、例え僕の身体が引き裂かれようとあなたを無理にでも攫っていく……ですから、今日中に荷物を整えてください」
「嘉哉くん……」
「もう僕はあなたを悲しませたりしない。ずっと朱志香を離さない!だから……!」
「本当、に……?」
彼女がこちらを向く。真っ直ぐ目を合わせて嘉音は叫ぶ。
「本当です、どうしても……どうしても朱志香と一緒にいたい!誰に反対されようと、例え世界中を敵に回しても、僕は朱志香が欲しいんです!」
彼女を愛しているからこそ、手放せない。
彼女に恋をしなければこの狂おしい渇望は生まれなかっただろう。
幾万の言葉を尽くしても言い尽くせないほど、彼は彼女を欲していた。
だからこそ泣きそうな顔をして立ちつくす彼女の沈黙に不安を覚える。
もしも嫌だと言われてしまったらどうしよう。
自分となどいたくないと言われてしまったらどうしよう。
その不安を必死で押し込めて声を掛ける。
「朱志香……」
不意に、朱志香の頬を涙が転がり落ちた。
「朱志香……?」
「そんなこと言ってもらったの……初めて……」
「朱志香……」
「本当に……初めて……ありがと……」
そう何度も繰り返す朱志香が愛おしくて恋しくて、その身体をさらに抱きしめる。
「愛しています……僕と一緒に、生きてください……!」
「うん……私も……私も嘉哉くんと一緒に生きたい……!」
その言葉と、背中に回された温かい手の感触が何よりも嬉しかった。

暁に近い夜の静寂の中で波の音だけが船上の二人を包む。
もうこの島には戻らない、戻れない。
朱志香を六軒島から盗み出すということがどういうことなのかなんてわかりきっている。
二人を待ち受ける試練は山ほどあるだろう。
それでも朱志香が欲しかった。彼女を悲しませたくなかった。
繋いだ手に力を込めれば、同じだけ握りかえされる。
「朱志香……僕は、あなたを攫っていくことを後悔したりしません」
「うん……」
「どんなに辛いことがあっても、僕はあなたが傍にいてくれるだけで頑張れます」
「うん……私も、辛くても……嘉哉くんが傍にいてくれるから……」
決して恋い焦がれてはならない人だと分かっていた。
それでも恋をして、初めて他人の世界に踏み込んだ。
彼女の中に期待していたものが見つけられなくて、初めて本当の意味で彼女の世界を土足で踏みにじった。
それなのに微笑む朱志香が愛しくて悲しくて、彼女をこの腕の中に閉じこめた。
本当の意味で嘉音を受け入れた朱志香を、彼は一生守りたいと思ったのだ。
例えその先に待つのは深く険しい茨の森だとしても。
朱志香が笑っていてくれるなら、嘉哉はどんなことでも出来る。
誰が許さなくとも、二人の愛は二人の幸せなのだから。
新しい陽が昇る。地平線から溢れ出るその光の中で、二人は祝福の口付けを交わしたのだった。

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