ここは「花待館」の別館となっています。非公式で「うみねこのなく頃に」「テイルズオブエクシリア」「ファイナルファンタジー(13・零式)」「刀剣乱舞」の二次創作SSを掲載しています。
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お友達と話しているときに思いついた「うみねこのなく頃に」の嘉音×朱志香の短編です。
ギャグです。
裏ブログなので嘉音くんのイメージがとんでもないことになっております。
なので、格好いい嘉音くんをお求めの方は読まない方がよろしいと思われます。
では、どうぞ。
薔薇色なのは世界じゃない
ギャグです。
裏ブログなので嘉音くんのイメージがとんでもないことになっております。
なので、格好いい嘉音くんをお求めの方は読まない方がよろしいと思われます。
では、どうぞ。
薔薇色なのは世界じゃない
某月某日、曇り。
今日も相変わらず曇りだ。あと寒い。
当然のことながら海はネズミ色である。
紗音はこれまたいつものことながら譲治さんも同じ海を見ているから真っ青なのよ、なんて言っていた。
だが、である。
そこに愛しい人が立てば、一瞬にして世界は薔薇色に染まるのだ!
薔薇色なのは世界じゃない
「お嬢様、おはようございます、あなたの嘉音です」
右代宮家に仕える使用人、嘉音の朝はイメージトレーニングから始まる。
勿論対象は嘉音の愛しい人、もとい右代宮本家の令嬢、朱志香である。
嘉音は家具である。だからこそ、朱志香に愛して貰うためには手段を選ばない。
例え端から見ていて痛々しいイメージトレーニングであっても、愛しのお嬢様と触れあえる時間のためなのである。
『おはよう、嘉音くん』
目を瞑らなくたって思い描ける朱志香が太陽のような笑みを返してくれる。
『今日もお嬢様はお美しいです』
『あ、あはは、照れるぜ……嘉音くんは今日も格好いいな』
素直に褒めると、朱志香は赤くなって照れる。それから、嘉音を褒めてくれる。
『お嬢様……』
『嘉音くん……』
そしてどちらからともなく見つめ合う。朱志香の可愛らしい顔がすぐ近くにある。潤んだ瞳と赤くなった頬が愛らしい。
『朱志香って呼んでくれなきゃ、やだ……』
桜色の唇がねだる言葉を紡ぐ。
『朱志香……』
『嘉音くん……』
そしてどちらからともなく唇が近づいて。
ごん!
顔面を思い切り、何かにぶつけた。さっきまで嘉音が対峙していた、白い壁である。
あまりにも妄想に耽っていたため、そんなことはすっかり忘れていたようだ。
「……痛い……」
ひりひりする鼻をさすりながら、もう少しだけ妄想する。
『そろそろ朝食の時間なのでお着替えをお手伝いさせていただきます』
朱志香の上品なネグリジェのボタンに手を掛けると、彼女ははにかんで頷いた。
「朱志香、愛しています……よし、これでいこう」
使用人として、また人としても少しも良くはないのだが、嘉音の中ではとにかく良いことになっている。
意気込んでドアを開けると、紗音が朱志香の部屋に向かうのが見えた。
「ね、ねねねねねねね姉さん!お嬢様は僕が起こしに行くから!」
「……でも嘉音くん、お嬢様がお着替えしているの、見てるつもりでしょ?この間奥様から厳命されたから、私が行ってくるよ」
紗音は困ったような表情をする。そんな姉に嘉音はなおも食い下がる。
「み、見てるだけなんてしないよ!」
「だって嘉音くん、お嬢様の朝のお支度、したことないでしょ?あ、もうお嬢様、起きちゃう!」
懐中時計を見てきゃあ、と紗音は駆けていってしまった。
今朝のシフトは早朝勤ではないので、未練がましく彼は姉の後をつける。彼女は寄り道をせず朱志香の部屋に行き、当然のように中に入れられた。
