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ここは「花待館」の別館となっています。非公式で「うみねこのなく頃に」「テイルズオブエクシリア」「ファイナルファンタジー(13・零式)」「刀剣乱舞」の二次創作SSを掲載しています。
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最後です。いやぁ、長かった!もしかしたらNG集UPするかもです。
実はこれ、友人に贈るものなんですよね……こんなんでごめんなさい。

!諸注意!
・朱志香が碑文を解いて次期当主になっています。
・ついでにベアトリーチェ=朱志香になっています。
・マリアージュ・ソルシエールと戦人の過去に多大なる捏造があります。

では、どうぞ。

Romance to decadence 後編



拍手[2回]


杭を3人の死体に打ち込んで、部屋を出る。3人も銃で殺したからか、まだ気が高ぶっていた。このまま戻れば、朱志香に今度こそ無体を働いてしまうかもしれない。
それだけは避けたかった。そうすれば彼女は二度と嘉音を見ようとはしてくれないだろうから。
だから、血糊を取り出して手にべったりと付ける。それをドアノブやドアにべたべたと擦り付ける。一通り擦り付けて気が済むと、ハンカチで手を拭って今度こそ書斎に戻った。
朱志香は気を失ったように眠っている。その青白い頬が、シーツを固く握りしめる両の手が、とてもとても愛おしくて、嘉音は布団ごと彼女を抱きしめた。
「ん……」
「朱志香様……」
いやいやと拒絶するように藻掻く身体を捉える。暫くそのままでいると、朱志香の小さな声が聞こえた。
「こんなことして……満足なのかよ……?」
「満足です……これで、朱志香様と二人きりになれたのですから」
「ふたり……きり……?まさかっ……!」
「紗音と譲治様と、郷田が最後の生け贄です」
「郷田さん……譲治兄さん……紗音……!!」
親友と従兄、それに親しい使用人を殺された少女の瞳には怒りやら哀しみやらが綯い交ぜになって、今は絶望が沈んでいた。その瞳から、はらはらと幾筋もの涙が流れる。
「朱志香……僕が死んでも、そんな風に泣いてくれましたか……?」
--あの文化祭の夜も、あなたは泣いてくれましたか?
それが伝わったようで、朱志香は嘉音の肩口に顔を埋めて泣いた。
「何言ってるんだよ……!泣くに決まってるだろ……文化祭の時も……泣いたよ……!」
「……僕を愛してくれますか?」
「……っ」
壊れたカセットテープみたいに何度も繰り返す台詞。たった一度頷いて、心から愛してくれればもう誰も傷つかないですむのに、朱志香は頑なに返事をしなかった。
「……僕は紗音が憎らしかった。僕の朱志香への恋心を玩具にして、陰で叶わぬ恋に落ちた愚か者と笑っていたから……あんな蝶のブローチで恋が叶うなんて言って……騙して……」
「違う……違うよ……嘉音くん……」
1人語りに朱志香が否を唱えた。
「あの蝶のブローチは……私がお守りにあげたんだ。私は物語に出てくるような魔女じゃないから本物の魔法のブローチをあげることは出来なかったけど……信じれば奇跡は起こるって……だから紗音は信じて、譲治兄さんに想いを伝えたんだ。……嘉音くんがこんなに苦しむなら、あのとき……紗音がブローチを返してきたとき、貰っておけば良かった」
「朱志香が……ブローチを……?」
「紗音に幸せになって欲しかったんだ……!」
両手と両足を拘束されたまま、朱志香はそれでも他人を想う。彼女が最初に幸せを願ったのは嘉音ではない。
紗音だ。
冷静に考えれば出会ってまだ3年ほどしか経っていない嘉音よりも、小さな頃から付き合いがある紗音のほうが優先順位が高いのも仕方がないのだが、あいにく嘉音の心は冷静になれるほどの広さが残っていなかった。
「では、紗音の代わりでもいいから……僕を幸せにしてください」
抱きしめたまま、ベッドへと雪崩れ込む。さすがに彼女も子どもではない。自分が今、どんな状況に置かれているのか理解したようで、涙を流し続けながらかたかたと震えだした。
「か、嘉音くん……嫌だっ!やめて!離してっ!」
「僕だけを見てください……僕だけを愛してください……朱志香……っ」
狂おしい恋情に突き動かされてかき抱いた身体は細く頼りなく、必死に抵抗しようとする彼女にますます愛おしさが募る。
「ずっと、ずっと愛しています……朱志香……」
「嫌っ……嫌ぁっ……助けてっ……戦人ぁっ!」
