ここは「花待館」の別館となっています。非公式で「うみねこのなく頃に」「テイルズオブエクシリア」「ファイナルファンタジー(13・零式)」「刀剣乱舞」の二次創作SSを掲載しています。
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うみねこ二次創作の二本目です。
嘉音くんのヤンデレ話です。
!諸注意!
・朱志香が碑文を解いて次期当主になっています。
・ついでにベアトリーチェ=朱志香になっています。
・マリアージュ・ソルシエールと戦人の過去に多大なる捏造があります。
よろしければどうぞ。
Romance to decadence 前編
嘉音くんのヤンデレ話です。
!諸注意!
・朱志香が碑文を解いて次期当主になっています。
・ついでにベアトリーチェ=朱志香になっています。
・マリアージュ・ソルシエールと戦人の過去に多大なる捏造があります。
よろしければどうぞ。
Romance to decadence 前編
--お嬢様が好きだった。ずっと前から好きだった。文化祭のあの夜、お嬢様も同じ気持ちだと分かって、すごく嬉しかった。でも僕は家具だから、お嬢様の想いを受け止めることは出来ない。
そして、少年は顔を上げる。
--お嬢様があの碑文を解かれた以上、お嬢様は当主となる。
それは、とてもとても自然なこと。少年の愛する少女はそのままでも当主になることが出来る上に、現当主の出した問題を解いて見せたのだから。
けれど。
--だけど、お嬢様は永遠に籠の鳥。僕と永遠に結ばれることはない……!
少年にはそれが悔しくてならなかった。いずれ少女は父親さえ飛び越して当主になり、望まぬ結婚を強いられるだろう。だから、あの文化祭の夜に、はっきりと想いを告げてはくれなかったのだろう。
少女がいくら否定しようとしても少年は家具で、この家には家具と人間が結ばれることをよく思わない人のほうが多いのだから。
--ならば、いっそ。僕がその障害を取り除いてあげましょう。だから、お嬢様……。
「僕を愛してください、朱志香様ぁぁぁっ!」
轟く雷鳴の中、嘉音は叫んだ。その稲光の中で、あの肖像画に描かれた魔女ベアトリーチェのドレスを着た朱志香が微笑んだ気がした。
Romance to decadence
嘉音が朱志香を自由にしたいと思ったのはいつだったか、彼にも分からない。ただ、紗音から聞いたことが今でも鮮烈に頭の中に残っている。
『お嬢様はね、島から連れ去ってくれる白馬の王子様を待っていらっしゃるのよ』
その言葉を聞いた瞬間、朱志香を連れ去れるのは奇跡を起こして人間になれた自分しかいないのだと思った。
それでも、彼は家具だから、今のままでは朱志香を連れ去ることなど出来ない。
だから、譲治と恋をして、人間のふりをしながらもだんだんと人間になってゆく紗音が妬ましかった。
嘉音に振り向きもせず、来もしない王子を待ち続ける朱志香が、憎らしかった。けれど、ある時気づいてしまったのだ。朱志香が外ばかり見ているのは、彼女が空に憧れる風切り羽すら生えそろった小鳥だからだと。
--だったら、僕はお嬢様の鳥籠を開けて、一緒に飛べる小鳥になろう。
紗音と喧嘩をした。私は人間だと叫ぶ紗音に、僕たちは家具だと強く念を押した。
普段なら紗音はここで引き下がるのに、このときに限って私たちは人間になれるのだと主張した。そして、彼に蝶のブローチを渡したのだ。
恋が実るおまじないだと言って。
姉は知っているのだ。
嘉音が朱志香に恋心を寄せていることを。
しかし、その恋心は、嘉音の望む形では叶わなかったのだ。朱志香は碑文を解き、金蔵亡き後の当主の座を約束された。嘉音はついぞ、人間となることが出来なかったのだ。
朱志香ははっきりとした形で嘉音を愛していると言ってはくれなかった。