「……いいなぁ……」
嗚呼妬ましい羨ましい、僕も女の子なら姉さんみたいにお嬢様のお部屋に入れるのに、などと使用人にあるまじき不埒な妄想と理不尽な嫉妬の炎を燃やしていた嘉音は、カーテンの端をがじがじと噛んでいたことに気が付かなかった。
「あれ、嘉音くん。おはよう……カーテン、どうしたんだ?」
いつの間にか支度を終えてこちらに向かっていた朱志香に指摘されるまでカーテンの惨状に気づかなかった。
「いえ、カーテンに虫が止まっていたので追い払っていたところです」
紗音が呆れた顔をした。
「そ、そっか。ありがとうな!」
使用人の間に流れる微妙な空気を感じ取ったのか、朱志香が笑って礼を言う。そして紗音を伴って階下に消えた。
「……カーテン、どうしよう」
とりあえずハンカチで歯形の付いた部分をふき取り、洗濯日まで保たせることにした。
朱志香が学校へ行ってしまってから数時間がたつと、嘉音の本日の仕事が幕を開ける。
ちなみに使用人の朝食の時間は郷田の作ったまかないを食べながら、制服姿の彼女で妄想をしていたら、いつの間にか紗音が離れていた。というか、露骨に引いていた。
--姉さんだって譲治様との新婚風景を妄想しているんだから、僕ばかり責められるのは理不尽だ。
屋敷の清掃(朱志香の部屋の担当だった瑠音に代われといったら夏妃から厳命を受けていなくても嫌だと言われた)で午前中を過ごし、昼食の後は薔薇庭園の手入れをする。
その後の休憩時間は、嘉音にとっては将来をゆっくり考えるとても重要な時間である。
彼の夢は朱志香ともっとお近づきになることである。そして、ゆくゆくは紗音と譲治のような関係になりたい。
いや、なりたいではない。なるのだ。
彼女が紗音と話しているのを聞いた限りでは、朱志香の学校では恋愛話が流行しているらしく、彼女もその手の話は好きである。
だが、今のところ彼女に恋人がいるという話は聞かない。
だから、嘉音は思うのだ。
--僕にだって、チャンスはある!
たしかに自分は家具だ。人間である朱志香と恋をするなど御法度だと十二分に分かっている。
だが、朱志香が彼の全てを愛してくれて、人間になることが出来たなら。
そんな奇跡が起こる日が来たならば。
『朱志香は僕のお嫁さんです!』
『か、嘉音くん……そんな、みんなの前で……』
嘉音が高らかに宣言すると、朱志香は恥ずかしそうに彼の腕の中で身を捩る。
親族達(当主金蔵を含む)はあっけにとられて、夏妃でさえも何も言えない。
『いいえ、これはあなたへの愛の証です。……今日のために指輪を作ったんです』
『え、ゆ、指輪!?』
ポケットからベルベット地の箱を出して、彼女に渡す。
受け取った朱志香はゆっくりと蓋を開けて、そこに納められているダイヤモンドのペアリングを認めると、瞳を潤ませた。
『嘉音、くん……』
『朱志香……永遠に愛しています。だから、僕と結婚してください』
彼の生涯ただ一度の、一世一代のプロポーズを受けた彼女は、潤んだ瞳ではにかんで、ゆっくりと頷いた。
その瞬間、
『おめでとうございます!お嬢様、嘉音くん!』
『おめでとう、朱志香ちゃん、嘉音くん』
使用人や親族から祝福の言葉が贈られる。
『そんなに強い想いなら、引き裂くことはできないわねぇ……』
あの嫌みったらしい絵羽でさえも祝福してくれる。
『じぇ、朱志香!か、母さんは許しません!』
夏妃の反対も、今となっては無意味。
『母さん……私は、嘉音くんと幸せになりたいんだ!もう嘉音くん以外の人じゃ、幸せになれないんだ!』
『朱志香……!』
『いいじゃないかね、夏妃。自分の望みよりも娘の幸せを一番に願う、それが親というものではないかね?』
『父さん……』
