ここは「花待館」の別館となっています。非公式で「うみねこのなく頃に」「テイルズオブエクシリア」「ファイナルファンタジー(13・零式)」「刀剣乱舞」の二次創作SSを掲載しています。
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あんまり長いので三つに分けました。
嘉音くんが妄想激しくてすみません。
!諸注意!
・朱志香が碑文を解いて次期当主になっています。
・ついでにベアトリーチェ=朱志香になっています。
・マリアージュ・ソルシエールと戦人の過去に多大なる捏造があります。
それではどうぞ。
Romance to decadence 中編
嘉音くんが妄想激しくてすみません。
!諸注意!
・朱志香が碑文を解いて次期当主になっています。
・ついでにベアトリーチェ=朱志香になっています。
・マリアージュ・ソルシエールと戦人の過去に多大なる捏造があります。
それではどうぞ。
Romance to decadence 中編
そして、六人をその手に掛けた。
朱志香が当主だと告げたときの大人達の顔と言ったら!学校での成績だけで朱志香が不出来だと貶していた大人達はある者は驚愕に、ある者は絶望に満ちた顔でこちらを見ていた。
「朱志香お嬢様は、あなた方が思っているよりずっと、出来たお方です……朱志香様はベアトリーチェさまであらせられますから」
そう言った瞬間、大人達のドロドロした汚い欲望が渦巻くのは分かっていた。だから朱志香に頼んで借りておいた黄金のインゴットをテーブルに置く。あらかじめ計画を話しておいた源次がワインを注ぐ。大人達の目の色が変わるのが分かった。
--ああ、やはりこいつらは殺しておかなければ!
そうして第一の晩が終わり、ふと気づいた。
朱志香にこの惨状を見せるわけにはいかない。
それでも夜が明けて、朱志香は両親が惨たらしく殺されているのを見てしまった。
「父さん……!母さん……!」
「お嬢様……ご覧になってはいけません!」
「いやああああっ!」
父と母を呼びながら泣き叫ぶ彼女は、この瞬間、魔女ではなかった。近しい人を一晩にして殺された、まだ18歳の1人の少女だった。
「ベアトリーチェがやったんだ!」
涙を流しながらそう怒鳴って、少女は屋敷に駆けていく。それを追って、嘉音は郷田と共に走る。昨日、ジャック・オー・ランタンのマシュマロを手品ですり替え、蘇らせたのは朱志香だが、六軒島の伝説の魔女を演出させたのは嘉音だ。二通の手紙を伝説の魔女から言付かったので、ベアトリーチェである朱志香から渡すように仕向けたのだ。
魔女が幻想だなんて、朱志香が一番知っているだろう。けれど、伝説の魔女を吹き込んだのは嘉音だ。
アレを朱志香に見せたくない……!
昼食の配膳など、無かった。食事を貴賓室ではなく、金蔵の書斎に運んだのだ。同じく紗音も、配膳をしたのは金蔵の書斎だった。
だから、配膳をするふりをして貴賓室には手紙を仕込んでおいた。
本来なら、戦人にこの手紙を読ませたかったが、もう遅い。
あの嘲笑の手紙は朱志香を怒り狂わせ、結果として彼女は嘉音と二人きりになった。
「お嬢様……大丈夫ですか」
「私は……大丈夫……だぜ……。父さんと母さんはもうダメだけど……私は、もう少し泣けば……大丈夫」
1人にして欲しい、と言う朱志香に黙礼して、一度部屋を出る。
知らなかった。
朱志香があんなにも両親を愛していたと言うことを。
けれど、それは僅かな誤算に過ぎない。
絶対に朱志香を自分に振り向かせてみせる。
ポケットの中に突っ込んだ注射器にそっと触れる。次いで、小袋に入れた錠剤に触れる。
どちらも睡眠薬だ。深い眠りに落ち、即効性がある。幸い、医師の南條はこちらの味方だ。楼座達を騙すことなど容易い。
「お嬢様……」
「入って……いいよ……」
ノックをして許可を得てから部屋に入る。後ろ手で鍵を閉める。
「か……嘉音、くん……?」
ただならぬ雰囲気に朱志香が身を震わせた。
「お嬢様……僕は、お嬢様が好きでした。ずっと、ずっと好きでした」
「い……いきなり、何を……?」
「お嬢様は僕を愛してくれますか?」
一歩近づく。