かあっ、と嘉音の胸が熱くなった。この期に及んで、未だ彼女は自分だけを見てくれない。
そう言えば、もうすぐ日付が変わる。南條と熊沢の死体も、紗音達の死体も、とっくに楼座達に発見されている頃だろう。金蔵の死体はボイラー室に放り込んで、もしかの時には燃やそうと思っていた。結局出番はなかったが。
そろそろ源次が戦人達を連れてくる頃だろう。
「朱志香……っ」
無理矢理口づけて、スカートの下のタイツに手を掛ける。
ノックが響いたのはそのときだった。
「やっ……誰か、来たから、やめて……っ」
朱志香の懇願も来訪者には聞こえない。小さく舌打ちして、タイツに掛けていた手を離すと、嘉音は彼女を横抱きにして金蔵の椅子に再び拘束した。
「失礼致します」
入ってきたのは、今現在生き残っている全員だった。楼座、真里亞、源次、そして、戦人。
「朱志香……嘉音くん……生きてたのか!?」
「最初から殺されてなどおりません」
戦人の驚愕の声に、嘉音は素っ気なく答えた。銃を構える楼座の横をすり抜けて、真里亞が金蔵の椅子に近づく。
「う~、朱志香お姉ちゃん……ベアトリーチェ。どうして泣いてるの?」
「ま……真里亞……」
「朱志香ちゃんが……ベアトリーチェ!?」
「……朱志香がベアトリーチェってことは……」
楼座と戦人の顔が険しくなる。当然だ。この殺人は六軒島の魔女・ベアトリーチェが起こした物だと結論づけられているのだから。
「朱志香様が右代宮家の当主です」
「……真里亞の……マシュマロをなおしたのは、私……暗号を解いたのも、私……っ」
か細い声で答える朱志香の頬には涙が伝っている。
「楼座叔母さん、朱志香は犯人なんかじゃねえ。」
戦人が楼座を振り返る。
「根拠は?」
冷たい声の叔母に、彼は黙って少女を戒める手錠を指さした。
「朱志香が拘束されている以上、朱志香にみんなを殺すことは出来ねえ。それにこいつは、昨日の夜俺たちと一緒にいた。反抗は無理だ」
「それもそうね……朱志香ちゃん、知っているんでしょう?兄さん達を殺したのは誰?」
問いつめる楼座に、朱志香はただ涙を流すばかりで、答えない。
「朱志香、答えてくれ!」
「……っ、それ、は……」
朱志香は怯えるように嘉音のほうを見る。彼は朱志香に歩み寄り、彼女を抱きしめた。
「僕がやりました」
「ほら、言ったじゃない……嘉音くんが狼だって!」
「何でやったんだよ!親父達を、紗音ちゃん達を殺して……何が望みだったんだ!」
「お嬢様と幸せになるためです」
戦人は涙を流しながらなんだよそれ、と怒鳴る。
「好きなら好きって、そう言やあ良いじゃねえかよ!どこにみんなを殺す必要があった!?」
「戦人様には分からないでしょう……こうでもしなければ愛する人と幸せに……結ばれない家具の気持ちなんて!分からないでしょう!」
「わかんねえよ!今の朱志香を見て、嘉音くんはこいつが幸せだと思えるのか!?」
朱志香の顔は、涙で酷い有様になっていたが、それでもなお、美しかった。
泣きはらした瞳も、煌めき流れる涙も、けして良くはない顔色も、震える唇も、全てが美しい、愛おしい。
朱志香が幸せでないことなんて、分かっている。
「今は幸せでは無いかもしれませんが、僕たちはもうすぐ幸せになれるのです」
「……何を言っているの?」
少女の髪を梳りながら嘉音は浮かされたように言葉を連ねる。その幸せな心に、楼座が無理矢理冷たい刃を突き刺した。
「あんたと結婚したって、朱志香ちゃんが幸せになれるわけ無いじゃない」
「ろ……楼座叔母さん!?」
ちらりと振り向くと、楼座は怒りによるものか、張り付いたような笑みを浮かべながら言葉を重ねる。
「あんたみたいな使用人で義務教育に行かせてやった恩も忘れて主人を殺すようなやつに、喜んで嫁げるとでも思ってるの?私がそんなやつと姪を一緒にさせるとでも思ってるの?」
「う~……ママ?」
「ま……真里亞、聞くな……耳をふさいで、小さな声で……私に歌を聴かせてくれ。そうすれば真里亞には……何も見えない、聞こえない……!」
朱志香が掠れた声でそう頼めば、真里亞は椅子と背を向けあう形で立って、歌い出した。
その間も楼座は嘉音を罵倒する。
「どうせそこにいる源次さんも共犯でしょう?最初から信用なんてしてなかったわよ、この家具どもが!……真里亞、その椅子から離れなさい。離れなさいって言ってるでしょうっ!」
「真里亞……私の……ベアトリーチェの、最後の贈り物だ……歌、ありがとう。楼座叔母さんのところに行って、絶対に離れるなよ……」
「う~……」