蔵臼は夏妃にそう諭すと、朱志香のほうを向いた。
『幸せになりなさい。嘉音……朱志香を、頼む』
そう言うと、娘を送り出した(実際は嘉音を婿養子に迎えるのでこの表現は妥当ではない)父親は目頭を押さえた。
その様子に他の兄弟や伴侶が思わず涙ぐむ。
『兄さん……』
『兄貴……』
『蔵臼兄さん……』
『目出度いときに涙などいけないと分かっているのだが……どうしても止まらないのだよ』
『あなた……』
『蔵臼よ、よくぞ言った。わしも二人の結婚を認めるとここに宣言しよう』
金蔵も優しい笑みを見せ、二人の結婚を認めると宣言する。
『ありがとう、祖父さま、みんな……!』
『ありがとうございます!』
先ほどよりも目を潤ませる朱志香を抱きしめる。
『朱志香は僕が一生、幸せにします!』
『嘉音くん!』
そして、どちらからともなく見つめ合い、唇が重なった。
がちゃ、と扉が開く。
「嘉音くん、お洗濯もの畳むから手伝っ……何やってるの?」
紗音が洗濯物の山から顔をのぞかせて、唖然とした顔になった。
当然だ。大人しく茶を飲んでいるのではなく、嘉音は朱志香の写真を抱きしめて床を転げ回っていたのだ。
ちなみに写真はポケットから出したものだ。
「え、あ、ね、姉さん!?何時の間に……」
「今さっきだけど……嘉音くん、それ、お嬢様の写真?なんかこっち見てないけど」
「盗撮写真だから当然じゃないか」
「……撮らせていただけばいいじゃない?私も譲治様の写真を持ってるけど、ちゃんとお願いして撮らせていただいたのよ?」
洗濯物を使用人室の机に置き、紗音はポケットから小さなフレームを取り出す。そこには、こちらを向いて快活に笑っている譲治がいる。
堂々とそんなことが出来る彼らが羨ましくて妬ましくて、ついつい嘉音は突っかかってしまう。
「姉さん、僕らは家具なんだ。人間と恋なんか……」
そうだ。人間と恋なんか出来るはずがない。姉にそんな悲しい思いはして欲しくない。
そう言いたかったのに、紗音はこちらを睨み付け、タオルを顔面に投げつけてきた。
「姉さん、今の嘉音くんにだけは言われたくないなぁ」
「なんでさ!僕はまだお嬢様と何もない!姉さんばっかりお嬢様と仲良くして!姉さんには譲治様がいるんだから少しくらいお嬢様との時間を僕に譲ってよ!」
「確かにまだ何もないかもしれないけどね、お嬢様を盗撮したり、お嬢様のお召し物の匂いを堪能したり、お風呂掃除のときにお嬢様で妄想してお掃除が1時間もかかるようなストーカーまがいの嘉音くんにだけは言われたくないわ!あとそれ、後半は嘉音くんの私情じゃない!」
そう叱りつけながら、紗音はてきぱきと洗濯物を畳んでいく。嘉音も負けじと洗濯物を畳む。
その中に朱志香のブラウスを見つけ、鼻先に持っていくと、す、と息を吸い込む。
洗剤の匂いだ。畳んでからぎゅ、と抱きしめ、所定の場所に置いた。
「……姉さん、犯罪まがいの行為はやめておいた方が良いと思うなぁ」
紗音が呆れ顔で呟いた。
勿論嘉音の耳には届かなかった。
洗濯物をたたみ終え、ベッドメイクをする。もうすぐ朱志香が帰ってくる時間だ。
その後は、朱志香は紗音とお茶を飲む。嘉音としては非常に羨ましい。どっちが、と聞かれたら、迷わず紗音が羨ましい、と答えるぐらいだ。
それを密かに立ち聞き(盗聴とも言う)しているわけだが、今のところ嘉音が憂慮している事態にはなっていないようだ。
それは勿論、朱志香に恋人が出来てしまうことである。
朱志香は美少女だ。カリスマ性もある。優しいし、使用人に辛くあたることもない。
そんな朱志香を外の世界に放り出しておいたら、きっと男という名の狼に狙われるに違いない。
--ここは僕が騎士としてお嬢様をお守りするんだ!