朱志香が一歩下がる。
近づく。
下がる。
その繰り返し。
やがてベッドに座っていた朱志香は背を壁に付けてしまい、退路を断った。小さく震えるその身体を、嘉音は抱きしめる。
「僕を……愛してください……朱志香様」
「……こんなときじゃなかったら、嬉しかったよ……?でも、ごめん……もう少し、心の整理、させて……」
「よろしいですが……お嬢様がお答えくださるのが遅くなればなるほど、紗音や譲治様の命が危険になってゆきます」
耳元で、ひゅっ、と喉が鳴る音がする。水差しに入れた水をコップに注ぎ、サイドテーブルに置く。嘉音はポケットを探り、睡眠薬の錠剤を取り出した。
「ど、どういう……ことだよ……!?」
「どうもこうもありません……お嬢様がお答えくださらなければ、譲治様も、紗音も、みんなが死んでしまいます」
嘉音の台詞に、朱志香の息が浅くなる。
「ま……まさか……っ、か……嘉音くんが……母さん達を殺したとか……言わないよな……?」
「お嬢様……朱志香様と、僕が幸せになるために、……僕が全てやりました」
そう言いながらさらにきつく抱きしめると、朱志香が拘束から抜け出そうと藻掻く。
「嘉音くん……どうしてっ……どうしてこんなことしたんだよ!私はそんなことされたって嬉しくない!みんなを返してくれよ!」
「仕方がなかったのです」
「なんだよそれっ!?放せっ、放せよっ!」
さらに暴れる朱志香を片手で拘束し、錠剤を口に放り込む。水を含むと、彼女の顔を押さえて無理矢理に口づけた。
「んっ!?……!」
重ねた唇ごしに睡眠薬を流し込む。やっとの事で飲ませると、そのまま暫く朱志香の口内を蹂躙した。
「……っ、げほっ……何、するんだよ!?」
「大人しくしてください」
嘉音の心に灯るのは、朱志香への情欲と自分を見てくれないことへの怒りの焔。
もう数口、口移しで水を飲ませる。
「なんで……こ、んな……」
即効性の睡眠薬だ。早速効き目が出たらしく、朱志香はどさりと倒れ込む。喘息の薬のせいで副作用が出ない物を選んだから、彼女は2、3時間後まで眠りの底だろう。
「朱志香様……」
力無く横たわるその肢体に血糊を仕込み、その下にタオルを重ね、床に血糊をぶちまけてから彼女を横たえると金蔵の部屋にあった杭を白い肌に傷を付けないようにそっと突き刺した。
「楼座様がご覧になったら、お館様のお部屋にお連れします」
仕上げにゲストハウスの適当な鍵を集めたマスターキーもどきの鍵束を彼女のポケットに放り込み、部屋を出た。
ドアに魔法陣を描いて鍵を掛け、隣の部屋に潜んで様子をうかがう。
暫くすると楼座達が朱志香を発見したらしく、犯人は嘉音だ、いや違う、じゃあ誰だというやり取りが聞こえる。
普通に考えれば朱志香は死んでいて、直前まで共にいた嘉音が疑われるのは当たり前だろう。だが、楼座は詰めが甘かった。南條は嘉音の味方なのだから、死んでいるかどうかを確かめるのが先決だったのに。
けれどもそれは嘉音にとっては好都合。
そしておそらく、朱志香が死んだ(と思われた)ことにより疑われた使用人達はおそらく右代宮家の人間と別行動を取るはずだ。
ドアの隙間から朱志香の部屋を出て行く者たちを見ると、おそらく二つの勢力に別れた後、右代宮家の人間には銃を持った楼座がいるだろう。真里亞は魔女伝説を吹聴している唯一の右代宮縁者だ。この二人はまだ殺すわけにはいかない。
源次は貴重な協力者で、紗音は譲治と共に死ねばいいと思っているから、まだ殺せない。
戦人は最後の最後で殺してやろうと決めているから、まだだ。
だったら、後は消去法だ。
指を折って魔女の碑文を確認する。
後五人で、碑文上の殺人は終わってしまう。そうしたら、朱志香も自分も自由の身だ。朱志香はきっと、最後には嘉音の愛を受け入れるだろう。
人の絆とは脆い物で嘉音の予想通り、楼座は使用人と南條を追い出した。
「楼座様が、僕とお嬢様を……」
服の下に血糊をしこたま仕込んで、瀕死のフリをしてやれば、郷田と熊沢は面白いほど信じた。そこで立ち上がって、血糊のあたりをぐしゃりと掻き回す。驚いて近寄ってきた熊沢と南條をポケットから取り出した果物ナイフで斬りつける。