真里亞は歌をやめると、素直に楼座のところへ歩いて行き、衣服にぎゅっとしがみついた。
「楼座叔母さん……何を!?」
「家具どもを殺すのよ」
「なっ……!?」
「このまま恩知らずの家具どもと一緒に明日の朝までいっしょにいることなんか出来やしない。ならここで殺すしかないでしょ?」
「た……確かにそうだけどよ……ここで撃ったら朱志香だって危ないんだぞ!?」
狼狽えて楼座を止めようとする戦人に、朱志香は嘉音の身体越しに疲れたような声で呼びかけた。
「戦人……もう、良いんだ……私が悪いんだ……私が……っ!だから……叔母さん、私も……殺して……!」
「朱志香は悪くありません」
「朱志香は悪くなんかねえよ!」
奇しくも嘉音と戦人は、同じ台詞を吐いていた。悪いのは朱志香じゃない。
「私が……嘉音くんの想いに応えなかったから……」
「朱志香ちゃん、騙されちゃダメよ。こんな家具の気持ちに応えて、だから何だっての?遊びにしかならないじゃない!」
そして、楼座がウィンチェスターを構え直す音が響いた。
「やめろよ、楼座叔母さん!別の部屋に隔離すればいいだろ!」
「戦人くんは黙ってて!」
ヒステリックな応酬。
使用人を殺す気であるのは確実で、まず楼座が狙うのは、間違いなく嘉音だろう。
応酬が続いている間に、少女の頭を片手で抱きしめて、サイレンサー付の銃を取り出し、残り少なくなっていた弾倉を交換する。
「家具なんかと一緒にいられるもんですか!死ねぇっ、家具どもがぁぁぁぁ……」
ぱしゅん。
ウィンチェスターの引き金を楼座が引く前に、彼女の額に銃弾が埋まる。
ぱしゅん。
ぱしゅんぱしゅんぱしゅん。
「か……嘉音、くん……!?」
「楼座叔母さん!!」
「ママ、ママぁっ……!ママぁぁぁっ!う~!う~!う~う~う~!!!!」
顔を嘉音の胸に押しつける形になっている朱志香は分からない。
「楼座様が、死にました」
「なっ……」
「てめえ、他人事みたいに……!」
怒りに任せて吼える戦人を、源次が制す。
「戦人様、お静かに」
「でもよ、源次さん!」
「お静かに」
押し黙る戦人は、人が死んでから初めて涙を流して遺体に縋り付く真里亞を抱きしめる。
「朱志香……僕を愛してくれますか?」
「愛す……愛すよ……嘉音くんを……愛すよ……だからっ……だからもう、これ以上は……!」
涙を流して頷く朱志香の目元に軽く口づける。嘉音は初めて、自分の心が満たされた気がした。
「ありがとうございます……朱志香」
「うわあぁぁぁぁ……ママぁぁぁ……っ!」
真里亞の大泣きする声が聞こえる。戦人の慌てたような声が聞こえたから、楼座のそばにでも行ったのだろう。
真里亞はともかく、戦人は体格が良い。格闘で来られたらまず勝てないだろう。
だから、真里亞ではなく、戦人の足を撃った。
ぱしゅん。
「ぐああぁぁっ!?」
「戦人っ……!?」
ぱしゅん。
両足に一発ずつ打ち込まれ、これで彼は動くことなど出来ないだろう。
「さあ、朱志香」
抱きしめていた少女の身体を解放する。
「戦人っ……それっ……」
「朱志香……すまねぇな……お前のこと、助け出してやれなくて」
「っ……戦人……そんなこと、どうでもいいんだよ……!源次さん、手当てしてやってくれよ!」
しかし彼女の言葉に、源次は首を横に振る。嘉音が銃口を向けているのに気づいたからだろうか。
「お嬢様……昨日までの日々、楽しゅうございました。……ありがとうございます。では……先にお暇を頂きます」
「源次さん!?止めてっ、嘉音くん!!」
ぱしゅん。
ぱしゅん。
「源次さん!」
ゆっくりと頽れていく源次を目の当たりにして、二人が叫んだ。
「やめて……やめて!嘉音くん!もう、こんなことしないで!」
拘束された両手で必死に縋り付く彼女に、嘉音は優しく笑いかける。彼女は人の死んでゆく様を目の当たりにしてなお、戦人と真里亞を守ろうとしている。それが嘉音には面白くない。
いや、ずっと、朱志香が戦人の、他人の話をするのが気にくわなかった。
--こんなに朱志香を愛しているのは僕だけなのに……!
「朱志香……僕だけを、僕だけを見てください。僕だけを愛してください。その瞳に、僕以外の者を映さないでください」
朱志香はがくがくと頷くだけだ。
「ありがとうございます……さあ、朱志香。この鳥籠から、共に出ましょう。ずっと一緒にいましょう」
「朱志香っ!」
呼び声に彼女は戦人のほうを見る。彼は足の動かなくなった身でありながら、六軒島の、今は嘉音の囚われの姫君に力強く手を伸ばしていた。
「戦人……ごめんな、ありがとう」