彼は思った。
--お嬢様が告白してくださらなかったのは、奥様や旦那様が許さないからだ。
朱志香が両親である蔵臼と夏妃のことを良く言っていないのを知っていた。けれど、ふとした瞬間に気遣うような目を見せることがある。朱志香はおそらく、言葉でなんと繕おうと両親のことが好きなのだ。
だからきっと、彼女は両親の勧める結婚には逆らえない。
仮に逆らって嘉音と結婚したとしても、その先に待っているのは右代宮親族の、いや、金蔵の実子とその伴侶達の嘲りと、二人の悪夢でしかない。
彼は考えた。義務教育を受けさせてやったのにと嘲りを受けても、朱志香と幸せになれる方法を必死で考えた。
--そうだ、お嬢様と僕の妨げになるモノを全て葬り去ってしまえばいい。そうすればきっと、お嬢様はご自分の気持ちに素直になってくれるはずだ。
自分と恋に落ちることが罪だというならば、罪の烙印を押す者たちを葬り去ろう。
そう気づくと、金蔵がベアトリーチェとの愛を偲んで作った(であろう)碑文が、急に現在のベアトリーチェである朱志香と自分の新世界に飛び立つための方法に見えてくる。
朱志香は、白き魔女だ。紗音は言っていた。
従妹である右代宮真里亞に、互いの妄想に真実であると保証する『魔法』を教えたのは朱志香だった、と。そして彼女は、愛による魔女幻想を、優しきベアトリーチェの幻想を生み出した。
紗音に譲治と幸せになれるよう魔法を掛けた。
けれど、白き魔女は自分の幸せがどこにあるかを見失ってしまったのだ。
そんなある日、6年間右代宮家を出ていたという朱志香の従兄弟、戦人が親族会議に来るという話を聞いた。
それを聞いたときの朱志香の顔は嬉しそうで、姉から従兄弟以上の何者でもないと聞いていたのに、初めて愛しい人を奪われるかもしれない、という焦燥感を覚えた。
朱志香を笑顔に出来る戦人に対し、初めて嫉妬から来る憎悪の炎を燃やした。
「嘉音くん、最近機嫌悪そうよ。お嬢様も心配してらしたわ」
使用人室で休憩していると、紗音が心配そうに話しかけてくる。
「姉さん……何でもないよ」
素っ気なく返せば、姉はため息を吐く。
「そう?それなら良いんだけど……」
「……姉さん」
「何?」
「お嬢様と戦人様は、本当に従兄弟同士なだけなの?」
「嘉音くんが心配しているようなことは何もないわ。ただ……」
紗音が言いよどむ。先を促すと、言いづらそうに彼女は続けた。
「戦人様が右代宮家を出て行ったとき、お嬢様の……ジェシカ・ベアトリーチェ様の魔法を否定されてしまったの」
紗音は語った。
真里亞と朱志香が魔法同盟を組んだとき、戦人もその同盟に入っていたこと。
その同盟は互いの妄想を真実だと保証することで幸せな魔法とするものだったこと。
そして、彼が右代宮家を出て行くとき、朱志香に「幸せになれる魔法など無い」と宣告してしまったこと。
彼が母方の人間だけを家族としたことで、朱志香達の幸せな魔法の世界が崩壊してしまったこと。
「……姉さん。どうしてお嬢様はそんなやつのことを許していられるの。どうしてご自分まで否定されて、そんな酷いやつが帰ってくることを喜べるの!?」
「多分ね……これは私の想像だけど、お嬢様は全て許すことが魔法だと信じていらっしゃるんじゃないかな。だって……愛がなければ、その人への感情は、無限に悪化してしまうもの。愛がなければ、真実の側面しか視えないもの」
「おかしい……そんなの、おかしいよ!このままじゃ、お嬢様はずっと傷ついたままじゃないか!」
「お嬢様はそれだけ、許してしまったのかもしれないね。それか、もう一度幸せな魔法はあったと信じて貰うことを願っていらっしゃるのかしら……」
許せない。
幸せな魔法を否定したそいつが。
右代宮家を捨てたそいつが。
朱志香を傷つけて、裏切った戦人が!