びゅ、と血が飛び出して、二人はあっけなく絶命した。
口元が緩んでいることは嘉音にだって分かっている。殺人を繰り返すのが楽しいわけでも、気持ちよいわけでもない。ただ、もうすぐ朱志香が彼を愛してくれるということが、この上ない幸福が待ちきれないだけだ。
こちらに突進してくる郷田をかわして、使用人室から駆け出す。すぐそばの部屋に隠れて、手紙を取り出す。厨房から配膳台車を失敬して、二人の遺体を乗せる。南條が持っていた鍵束とマスターキーを放り込み、封蝋をする。朱志香から借りた指輪で印を付けて、使用人室に放り込む。使用人室に鍵を掛けると、二人の遺体をさっきまで隠れていた部屋に隠し、嘉音は金蔵の書斎に走った。
書斎には朱志香がいる。金蔵の遺体から盗んだ鍵を使って扉を開ける。中にはいると、怯えた顔の朱志香と目があった。
「朱志香様……お腹が空いたでしょう。冷えてしまってはいますが、食料をご用意しました」
そう優しく告げて、冷蔵庫からパンとスープを取り出す。白と桃色を基調とした可愛らしいドレスに着替えさせられた朱志香は、両手と両足を手錠で拘束され、すっかり怯えきっている。嘉音がその白い頬にそっと触れると、彼女はそれでもきっ、と睨み付けた。
「強情は戦人様達のためになりませんよ」
「……っ」
スープを一口含むと、顔を背ける彼女に無理矢理口づけた。その行為を繰り返して、スープ皿と数枚のパンが空になる頃には彼女はぐったりと金蔵の椅子にもたれかかっていた。シーツを取り替えたベッドに彼女を寝かせる。
「愛しています、朱志香様」
「……」
「僕を愛してくださいますか?」
「……こんなことしなけりゃ、喜んで頷いてたぜ……」
虚ろな瞳で、彼女はやっと答えてくれる。しかし、答えは、否。
「朱志香様……南條先生と、熊沢が死にました」
びくりと身を震わせ、少女は起きあがった。その瞳に宿るのは、怒りと、哀しみと、ほんの少しの憐憫。汚れを知らぬ美しい瞳に宿るそれら全てが自分に向けられているのが、嘉音は嬉しかった。
「私……答えた、よな……?」
「いいえ、朱志香様はお答えになっていません」
--僕の愛を受け入れてくださるまで、この殺人は続きます。
そう告げると、嘉音は朱志香の視界を手で遮った。
「今はお寝みください……そして、良くお考えください」
抵抗する素振りを見せた朱志香に、深く口づける。これではまるで彼女の気力を吸い取っているようだ、と嘉音は思った。
ボイラー室から外へ出て、厨房の様子を伺うと、源次がドアを開ける。
「戦人様が……ベアトリーチェ様をお認めになった」
「……そうですか」
戦人のことなど、興味はない。
「お嬢様のご様子は?」
「昼食を召し上がりました。今はお寝みになっています」
「そうか……譲治様、紗音、それと郷田が夏妃様の霊鏡を取るために鍵を取りに行った。マスターキーはこちらには一本もない」
「そうですか……」
「あまり、無理なことをするな」
朱志香に無体を働いたわけではないが、嘉音の想いの強さを知っている源次はそう釘を刺してきた。もしかしたら、あまり性急に殺人を繰り返すなと言うことなのかもしれないが、どうしようもない。もう黄金郷への旅は残り僅かなのだ。引き返すことなど出来はしない。
「……はい」
「南條先生と熊沢の遺体は私が何とかしておこう」
「ありがとうございます、源次さま」
ぺこりと頭を下げて、夏妃の部屋に向かう。
もう、朱志香との仲を引き裂こうとした夏妃はいない。だから、勝手に部屋に入って儀式を遂行しても問題はない。
朱志香は悲しむかもしれないが。
「……ああ、でも朱志香様の悲しむ顔は……見たくない」
だが、もう後戻りは出来ないのだ。
ドアに耳をつけて中の様子を伺う。ポケットの中からサイレンサー付の銃を取りだし、マスターキーで扉を開け放った。
「か、嘉音くん!」
紗音が譲治を庇うように立つ。
「様子がおかしいと思ったら……こんなことしてるなんて!絶対譲治様は殺させないわ!」
「紗音さんだけに守らせはしませんよ!」
「煩い」
ぱしゅん、と弾が躍り出て、郷田の胸を貫いた。両手を広げていた郷田は為す術もなく心臓に着弾させ、俯せに倒れた。紗音が悲鳴を上げる。