彼が見たのは、従姉妹で白き魔女だった姫君のはかない笑顔だったのかもしれない。絶望に震えた目をしていたから。
--朱志香は僕のものだ!
ほんの少しの愉悦と、それを大きく上回る憎しみの炎が嘉音を支配する。
「……戦人様。僕はあなたを一番殺したかった」
「嘉音くん!?」
「朱志香の魔法を否定したあなたが許せなかった。朱志香を傷つけて、のうのうとこの島に帰ってきたあなたが憎かった」
「ちょっと待てよ!俺はのうのうと帰ってきた訳じゃ……」
「いいえ。右代宮家を捨て、朱志香を裏切り、傷つけて……そこにいかなる理由があろうとも、それは言い訳にしかなりません。それなのに、帰ってくると聞いただけで朱志香は笑顔になられた。戦人様は朱志香を裏切った罪人なのに、朱志香様はどうして笑っていらっしゃったのか、姉さんに聞きました。許すつもりか、魔法を認めることを願っておられるかだと聞きました。ですが!」
朱志香がびくりと震える。
「僕は、あなたを裏切った罪人を、あなたの鳥籠となった裏切り者を、どうしても許すことが出来ませんでした、朱志香」
「もう……いいよ、もういいよ、嘉音くん……!」
「その後はあなたに愛して貰うために、親族の皆様を手に掛けました。真里亞様の封筒を二度すり替え、礼拝堂の鍵を手に入れました」
「あれは……そんなものだったのかよ!?伝説の魔女様からの真里亞と楼座叔母さんへの幸せの贈り物じゃなかったのかよ!?二人の黄金郷への……招待状じゃなかったのかよ……!?」
「騙して申し訳ありませんでした。けれど、僕はあなたを手に入れたかった。あなたに愛して欲しかった。そして、右代宮戦人が苦しんで死ねばいいと思いました。それからは朱志香の知っているとおりです」
戦人は何も言わない。
「……真里亞様。あなたがジェシカ・ベアトリーチェ様とお約束なさった黄金郷、僕が差し上げましょう」
真里亞が振り向き、まだ何も言わないうちに銃弾を撃ち込んだ。
「真里亞ぁぁぁぁっ!」
「朱志香……あなたが僕だけを見てくださらなければ、」
朱志香の足下に銃を向け、拘束していた鎖を撃ち砕く。次いで戦人に銃を向け、急所にあたらないように数発撃つ。
「戦人様を殺します」
「……っ、嘉音くんだけ、見てるから……」
朱志香の心はもうボロボロだろう。虚ろな瞳に渦巻く絶望は、消せるものではないのかもしれない。
--けれど、僕はあなたに愛して欲しかった。
「だから……泣かないで、嘉音くん……」
椅子の背もたれに寄りかかっていた彼女が嘉音の胸に身体を預ける。
「ずっと前から……私も好きだったのに……ごめんな……」
「僕は……泣いているのですか?」
「私の知ってる嘉音くんは……こんなこと出来る人じゃない。本当の君は……多分泣いているんじゃないかな……」
手錠の填められた白い両手が嘉音の頬に触れる。
「大好きだよ……嘉音くん」
「朱志香……!」
朱志香、朱志香と繰り返し名を呼びながら、嘉音は彼女を抱きしめる。朱志香の手錠を外すと、彼女もおずおずと背中に手を回した。
「愛しています、ずっと愛しています!朱志香……!だから……だからっ」
「私も……ずっと愛してるぜ……嘉音くん……君の本当の名前、聞きたかった……」
「僕の、本当の名前は……」
朱志香の耳元に口を寄せ、彼がこの世に生まれ出でた本当の名前を告げた。ずっと告げたくて仕方がなかった名前。その名前を呼んで、朱志香は愛していると言ってくれた。ああ、もうこれで思い残すことはない。
戦人を殺したいと燃えさかっていた炎も、今はもう消えた。最初から彼は朱志香だけを求めていたのだから。
もうすぐ時計の針が零時を示す。時刻になってしまえばこの書斎やボイラー室、礼拝堂を中心として島中に仕込んだ爆薬が火を噴くだろう。
九羽鳥庵に逃げ込めば、3人は助かるかもしれない。ああ、けれど、もうその時間は残されていなかった。
「朱志香……未来を、与えられなくて申し訳ございません」
「いいんだ……もう、私は……」
二人で戦人のほうを見ると、彼はもう虫の息だった。これ以上苦しめる必要もないだろう。
銃を向けると、彼女がその手を優しく捉えた。
「最後ぐらい、私がやるよ……私を心配してくれて、ありがとうな、戦人。そして……さよなら」
ぱしゅん!
慈しみの顔で放たれた弾丸は戦人の心臓に着弾し、彼はこれ以上苦しむことなくこの世に別れを告げた。
それから朱志香は銃をテーブルに置き、嘉音を抱きしめた。嘉音も抱きしめ返し、彼女を抱えてベッドに潜り込むと、もう一度、今度は無理矢理ではなく、優しく、啄むだけの口づけからだんだん深く口づける。