どうしても許せない。どれだけ愛があったとしても、起こってしまった出来事は取り消せない。
魔法を否定したのは、罪だ。
右代宮家を捨てたのも、罪だ。
だが、朱志香を傷つけて、裏切って、のうのうとしていることが、一番の罪だ!
償わずにのうのうと戻ってくるなど、朱志香が許しても、真里亞が許しても、紗音が許しても、嘉音にはどうしても許すことが出来ない。
罪人には裁きを。
朱志香と戦人の関係を聞いて、燻っていた憎悪の炎が、一瞬にして燃え上がる。
目の前に具現化できるとしたら、きっとそれはこの六軒島を焼き尽くし、それでも足りずに海を渡って右代宮分家の全てを焼き尽くしてもまだ足りないだろう。
「許せない……殺してやる……右代宮戦人!」
そのまま使用人室を走り去った嘉音の背中に、紗音の悲痛な叫びが届く。
「嘉音くん、何する気なの!?」
その悲痛さに一度だけ立ち止まる。
「お嬢様……朱志香と僕が、幸せに……黄金郷に行けるようにするだけだよ。僕はお嬢様が好きだ。朱志香の幸せを望んで何が悪い!?」
「待ちなさい!嘉音くん!」
もう一度走り出す。呼び止められても、今度は立ち止まらなかった。
そうだ。
これで当日、この島に来るのは18人。
ベアトリーチェの碑文で犠牲になるのは、13人。
譲治も紗音も、真里亞も、戦人も、いずれは犠牲になるだろう。
さあ、儀式の始まりだ……!
1986年10月4日
「戦人のやつ、面白いんだぜ?後で嘉音くんにも聞かせてやるよ」
昼間、薔薇庭園で宣言したとおり、その夜朱志香は高速艇での出来事を事細かに話してくれた。
「う~!落ちる~、落ちる~!う~!」
真里亞が茶化すようにはやし立てる。
「朱志香ぁ~……いつかお前の弱点見つけて乳揉みしだいてやるからなぁ~!」
地をはうような戦人の声に、譲治も紗音も真里亞も、そして朱志香も笑う。
「あっははは、見つけられたら考えてやるよ!」
明るい朱志香の声。
--お嬢様は……傷つけられたことさえも、裏切りさえも許せるというのですか!?
心の内に燃えさかる炎は、決して消えることはない。
朱志香に失礼しました、と一礼して嘉音はゲストハウスのいとこ部屋を出る。紗音は譲治と連れだって、薔薇庭園の東屋へ行ったようだ。
こっそりと後をつける。
「私に……その未来を見せてくださいますか」
「約束するよ……紗代」
「譲治さん……」
「紗代……」
譲治の求婚を受け入れた以上、紗音は家具ではいられないだろう。譲治の妻として、人間になってしまうだろう。
なぜならそれは、幸せの魔法で作り出された黄金郷だから。
黄金郷に至った紗音は、人間になれるのだ。
--姉さんは、バカだ。でも……バカだから……人間になれるんだ。
いや、本当の馬鹿者は嘉音だったのかもしれない。
文化祭の夜に想いを告げられず、人間になれなかったのだから。
手に手を取り合ってゲストハウスに向かう二人を見送って、嘉音は東屋に入った。軽く頭を振って、胸にわき起こる仄暗い、新たな憎悪の火種を打ち消そうとする。けれど、一度起こった火種は消えず、前からの炎と混ざり合って、暗く暗く燃え上がった。
紗音が妬ましい。
1人だけ人間になろうとしている紗音が憎い。
譲治の愛を受け入れて、幸せになろうとしている彼女が憎い。
恋のおまじないと言って朱志香への報われない恋心を煽った彼女が、憎い……!