「郷田さん!嘉音くん、どうしてこんなことするの!」
「……嘉音くん、何があったかは知らないけれど、こんなことはやめるんだ!死んだ朱志香ちゃんだって……」
「朱志香様は死んでなんかいません。これは全て、僕と朱志香様の永遠の愛のため……自由のためなんです」
朱志香が死んでいない。その事実に譲治も紗音も目を瞠る。
「お嬢様はどこなの!?」
「朱志香ちゃんに会わせてくれ!」
「朱志香様はお寝み中です。譲治様達をお連れして朱志香様の目の前で殺して差し上げても良いですが、あの薄気味悪い部屋に血の臭いを植え付けては朱志香様のお体に障りますので」
譲治は朱志香が嘉音と共謀して殺人劇を繰り返していると思っているようだが、紗音は全く違う考えのようだった。
「こんなことをしても、お嬢様は嘉音くんを愛してはくださらないんじゃない?」
「え……っ、じゃあ朱志香ちゃんは……」
「お嬢様は真里亞様のおっしゃるベアトリーチェさまですが、殺人に関しては無関係だと思います。……すべて、嘉音くんがやったのね?」
「そうだよ。きっと朱志香様は僕を愛してくれる。ここで姉さん達を殺せば、きっと愛してくれる」
「……かわいそうな嘉音くん。そんなことして、お嬢様はもう愛してはくださらないわ」
ああ、それはなんと冷たい響きなのだろう。嘉音の心の中に真っ直ぐに突き刺さったそれは、同時に彼を激高させるのには十分だった。
「姉さんには分からないさ……自分だけ譲治様とそんな関係になって!1人だけ人間になろうとして!僕のお嬢様への恋心を煽るだけ煽って、自分は陰で笑ってたんだ……!」
憎い。
憎い。
妬ましい。
嘉音の本心からの叫びは、紗音をびくりと震えさせた。けれど、彼女も負けじと言い返す。
「ち……違うわ!私だって、嘉音くんの恋がうまく行けばいいと思って……!お嬢様をふったのは嘉音くんじゃない!こんなことになるんなら、あの嵐の日に、お嬢様から良い物まで跳ね返してしまうからと鏡を割るようにお願いされたとき……命令じゃないから聞けません、って断ってしまえば良かった!」
感情的になって叫ぶ二人の間に、譲治が割って入った。
「嘉音くんと朱志香ちゃんの間に何があったか知らないけれど……紗代が鏡を割ったのはこの家によかれと思ってのことだ。自分を責めちゃいけないよ」
「譲治様……でも!」
「紗代は間違ってないよ。だけど、嘉音くん。朱志香ちゃんとやり直したいのなら、言葉で伝えるべきだったんじゃないのかな?」
いつもにこやかな譲治が真剣な表情になっている。それだけ本気で怒っているのだろう。だが、その怒りの冷水を以てしてなお、嘉音の暗い炎は消えることはない。注がれた分だけ燃えさかる。
「明日、台風が過ぎたら、朱志香ちゃんとみんなと一緒に島を出て、自首しに行こう。それが君に出来る、彼女への償い方だ」
「五月蝿いっ……五月蝿い!五月蝿い五月蝿い五月蝿いっ!」
ぱしゅん。
躍り出た弾は、譲治の腹に穴を空ける。続けて二発ほど撃つと、彼はようやく絶命した。
「譲治様!譲治様ぁっ!いやぁぁぁぁっ!」
紗音が絶叫する。
「どうして!どうして譲治様まで殺すの!?私たちはベアトリーチェ様の黄金郷に行かなくたって……幸せになれるはずだったのに!嘉音くんはそれをどうして邪魔するの!」
「自分だけ幸せになろうとしたからだよっ!何が恋のおまじないだ!あんなブローチ、効かなかったじゃないか!姉さんは僕を騙したんだ!ずっと信じてたのに、騙したんだ……!」
叫ぶだけ叫んで、紗音の額に銃口を向け、……撃った。
朱志香が当主だと告げたときの大人達の顔と言ったら!学校での成績だけで朱志香が不出来だと貶していた大人達はある者は驚愕に、ある者は絶望に満ちた顔でこちらを見ていた。
「朱志香お嬢様は、あなた方が思っているよりずっと、出来たお方です……朱志香様はベアトリーチェさまであらせられますから」
そう言った瞬間、大人達のドロドロした汚い欲望が渦巻くのは分かっていた。だから朱志香に頼んで借りておいた黄金のインゴットをテーブルに置く。あらかじめ計画を話しておいた源次がワインを注ぐ。大人達の目の色が変わるのが分かった。
--ああ、やはりこいつらは殺しておかなければ!