そう改めて決意する嘉音自身が狼だということに彼は未だに気づけなかった。
それはそうとして、シーツを敷きながらふと気づいた。このシーツは今晩朱志香が横たわるものだ。
そして彼は、本日何度目か分からない妄想の世界へと旅だった。
『嘉音くん、このベッド、嘉音くんの匂いがする……』
朱志香がベッドに身を横たえて、うっとりと呟く。
『なんだか、あったかいよ……心がほこほこするみたい』
『お嬢様……お嬢様に喜んでいただきたくて、暖めておきました』
嘉音はぺこりとお辞儀をする。すると彼女は頬を僅かに染めて、ベッドから起きあがった。その拍子にネグリジェが捲れ上がり、太股が丸出しになる。
『お嬢様……おみ足が。……失礼します』
『ん……あ、ごめん……っ』
裾を直した拍子に太股に指先が触れてしまい、朱志香がくすぐったそうに身を捩った。
『あ、申し訳ありません!』
『い、いや……いいんだ。そ、それで、その……』
いつになくとろんとした瞳は少し潤み、嘉音はどきりとする。すると朱志香は身を乗り出して、細い腕を彼の首に巻き付けた。
『お嬢様……?』
ふわりと漂う良い匂いに、頭がくらくらする。
『嘉音くんの匂い、もう少し感じたいんだ……ダメ、かな?』
『お嬢様……』
『もう少し、こうしていちゃ、ダメかな……』
暖かい体温に、伝わる鼓動に、人知れず酔いしれる。
思わず赤くなる顔が、速まる鼓動が、彼女に知られてしまわないだろうか?
その間の沈黙を拒否と受け取ったのか、朱志香は身を離してばつが悪そうに笑った。
『ご、ごめん……迷惑だよな、こんなこと……困らせちゃって、本当ごめんな』
その台詞に、嘉音の胸が締め付けられる。そして、頭のどこかで理性の糸が切れたような音がした。
『迷惑などではありません』
す、とベッドに座る朱志香の肩に手を掛ける。
『え……か、嘉音、くん!?』
そのまま軽く押すと、彼女はどさりと仰向けに倒れた。靴を脱いで、その柔らかい身体の上に被さる。
『そんなことをなされて男に火をつけて……どうなってもよろしいのですか?』
『嘉音くん……』
そのまま抱きしめる。
『お慕いしています……朱志香様』
『わ、私も……嘉音くんのこと、好きだぜ……』
想いを伝えあい、抱擁はますます深くなる。嘉音の胸に置かれていた手が背中にまわる。
『朱志香様……』
『嘉音くん……嘉音くんになら、何されても、いいよ……』
熱に浮かされたような声に、嘉音は思わず首筋に顔を埋めた。
若い恋人達の夜は、これからだ。
「朱志香様……」
本人には言えないような妄想に浸っていた嘉音の耳に、とんでもない人物の声が飛び込んでくる。
「おいたわしや嘉音さん……お嬢様を思うあまりに妄想を……」
熊沢だ。いつの間にかベッドメイクを終え、ベッドに潜り込んでいた嘉音は文字通り飛び上がってベッドから抜け出る。元通りに整えると、入り口にいる熊沢のところに駆けていった。
「く、熊沢さん!?どうしてここに……」
「ほっほっほ……ベッドメイクにいった使用人のうち、嘉音さんが戻ってこないということで探しに来たのですが……おいたわしや……」
それだけ言うと、熊沢は背を向けて使用人室に戻っていった。
「仕方ないじゃないですか……お嬢様が好きなんですからぁぁぁぁ!」
涙目で絶叫する嘉音の台詞は、誰にも届かなかった。
--今日も海は灰色だ。だって曇りだし。だけど、そこにお嬢様がいるだけで世界は薔薇色だ。お嬢様がそこにいるだけで、全てのものはお嬢様を引き立てる背景にしかならないんだ!
「お嬢様、あなたのためなら僕は喜んで万物を背景にしまぶっ!」
がすっ、と鈍い音と鈍い痛みが嘉音の後頭部に炸裂した。振り向けば紗音が玩具のコインを握り込んで笑顔で拳を振り上げている。
「お嬢様ほど拳が強いわけじゃないけど、コインを握り込めば威力が強くなるって教えていただいたの」
「え……え!?誰に!?」
「お嬢様よ」
「お嬢様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!教えちゃダメですぅぅぅぅぅっ!」
がっ、ともう一度、拳が彼の鼻にめり込む。仰向けに倒れた彼に紗音はマウントポジションをとり、強かに殴りつけた。
「シールドが無くったって、嘉音くん1人ぐらいなら姉さんにも倒せるんだよ?」
「ちょ、姉さん仕事は!?痛い痛い痛い!」
「休憩中よ」
そして、紗音は笑顔を一瞬で未だかつて見たこともないような恐ろしい形相に変え、拳を振り上げた。
「よくも譲治様を背景扱いしてくれたわねぇぇぇぇぇっ!!!!」
「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
うみねこのなく頃に、生き残れた嘉音は無し。
魔女の棋譜
使用人・嘉音
事件前に死亡?殴られながらの妄想による鼻血も死因のひとつかと思われる。
譲治様や私を背景扱いするから悪いのよ!(by紗音)
おわり
今日も相変わらず曇りだ。あと寒い。
当然のことながら海はネズミ色である。
紗音はこれまたいつものことながら譲治さんも同じ海を見ているから真っ青なのよ、なんて言っていた。
だが、である。
そこに愛しい人が立てば、一瞬にして世界は薔薇色に染まるのだ!