--僕だって……。
「僕だって……お嬢様のことが好きだった……!お嬢様……!」
それでも、金蔵亡き今、朱志香が当主になるのは時間の問題。
そうなればきっと、嘉音が彼女と結ばれることはないだろう。
--ならば、僕がその障害を取り除きますから……あなたを鳥籠から出しますから……!だから、お嬢様……!
「僕を愛してください……お嬢様……朱志香様ぁぁぁぁぁぁぁ!」
雷鳴が轟き、ゲストハウスにいるはずの朱志香にその言葉は届くはずはない。
けれど、嘉音……家具であった少年は声を限りに泣き叫んだ。
--あなたを黄金郷に連れ去ったそのときは、僕だけを見てください……!
そして、少年は顔を上げる。
--お嬢様があの碑文を解かれた以上、お嬢様は当主となる。
それは、とてもとても自然なこと。少年の愛する少女はそのままでも当主になることが出来る上に、現当主の出した問題を解いて見せたのだから。
けれど。
--だけど、お嬢様は永遠に籠の鳥。僕と永遠に結ばれることはない……!
少年にはそれが悔しくてならなかった。いずれ少女は父親さえ飛び越して当主になり、望まぬ結婚を強いられるだろう。だから、あの文化祭の夜に、はっきりと想いを告げてはくれなかったのだろう。
少女がいくら否定しようとしても少年は家具で、この家には家具と人間が結ばれることをよく思わない人のほうが多いのだから。
--ならば、いっそ。僕がその障害を取り除いてあげましょう。だから、お嬢様……。
「僕を愛してください、朱志香様ぁぁぁっ!」
轟く雷鳴の中、嘉音は叫んだ。その稲光の中で、あの肖像画に描かれた魔女ベアトリーチェのドレスを着た朱志香が微笑んだ気がした。
Romance to decadence
嘉音が朱志香を自由にしたいと思ったのはいつだったか、彼にも分からない。ただ、紗音から聞いたことが今でも鮮烈に頭の中に残っている。
『お嬢様はね、島から連れ去ってくれる白馬の王子様を待っていらっしゃるのよ』
その言葉を聞いた瞬間、朱志香を連れ去れるのは奇跡を起こして人間になれた自分しかいないのだと思った。
それでも、彼は家具だから、今のままでは朱志香を連れ去ることなど出来ない。
だから、譲治と恋をして、人間のふりをしながらもだんだんと人間になってゆく紗音が妬ましかった。
嘉音に振り向きもせず、来もしない王子を待ち続ける朱志香が、憎らしかった。けれど、ある時気づいてしまったのだ。朱志香が外ばかり見ているのは、彼女が空に憧れる風切り羽すら生えそろった小鳥だからだと。
--だったら、僕はお嬢様の鳥籠を開けて、一緒に飛べる小鳥になろう。
紗音と喧嘩をした。私は人間だと叫ぶ紗音に、僕たちは家具だと強く念を押した。
普段なら紗音はここで引き下がるのに、このときに限って私たちは人間になれるのだと主張した。そして、彼に蝶のブローチを渡したのだ。
恋が実るおまじないだと言って。
姉は知っているのだ。
嘉音が朱志香に恋心を寄せていることを。
しかし、その恋心は、嘉音の望む形では叶わなかったのだ。朱志香は碑文を解き、金蔵亡き後の当主の座を約束された。嘉音はついぞ、人間となることが出来なかったのだ。
朱志香ははっきりとした形で嘉音を愛していると言ってはくれなかった。
彼は思った。
--お嬢様が告白してくださらなかったのは、奥様や旦那様が許さないからだ。
朱志香が両親である蔵臼と夏妃のことを良く言っていないのを知っていた。けれど、ふとした瞬間に気遣うような目を見せることがある。朱志香はおそらく、言葉でなんと繕おうと両親のことが好きなのだ。
だからきっと、彼女は両親の勧める結婚には逆らえない。