そうして第一の晩が終わり、ふと気づいた。
朱志香にこの惨状を見せるわけにはいかない。
それでも夜が明けて、朱志香は両親が惨たらしく殺されているのを見てしまった。
「父さん……!母さん……!」
「お嬢様……ご覧になってはいけません!」
「いやああああっ!」
父と母を呼びながら泣き叫ぶ彼女は、この瞬間、魔女ではなかった。近しい人を一晩にして殺された、まだ18歳の1人の少女だった。
「ベアトリーチェがやったんだ!」
涙を流しながらそう怒鳴って、少女は屋敷に駆けていく。それを追って、嘉音は郷田と共に走る。昨日、ジャック・オー・ランタンのマシュマロを手品ですり替え、蘇らせたのは朱志香だが、六軒島の伝説の魔女を演出させたのは嘉音だ。二通の手紙を伝説の魔女から言付かったので、ベアトリーチェである朱志香から渡すように仕向けたのだ。
魔女が幻想だなんて、朱志香が一番知っているだろう。けれど、伝説の魔女を吹き込んだのは嘉音だ。
アレを朱志香に見せたくない……!
昼食の配膳など、無かった。食事を貴賓室ではなく、金蔵の書斎に運んだのだ。同じく紗音も、配膳をしたのは金蔵の書斎だった。
だから、配膳をするふりをして貴賓室には手紙を仕込んでおいた。
本来なら、戦人にこの手紙を読ませたかったが、もう遅い。
あの嘲笑の手紙は朱志香を怒り狂わせ、結果として彼女は嘉音と二人きりになった。
「お嬢様……大丈夫ですか」
「私は……大丈夫……だぜ……。父さんと母さんはもうダメだけど……私は、もう少し泣けば……大丈夫」
1人にして欲しい、と言う朱志香に黙礼して、一度部屋を出る。
知らなかった。
朱志香があんなにも両親を愛していたと言うことを。
けれど、それは僅かな誤算に過ぎない。
絶対に朱志香を自分に振り向かせてみせる。
ポケットの中に突っ込んだ注射器にそっと触れる。次いで、小袋に入れた錠剤に触れる。
どちらも睡眠薬だ。深い眠りに落ち、即効性がある。幸い、医師の南條はこちらの味方だ。楼座達を騙すことなど容易い。
「お嬢様……」
「入って……いいよ……」
ノックをして許可を得てから部屋に入る。後ろ手で鍵を閉める。
「か……嘉音、くん……?」
ただならぬ雰囲気に朱志香が身を震わせた。
「お嬢様……僕は、お嬢様が好きでした。ずっと、ずっと好きでした」
「い……いきなり、何を……?」
「お嬢様は僕を愛してくれますか?」
一歩近づく。
朱志香が一歩下がる。
近づく。
下がる。
その繰り返し。
やがてベッドに座っていた朱志香は背を壁に付けてしまい、退路を断った。小さく震えるその身体を、嘉音は抱きしめる。
「僕を……愛してください……朱志香様」
「……こんなときじゃなかったら、嬉しかったよ……?でも、ごめん……もう少し、心の整理、させて……」
「よろしいですが……お嬢様がお答えくださるのが遅くなればなるほど、紗音や譲治様の命が危険になってゆきます」
耳元で、ひゅっ、と喉が鳴る音がする。水差しに入れた水をコップに注ぎ、サイドテーブルに置く。嘉音はポケットを探り、睡眠薬の錠剤を取り出した。
「ど、どういう……ことだよ……!?」
「どうもこうもありません……お嬢様がお答えくださらなければ、譲治様も、紗音も、みんなが死んでしまいます」
嘉音の台詞に、朱志香の息が浅くなる。
「ま……まさか……っ、か……嘉音くんが……母さん達を殺したとか……言わないよな……?」
「お嬢様……朱志香様と、僕が幸せになるために、……僕が全てやりました」
そう言いながらさらにきつく抱きしめると、朱志香が拘束から抜け出そうと藻掻く。