薔薇色なのは世界じゃない
「お嬢様、おはようございます、あなたの嘉音です」
右代宮家に仕える使用人、嘉音の朝はイメージトレーニングから始まる。
勿論対象は嘉音の愛しい人、もとい右代宮本家の令嬢、朱志香である。
嘉音は家具である。だからこそ、朱志香に愛して貰うためには手段を選ばない。
例え端から見ていて痛々しいイメージトレーニングであっても、愛しのお嬢様と触れあえる時間のためなのである。
『おはよう、嘉音くん』
目を瞑らなくたって思い描ける朱志香が太陽のような笑みを返してくれる。
『今日もお嬢様はお美しいです』
『あ、あはは、照れるぜ……嘉音くんは今日も格好いいな』
素直に褒めると、朱志香は赤くなって照れる。それから、嘉音を褒めてくれる。
『お嬢様……』
『嘉音くん……』
そしてどちらからともなく見つめ合う。朱志香の可愛らしい顔がすぐ近くにある。潤んだ瞳と赤くなった頬が愛らしい。
『朱志香って呼んでくれなきゃ、やだ……』
桜色の唇がねだる言葉を紡ぐ。
『朱志香……』
『嘉音くん……』
そしてどちらからともなく唇が近づいて。
ごん!
顔面を思い切り、何かにぶつけた。さっきまで嘉音が対峙していた、白い壁である。
あまりにも妄想に耽っていたため、そんなことはすっかり忘れていたようだ。
「……痛い……」
ひりひりする鼻をさすりながら、もう少しだけ妄想する。
『そろそろ朝食の時間なのでお着替えをお手伝いさせていただきます』
朱志香の上品なネグリジェのボタンに手を掛けると、彼女ははにかんで頷いた。
「朱志香、愛しています……よし、これでいこう」
使用人として、また人としても少しも良くはないのだが、嘉音の中ではとにかく良いことになっている。
意気込んでドアを開けると、紗音が朱志香の部屋に向かうのが見えた。
「ね、ねねねねねねね姉さん!お嬢様は僕が起こしに行くから!」
「……でも嘉音くん、お嬢様がお着替えしているの、見てるつもりでしょ?この間奥様から厳命されたから、私が行ってくるよ」
紗音は困ったような表情をする。そんな姉に嘉音はなおも食い下がる。
「み、見てるだけなんてしないよ!」
「だって嘉音くん、お嬢様の朝のお支度、したことないでしょ?あ、もうお嬢様、起きちゃう!」
懐中時計を見てきゃあ、と紗音は駆けていってしまった。
今朝のシフトは早朝勤ではないので、未練がましく彼は姉の後をつける。彼女は寄り道をせず朱志香の部屋に行き、当然のように中に入れられた。
「……いいなぁ……」
嗚呼妬ましい羨ましい、僕も女の子なら姉さんみたいにお嬢様のお部屋に入れるのに、などと使用人にあるまじき不埒な妄想と理不尽な嫉妬の炎を燃やしていた嘉音は、カーテンの端をがじがじと噛んでいたことに気が付かなかった。
「あれ、嘉音くん。おはよう……カーテン、どうしたんだ?」
いつの間にか支度を終えてこちらに向かっていた朱志香に指摘されるまでカーテンの惨状に気づかなかった。
「いえ、カーテンに虫が止まっていたので追い払っていたところです」
紗音が呆れた顔をした。
「そ、そっか。ありがとうな!」
使用人の間に流れる微妙な空気を感じ取ったのか、朱志香が笑って礼を言う。そして紗音を伴って階下に消えた。
「……カーテン、どうしよう」
とりあえずハンカチで歯形の付いた部分をふき取り、洗濯日まで保たせることにした。
朱志香が学校へ行ってしまってから数時間がたつと、嘉音の本日の仕事が幕を開ける。
ちなみに使用人の朝食の時間は郷田の作ったまかないを食べながら、制服姿の彼女で妄想をしていたら、いつの間にか紗音が離れていた。というか、露骨に引いていた。
--姉さんだって譲治様との新婚風景を妄想しているんだから、僕ばかり責められるのは理不尽だ。