仮に逆らって嘉音と結婚したとしても、その先に待っているのは右代宮親族の、いや、金蔵の実子とその伴侶達の嘲りと、二人の悪夢でしかない。
彼は考えた。義務教育を受けさせてやったのにと嘲りを受けても、朱志香と幸せになれる方法を必死で考えた。
--そうだ、お嬢様と僕の妨げになるモノを全て葬り去ってしまえばいい。そうすればきっと、お嬢様はご自分の気持ちに素直になってくれるはずだ。
自分と恋に落ちることが罪だというならば、罪の烙印を押す者たちを葬り去ろう。
そう気づくと、金蔵がベアトリーチェとの愛を偲んで作った(であろう)碑文が、急に現在のベアトリーチェである朱志香と自分の新世界に飛び立つための方法に見えてくる。
朱志香は、白き魔女だ。紗音は言っていた。
従妹である右代宮真里亞に、互いの妄想に真実であると保証する『魔法』を教えたのは朱志香だった、と。そして彼女は、愛による魔女幻想を、優しきベアトリーチェの幻想を生み出した。
紗音に譲治と幸せになれるよう魔法を掛けた。
けれど、白き魔女は自分の幸せがどこにあるかを見失ってしまったのだ。
そんなある日、6年間右代宮家を出ていたという朱志香の従兄弟、戦人が親族会議に来るという話を聞いた。
それを聞いたときの朱志香の顔は嬉しそうで、姉から従兄弟以上の何者でもないと聞いていたのに、初めて愛しい人を奪われるかもしれない、という焦燥感を覚えた。
朱志香を笑顔に出来る戦人に対し、初めて嫉妬から来る憎悪の炎を燃やした。
「嘉音くん、最近機嫌悪そうよ。お嬢様も心配してらしたわ」
使用人室で休憩していると、紗音が心配そうに話しかけてくる。
「姉さん……何でもないよ」
素っ気なく返せば、姉はため息を吐く。
「そう?それなら良いんだけど……」
「……姉さん」
「何?」
「お嬢様と戦人様は、本当に従兄弟同士なだけなの?」
「嘉音くんが心配しているようなことは何もないわ。ただ……」
紗音が言いよどむ。先を促すと、言いづらそうに彼女は続けた。
「戦人様が右代宮家を出て行ったとき、お嬢様の……ジェシカ・ベアトリーチェ様の魔法を否定されてしまったの」
紗音は語った。
真里亞と朱志香が魔法同盟を組んだとき、戦人もその同盟に入っていたこと。
その同盟は互いの妄想を真実だと保証することで幸せな魔法とするものだったこと。
そして、彼が右代宮家を出て行くとき、朱志香に「幸せになれる魔法など無い」と宣告してしまったこと。
彼が母方の人間だけを家族としたことで、朱志香達の幸せな魔法の世界が崩壊してしまったこと。
「……姉さん。どうしてお嬢様はそんなやつのことを許していられるの。どうしてご自分まで否定されて、そんな酷いやつが帰ってくることを喜べるの!?」
「多分ね……これは私の想像だけど、お嬢様は全て許すことが魔法だと信じていらっしゃるんじゃないかな。だって……愛がなければ、その人への感情は、無限に悪化してしまうもの。愛がなければ、真実の側面しか視えないもの」
「おかしい……そんなの、おかしいよ!このままじゃ、お嬢様はずっと傷ついたままじゃないか!」
「お嬢様はそれだけ、許してしまったのかもしれないね。それか、もう一度幸せな魔法はあったと信じて貰うことを願っていらっしゃるのかしら……」
許せない。
幸せな魔法を否定したそいつが。
右代宮家を捨てたそいつが。
朱志香を傷つけて、裏切った戦人が!
どうしても許せない。どれだけ愛があったとしても、起こってしまった出来事は取り消せない。
魔法を否定したのは、罪だ。
右代宮家を捨てたのも、罪だ。
だが、朱志香を傷つけて、裏切って、のうのうとしていることが、一番の罪だ!