そして、零時の鐘が鳴った。狂気の宴は終わりを告げたのだ。

命尽き果てるその瞬間まで、彼らは互いを愛し合った。

朱志香はベアトリーチェとして、南條の息子や縁寿たち遺族に慰謝料を贈っている、と言った。そして、事件を幻想風味に仕立ててボトルメールに記し、海に流したとも言った。
これで嘉音の、いや、朱志香と嘉音の真実は永遠のものとなったのだ。島が吹き飛んだことにより検死も現場検証も出来ないため、事件の真相は誰にも知られることはない。しかし、誰にも知られることのない真実で、二人の愛と嘉音の哀しい狂気は生き続けている。

1986年10月6日の夕刊の一面を飾り、当時母親の実家に預けられていた右代宮戦人の妹・縁寿をはじめとして多くの人々を悲しませた六軒島大量殺人事件。後日、18人全員の葬式が行われ、多くの友人・知人が彼らに別れを告げた。
しかし、この事件の真実は、六軒島が何らかの要因により調査不能となり、今でも明かされていない。

だから、誰も知ることはない。

籠の中の囚われの姫君を狂気に陥るほどに愛した少年と、外の世界を切望しながらも最期は狂おしいほどの愛を受け入れた少女の哀しい恋物語を……。

おわり


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プロフィール
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くれさききとか
性別:
女性
職業:
社会人
趣味:
読書、小説書き等々
自己紹介:
文章書きです。こちらではうみねこ、テイルズ、FF中心に二次創作を書いていきたいと思います。
呟いています→@kurekito

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