屋敷の清掃(朱志香の部屋の担当だった瑠音に代われといったら夏妃から厳命を受けていなくても嫌だと言われた)で午前中を過ごし、昼食の後は薔薇庭園の手入れをする。
その後の休憩時間は、嘉音にとっては将来をゆっくり考えるとても重要な時間である。
彼の夢は朱志香ともっとお近づきになることである。そして、ゆくゆくは紗音と譲治のような関係になりたい。
いや、なりたいではない。なるのだ。
彼女が紗音と話しているのを聞いた限りでは、朱志香の学校では恋愛話が流行しているらしく、彼女もその手の話は好きである。
だが、今のところ彼女に恋人がいるという話は聞かない。
だから、嘉音は思うのだ。
--僕にだって、チャンスはある!
たしかに自分は家具だ。人間である朱志香と恋をするなど御法度だと十二分に分かっている。
だが、朱志香が彼の全てを愛してくれて、人間になることが出来たなら。
そんな奇跡が起こる日が来たならば。
『朱志香は僕のお嫁さんです!』
『か、嘉音くん……そんな、みんなの前で……』
嘉音が高らかに宣言すると、朱志香は恥ずかしそうに彼の腕の中で身を捩る。
親族達(当主金蔵を含む)はあっけにとられて、夏妃でさえも何も言えない。
『いいえ、これはあなたへの愛の証です。……今日のために指輪を作ったんです』
『え、ゆ、指輪!?』
ポケットからベルベット地の箱を出して、彼女に渡す。
受け取った朱志香はゆっくりと蓋を開けて、そこに納められているダイヤモンドのペアリングを認めると、瞳を潤ませた。
『嘉音、くん……』
『朱志香……永遠に愛しています。だから、僕と結婚してください』
彼の生涯ただ一度の、一世一代のプロポーズを受けた彼女は、潤んだ瞳ではにかんで、ゆっくりと頷いた。
その瞬間、
『おめでとうございます!お嬢様、嘉音くん!』
『おめでとう、朱志香ちゃん、嘉音くん』
使用人や親族から祝福の言葉が贈られる。
『そんなに強い想いなら、引き裂くことはできないわねぇ……』
あの嫌みったらしい絵羽でさえも祝福してくれる。
『じぇ、朱志香!か、母さんは許しません!』
夏妃の反対も、今となっては無意味。
『母さん……私は、嘉音くんと幸せになりたいんだ!もう嘉音くん以外の人じゃ、幸せになれないんだ!』
『朱志香……!』
『いいじゃないかね、夏妃。自分の望みよりも娘の幸せを一番に願う、それが親というものではないかね?』
『父さん……』
蔵臼は夏妃にそう諭すと、朱志香のほうを向いた。
『幸せになりなさい。嘉音……朱志香を、頼む』
そう言うと、娘を送り出した(実際は嘉音を婿養子に迎えるのでこの表現は妥当ではない)父親は目頭を押さえた。
その様子に他の兄弟や伴侶が思わず涙ぐむ。
『兄さん……』
『兄貴……』
『蔵臼兄さん……』
『目出度いときに涙などいけないと分かっているのだが……どうしても止まらないのだよ』
『あなた……』
『蔵臼よ、よくぞ言った。わしも二人の結婚を認めるとここに宣言しよう』
金蔵も優しい笑みを見せ、二人の結婚を認めると宣言する。
『ありがとう、祖父さま、みんな……!』
『ありがとうございます!』
先ほどよりも目を潤ませる朱志香を抱きしめる。
『朱志香は僕が一生、幸せにします!』
『嘉音くん!』
そして、どちらからともなく見つめ合い、唇が重なった。
がちゃ、と扉が開く。
「嘉音くん、お洗濯もの畳むから手伝っ……何やってるの?」
紗音が洗濯物の山から顔をのぞかせて、唖然とした顔になった。
当然だ。大人しく茶を飲んでいるのではなく、嘉音は朱志香の写真を抱きしめて床を転げ回っていたのだ。
ちなみに写真はポケットから出したものだ。
「え、あ、ね、姉さん!?何時の間に……」
「今さっきだけど……嘉音くん、それ、お嬢様の写真?なんかこっち見てないけど」
「盗撮写真だから当然じゃないか」