償わずにのうのうと戻ってくるなど、朱志香が許しても、真里亞が許しても、紗音が許しても、嘉音にはどうしても許すことが出来ない。
罪人には裁きを。
朱志香と戦人の関係を聞いて、燻っていた憎悪の炎が、一瞬にして燃え上がる。
目の前に具現化できるとしたら、きっとそれはこの六軒島を焼き尽くし、それでも足りずに海を渡って右代宮分家の全てを焼き尽くしてもまだ足りないだろう。
「許せない……殺してやる……右代宮戦人!」
そのまま使用人室を走り去った嘉音の背中に、紗音の悲痛な叫びが届く。
「嘉音くん、何する気なの!?」
その悲痛さに一度だけ立ち止まる。
「お嬢様……朱志香と僕が、幸せに……黄金郷に行けるようにするだけだよ。僕はお嬢様が好きだ。朱志香の幸せを望んで何が悪い!?」
「待ちなさい!嘉音くん!」
もう一度走り出す。呼び止められても、今度は立ち止まらなかった。
そうだ。
これで当日、この島に来るのは18人。
ベアトリーチェの碑文で犠牲になるのは、13人。
譲治も紗音も、真里亞も、戦人も、いずれは犠牲になるだろう。
さあ、儀式の始まりだ……!
1986年10月4日
「戦人のやつ、面白いんだぜ?後で嘉音くんにも聞かせてやるよ」
昼間、薔薇庭園で宣言したとおり、その夜朱志香は高速艇での出来事を事細かに話してくれた。
「う~!落ちる~、落ちる~!う~!」
真里亞が茶化すようにはやし立てる。
「朱志香ぁ~……いつかお前の弱点見つけて乳揉みしだいてやるからなぁ~!」
地をはうような戦人の声に、譲治も紗音も真里亞も、そして朱志香も笑う。
「あっははは、見つけられたら考えてやるよ!」
明るい朱志香の声。
--お嬢様は……傷つけられたことさえも、裏切りさえも許せるというのですか!?
心の内に燃えさかる炎は、決して消えることはない。
朱志香に失礼しました、と一礼して嘉音はゲストハウスのいとこ部屋を出る。紗音は譲治と連れだって、薔薇庭園の東屋へ行ったようだ。
こっそりと後をつける。
「私に……その未来を見せてくださいますか」
「約束するよ……紗代」
「譲治さん……」
「紗代……」
譲治の求婚を受け入れた以上、紗音は家具ではいられないだろう。譲治の妻として、人間になってしまうだろう。
なぜならそれは、幸せの魔法で作り出された黄金郷だから。
黄金郷に至った紗音は、人間になれるのだ。
--姉さんは、バカだ。でも……バカだから……人間になれるんだ。
いや、本当の馬鹿者は嘉音だったのかもしれない。
文化祭の夜に想いを告げられず、人間になれなかったのだから。
手に手を取り合ってゲストハウスに向かう二人を見送って、嘉音は東屋に入った。軽く頭を振って、胸にわき起こる仄暗い、新たな憎悪の火種を打ち消そうとする。けれど、一度起こった火種は消えず、前からの炎と混ざり合って、暗く暗く燃え上がった。
紗音が妬ましい。
1人だけ人間になろうとしている紗音が憎い。
譲治の愛を受け入れて、幸せになろうとしている彼女が憎い。
恋のおまじないと言って朱志香への報われない恋心を煽った彼女が、憎い……!
--僕だって……。
「僕だって……お嬢様のことが好きだった……!お嬢様……!」
それでも、金蔵亡き今、朱志香が当主になるのは時間の問題。
そうなればきっと、嘉音が彼女と結ばれることはないだろう。
--ならば、僕がその障害を取り除きますから……あなたを鳥籠から出しますから……!だから、お嬢様……!
「僕を愛してください……お嬢様……朱志香様ぁぁぁぁぁぁぁ!」
雷鳴が轟き、ゲストハウスにいるはずの朱志香にその言葉は届くはずはない。
けれど、嘉音……家具であった少年は声を限りに泣き叫んだ。
--あなたを黄金郷に連れ去ったそのときは、僕だけを見てください……!
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