「嘉音くん……どうしてっ……どうしてこんなことしたんだよ!私はそんなことされたって嬉しくない!みんなを返してくれよ!」
「仕方がなかったのです」
「なんだよそれっ!?放せっ、放せよっ!」
さらに暴れる朱志香を片手で拘束し、錠剤を口に放り込む。水を含むと、彼女の顔を押さえて無理矢理に口づけた。
「んっ!?……!」
重ねた唇ごしに睡眠薬を流し込む。やっとの事で飲ませると、そのまま暫く朱志香の口内を蹂躙した。
「……っ、げほっ……何、するんだよ!?」
「大人しくしてください」
嘉音の心に灯るのは、朱志香への情欲と自分を見てくれないことへの怒りの焔。
もう数口、口移しで水を飲ませる。
「なんで……こ、んな……」
即効性の睡眠薬だ。早速効き目が出たらしく、朱志香はどさりと倒れ込む。喘息の薬のせいで副作用が出ない物を選んだから、彼女は2、3時間後まで眠りの底だろう。
「朱志香様……」
力無く横たわるその肢体に血糊を仕込み、その下にタオルを重ね、床に血糊をぶちまけてから彼女を横たえると金蔵の部屋にあった杭を白い肌に傷を付けないようにそっと突き刺した。
「楼座様がご覧になったら、お館様のお部屋にお連れします」
仕上げにゲストハウスの適当な鍵を集めたマスターキーもどきの鍵束を彼女のポケットに放り込み、部屋を出た。
ドアに魔法陣を描いて鍵を掛け、隣の部屋に潜んで様子をうかがう。
暫くすると楼座達が朱志香を発見したらしく、犯人は嘉音だ、いや違う、じゃあ誰だというやり取りが聞こえる。
普通に考えれば朱志香は死んでいて、直前まで共にいた嘉音が疑われるのは当たり前だろう。だが、楼座は詰めが甘かった。南條は嘉音の味方なのだから、死んでいるかどうかを確かめるのが先決だったのに。
けれどもそれは嘉音にとっては好都合。
そしておそらく、朱志香が死んだ(と思われた)ことにより疑われた使用人達はおそらく右代宮家の人間と別行動を取るはずだ。
ドアの隙間から朱志香の部屋を出て行く者たちを見ると、おそらく二つの勢力に別れた後、右代宮家の人間には銃を持った楼座がいるだろう。真里亞は魔女伝説を吹聴している唯一の右代宮縁者だ。この二人はまだ殺すわけにはいかない。
源次は貴重な協力者で、紗音は譲治と共に死ねばいいと思っているから、まだ殺せない。
戦人は最後の最後で殺してやろうと決めているから、まだだ。
だったら、後は消去法だ。
指を折って魔女の碑文を確認する。
後五人で、碑文上の殺人は終わってしまう。そうしたら、朱志香も自分も自由の身だ。朱志香はきっと、最後には嘉音の愛を受け入れるだろう。
人の絆とは脆い物で嘉音の予想通り、楼座は使用人と南條を追い出した。
「楼座様が、僕とお嬢様を……」
服の下に血糊をしこたま仕込んで、瀕死のフリをしてやれば、郷田と熊沢は面白いほど信じた。そこで立ち上がって、血糊のあたりをぐしゃりと掻き回す。驚いて近寄ってきた熊沢と南條をポケットから取り出した果物ナイフで斬りつける。
びゅ、と血が飛び出して、二人はあっけなく絶命した。
口元が緩んでいることは嘉音にだって分かっている。殺人を繰り返すのが楽しいわけでも、気持ちよいわけでもない。ただ、もうすぐ朱志香が彼を愛してくれるということが、この上ない幸福が待ちきれないだけだ。
こちらに突進してくる郷田をかわして、使用人室から駆け出す。すぐそばの部屋に隠れて、手紙を取り出す。厨房から配膳台車を失敬して、二人の遺体を乗せる。南條が持っていた鍵束とマスターキーを放り込み、封蝋をする。朱志香から借りた指輪で印を付けて、使用人室に放り込む。使用人室に鍵を掛けると、二人の遺体をさっきまで隠れていた部屋に隠し、嘉音は金蔵の書斎に走った。