「……撮らせていただけばいいじゃない?私も譲治様の写真を持ってるけど、ちゃんとお願いして撮らせていただいたのよ?」
洗濯物を使用人室の机に置き、紗音はポケットから小さなフレームを取り出す。そこには、こちらを向いて快活に笑っている譲治がいる。
堂々とそんなことが出来る彼らが羨ましくて妬ましくて、ついつい嘉音は突っかかってしまう。
「姉さん、僕らは家具なんだ。人間と恋なんか……」
そうだ。人間と恋なんか出来るはずがない。姉にそんな悲しい思いはして欲しくない。
そう言いたかったのに、紗音はこちらを睨み付け、タオルを顔面に投げつけてきた。
「姉さん、今の嘉音くんにだけは言われたくないなぁ」
「なんでさ!僕はまだお嬢様と何もない!姉さんばっかりお嬢様と仲良くして!姉さんには譲治様がいるんだから少しくらいお嬢様との時間を僕に譲ってよ!」
「確かにまだ何もないかもしれないけどね、お嬢様を盗撮したり、お嬢様のお召し物の匂いを堪能したり、お風呂掃除のときにお嬢様で妄想してお掃除が1時間もかかるようなストーカーまがいの嘉音くんにだけは言われたくないわ!あとそれ、後半は嘉音くんの私情じゃない!」
そう叱りつけながら、紗音はてきぱきと洗濯物を畳んでいく。嘉音も負けじと洗濯物を畳む。
その中に朱志香のブラウスを見つけ、鼻先に持っていくと、す、と息を吸い込む。
洗剤の匂いだ。畳んでからぎゅ、と抱きしめ、所定の場所に置いた。
「……姉さん、犯罪まがいの行為はやめておいた方が良いと思うなぁ」
紗音が呆れ顔で呟いた。
勿論嘉音の耳には届かなかった。
洗濯物をたたみ終え、ベッドメイクをする。もうすぐ朱志香が帰ってくる時間だ。
その後は、朱志香は紗音とお茶を飲む。嘉音としては非常に羨ましい。どっちが、と聞かれたら、迷わず紗音が羨ましい、と答えるぐらいだ。
それを密かに立ち聞き(盗聴とも言う)しているわけだが、今のところ嘉音が憂慮している事態にはなっていないようだ。
それは勿論、朱志香に恋人が出来てしまうことである。
朱志香は美少女だ。カリスマ性もある。優しいし、使用人に辛くあたることもない。
そんな朱志香を外の世界に放り出しておいたら、きっと男という名の狼に狙われるに違いない。
--ここは僕が騎士としてお嬢様をお守りするんだ!
そう改めて決意する嘉音自身が狼だということに彼は未だに気づけなかった。
それはそうとして、シーツを敷きながらふと気づいた。このシーツは今晩朱志香が横たわるものだ。
そして彼は、本日何度目か分からない妄想の世界へと旅だった。
『嘉音くん、このベッド、嘉音くんの匂いがする……』
朱志香がベッドに身を横たえて、うっとりと呟く。
『なんだか、あったかいよ……心がほこほこするみたい』
『お嬢様……お嬢様に喜んでいただきたくて、暖めておきました』
嘉音はぺこりとお辞儀をする。すると彼女は頬を僅かに染めて、ベッドから起きあがった。その拍子にネグリジェが捲れ上がり、太股が丸出しになる。
『お嬢様……おみ足が。……失礼します』
『ん……あ、ごめん……っ』
裾を直した拍子に太股に指先が触れてしまい、朱志香がくすぐったそうに身を捩った。
『あ、申し訳ありません!』
『い、いや……いいんだ。そ、それで、その……』
いつになくとろんとした瞳は少し潤み、嘉音はどきりとする。すると朱志香は身を乗り出して、細い腕を彼の首に巻き付けた。
『お嬢様……?』
ふわりと漂う良い匂いに、頭がくらくらする。
『嘉音くんの匂い、もう少し感じたいんだ……ダメ、かな?』
『お嬢様……』
『もう少し、こうしていちゃ、ダメかな……』
暖かい体温に、伝わる鼓動に、人知れず酔いしれる。
思わず赤くなる顔が、速まる鼓動が、彼女に知られてしまわないだろうか?