書斎には朱志香がいる。金蔵の遺体から盗んだ鍵を使って扉を開ける。中にはいると、怯えた顔の朱志香と目があった。
「朱志香様……お腹が空いたでしょう。冷えてしまってはいますが、食料をご用意しました」
そう優しく告げて、冷蔵庫からパンとスープを取り出す。白と桃色を基調とした可愛らしいドレスに着替えさせられた朱志香は、両手と両足を手錠で拘束され、すっかり怯えきっている。嘉音がその白い頬にそっと触れると、彼女はそれでもきっ、と睨み付けた。
「強情は戦人様達のためになりませんよ」
「……っ」
スープを一口含むと、顔を背ける彼女に無理矢理口づけた。その行為を繰り返して、スープ皿と数枚のパンが空になる頃には彼女はぐったりと金蔵の椅子にもたれかかっていた。シーツを取り替えたベッドに彼女を寝かせる。
「愛しています、朱志香様」
「……」
「僕を愛してくださいますか?」
「……こんなことしなけりゃ、喜んで頷いてたぜ……」
虚ろな瞳で、彼女はやっと答えてくれる。しかし、答えは、否。
「朱志香様……南條先生と、熊沢が死にました」
びくりと身を震わせ、少女は起きあがった。その瞳に宿るのは、怒りと、哀しみと、ほんの少しの憐憫。汚れを知らぬ美しい瞳に宿るそれら全てが自分に向けられているのが、嘉音は嬉しかった。
「私……答えた、よな……?」
「いいえ、朱志香様はお答えになっていません」
--僕の愛を受け入れてくださるまで、この殺人は続きます。
そう告げると、嘉音は朱志香の視界を手で遮った。
「今はお寝みください……そして、良くお考えください」
抵抗する素振りを見せた朱志香に、深く口づける。これではまるで彼女の気力を吸い取っているようだ、と嘉音は思った。
ボイラー室から外へ出て、厨房の様子を伺うと、源次がドアを開ける。
「戦人様が……ベアトリーチェ様をお認めになった」
「……そうですか」
戦人のことなど、興味はない。
「お嬢様のご様子は?」
「昼食を召し上がりました。今はお寝みになっています」
「そうか……譲治様、紗音、それと郷田が夏妃様の霊鏡を取るために鍵を取りに行った。マスターキーはこちらには一本もない」
「そうですか……」
「あまり、無理なことをするな」
朱志香に無体を働いたわけではないが、嘉音の想いの強さを知っている源次はそう釘を刺してきた。もしかしたら、あまり性急に殺人を繰り返すなと言うことなのかもしれないが、どうしようもない。もう黄金郷への旅は残り僅かなのだ。引き返すことなど出来はしない。
「……はい」
「南條先生と熊沢の遺体は私が何とかしておこう」
「ありがとうございます、源次さま」
ぺこりと頭を下げて、夏妃の部屋に向かう。
もう、朱志香との仲を引き裂こうとした夏妃はいない。だから、勝手に部屋に入って儀式を遂行しても問題はない。
朱志香は悲しむかもしれないが。
「……ああ、でも朱志香様の悲しむ顔は……見たくない」
だが、もう後戻りは出来ないのだ。
ドアに耳をつけて中の様子を伺う。ポケットの中からサイレンサー付の銃を取りだし、マスターキーで扉を開け放った。
「か、嘉音くん!」
紗音が譲治を庇うように立つ。
「様子がおかしいと思ったら……こんなことしてるなんて!絶対譲治様は殺させないわ!」
「紗音さんだけに守らせはしませんよ!」
「煩い」
ぱしゅん、と弾が躍り出て、郷田の胸を貫いた。両手を広げていた郷田は為す術もなく心臓に着弾させ、俯せに倒れた。紗音が悲鳴を上げる。
「郷田さん!嘉音くん、どうしてこんなことするの!」