その間の沈黙を拒否と受け取ったのか、朱志香は身を離してばつが悪そうに笑った。
『ご、ごめん……迷惑だよな、こんなこと……困らせちゃって、本当ごめんな』
その台詞に、嘉音の胸が締め付けられる。そして、頭のどこかで理性の糸が切れたような音がした。
『迷惑などではありません』
す、とベッドに座る朱志香の肩に手を掛ける。
『え……か、嘉音、くん!?』
そのまま軽く押すと、彼女はどさりと仰向けに倒れた。靴を脱いで、その柔らかい身体の上に被さる。
『そんなことをなされて男に火をつけて……どうなってもよろしいのですか?』
『嘉音くん……』
そのまま抱きしめる。
『お慕いしています……朱志香様』
『わ、私も……嘉音くんのこと、好きだぜ……』
想いを伝えあい、抱擁はますます深くなる。嘉音の胸に置かれていた手が背中にまわる。
『朱志香様……』
『嘉音くん……嘉音くんになら、何されても、いいよ……』
熱に浮かされたような声に、嘉音は思わず首筋に顔を埋めた。
若い恋人達の夜は、これからだ。
「朱志香様……」
本人には言えないような妄想に浸っていた嘉音の耳に、とんでもない人物の声が飛び込んでくる。
「おいたわしや嘉音さん……お嬢様を思うあまりに妄想を……」
熊沢だ。いつの間にかベッドメイクを終え、ベッドに潜り込んでいた嘉音は文字通り飛び上がってベッドから抜け出る。元通りに整えると、入り口にいる熊沢のところに駆けていった。
「く、熊沢さん!?どうしてここに……」
「ほっほっほ……ベッドメイクにいった使用人のうち、嘉音さんが戻ってこないということで探しに来たのですが……おいたわしや……」
それだけ言うと、熊沢は背を向けて使用人室に戻っていった。
「仕方ないじゃないですか……お嬢様が好きなんですからぁぁぁぁ!」
涙目で絶叫する嘉音の台詞は、誰にも届かなかった。
--今日も海は灰色だ。だって曇りだし。だけど、そこにお嬢様がいるだけで世界は薔薇色だ。お嬢様がそこにいるだけで、全てのものはお嬢様を引き立てる背景にしかならないんだ!
「お嬢様、あなたのためなら僕は喜んで万物を背景にしまぶっ!」
がすっ、と鈍い音と鈍い痛みが嘉音の後頭部に炸裂した。振り向けば紗音が玩具のコインを握り込んで笑顔で拳を振り上げている。
「お嬢様ほど拳が強いわけじゃないけど、コインを握り込めば威力が強くなるって教えていただいたの」
「え……え!?誰に!?」
「お嬢様よ」
「お嬢様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!教えちゃダメですぅぅぅぅぅっ!」
がっ、ともう一度、拳が彼の鼻にめり込む。仰向けに倒れた彼に紗音はマウントポジションをとり、強かに殴りつけた。
「シールドが無くったって、嘉音くん1人ぐらいなら姉さんにも倒せるんだよ?」
「ちょ、姉さん仕事は!?痛い痛い痛い!」
「休憩中よ」
そして、紗音は笑顔を一瞬で未だかつて見たこともないような恐ろしい形相に変え、拳を振り上げた。
「よくも譲治様を背景扱いしてくれたわねぇぇぇぇぇっ!!!!」
「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
うみねこのなく頃に、生き残れた嘉音は無し。
魔女の棋譜
使用人・嘉音
事件前に死亡?殴られながらの妄想による鼻血も死因のひとつかと思われる。
譲治様や私を背景扱いするから悪いのよ!(by紗音)
おわり
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