「……嘉音くん、何があったかは知らないけれど、こんなことはやめるんだ!死んだ朱志香ちゃんだって……」
「朱志香様は死んでなんかいません。これは全て、僕と朱志香様の永遠の愛のため……自由のためなんです」
朱志香が死んでいない。その事実に譲治も紗音も目を瞠る。
「お嬢様はどこなの!?」
「朱志香ちゃんに会わせてくれ!」
「朱志香様はお寝み中です。譲治様達をお連れして朱志香様の目の前で殺して差し上げても良いですが、あの薄気味悪い部屋に血の臭いを植え付けては朱志香様のお体に障りますので」
譲治は朱志香が嘉音と共謀して殺人劇を繰り返していると思っているようだが、紗音は全く違う考えのようだった。
「こんなことをしても、お嬢様は嘉音くんを愛してはくださらないんじゃない?」
「え……っ、じゃあ朱志香ちゃんは……」
「お嬢様は真里亞様のおっしゃるベアトリーチェさまですが、殺人に関しては無関係だと思います。……すべて、嘉音くんがやったのね?」
「そうだよ。きっと朱志香様は僕を愛してくれる。ここで姉さん達を殺せば、きっと愛してくれる」
「……かわいそうな嘉音くん。そんなことして、お嬢様はもう愛してはくださらないわ」
ああ、それはなんと冷たい響きなのだろう。嘉音の心の中に真っ直ぐに突き刺さったそれは、同時に彼を激高させるのには十分だった。
「姉さんには分からないさ……自分だけ譲治様とそんな関係になって!1人だけ人間になろうとして!僕のお嬢様への恋心を煽るだけ煽って、自分は陰で笑ってたんだ……!」
憎い。
憎い。
妬ましい。
嘉音の本心からの叫びは、紗音をびくりと震えさせた。けれど、彼女も負けじと言い返す。
「ち……違うわ!私だって、嘉音くんの恋がうまく行けばいいと思って……!お嬢様をふったのは嘉音くんじゃない!こんなことになるんなら、あの嵐の日に、お嬢様から良い物まで跳ね返してしまうからと鏡を割るようにお願いされたとき……命令じゃないから聞けません、って断ってしまえば良かった!」
感情的になって叫ぶ二人の間に、譲治が割って入った。
「嘉音くんと朱志香ちゃんの間に何があったか知らないけれど……紗代が鏡を割ったのはこの家によかれと思ってのことだ。自分を責めちゃいけないよ」
「譲治様……でも!」
「紗代は間違ってないよ。だけど、嘉音くん。朱志香ちゃんとやり直したいのなら、言葉で伝えるべきだったんじゃないのかな?」
いつもにこやかな譲治が真剣な表情になっている。それだけ本気で怒っているのだろう。だが、その怒りの冷水を以てしてなお、嘉音の暗い炎は消えることはない。注がれた分だけ燃えさかる。
「明日、台風が過ぎたら、朱志香ちゃんとみんなと一緒に島を出て、自首しに行こう。それが君に出来る、彼女への償い方だ」
「五月蝿いっ……五月蝿い!五月蝿い五月蝿い五月蝿いっ!」
ぱしゅん。
躍り出た弾は、譲治の腹に穴を空ける。続けて二発ほど撃つと、彼はようやく絶命した。
「譲治様!譲治様ぁっ!いやぁぁぁぁっ!」
紗音が絶叫する。
「どうして!どうして譲治様まで殺すの!?私たちはベアトリーチェ様の黄金郷に行かなくたって……幸せになれるはずだったのに!嘉音くんはそれをどうして邪魔するの!」
「自分だけ幸せになろうとしたからだよっ!何が恋のおまじないだ!あんなブローチ、効かなかったじゃないか!姉さんは僕を騙したんだ!ずっと信じてたのに、騙したんだ……!」
叫ぶだけ叫んで、紗音の額に銃口を向け、……撃った。
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