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ここは「花待館」の別館となっています。非公式で「うみねこのなく頃に」「テイルズオブエクシリア」「ファイナルファンタジー(13・零式)」「刀剣乱舞」の二次創作SSを掲載しています。
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こんばんは。

先月の燭歌結婚式にインスピレーションを刺激されまして、至極健全なお話が出来上がりました。

ある朝の話

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鳥のさえずりが聞こえる。目を開ければ障子越しに朝の光が飛び込んでくる。
「うぅん、やっぱり早いなぁ」
燭台切光忠は、もっと夜が長ければいいのに、と思う自分に苦笑して、隣でまだ微睡みの中にいる歌仙兼定をうっとりと見つめた。

  ☆

燭台切と歌仙はいわゆる恋仲というやつである。燭台切がこの本丸に降り立ったとき、審神者のそばで迎えてくれたのが歌仙だった。顔見知りだったから世話を焼こうとしてかわされて、指の間をすり抜ける水のように逃げて行く歌仙に恋をしたと気づいたのはいつだったか。愛していると自覚してしまえば迷う暇もなく、歌仙に想いをぶつけに行った。彼は初期刀だ。この本丸の刀は大抵歌仙が迎えていて、人見知りなりに世話をしている。美しい歌仙に世話を焼かれれば、大抵の刀剣男士は彼になつく。そこから懸想をする者がいないとも限らないからだ。さて、果たして歌仙は燭台切の想いを受け入れたかと言えば、そういうわけでもなかった。
『すまない、まだ……』
そんな曖昧な言葉で一度は恋仲になるのを断られ、けれどもそのひと月後に驚くべきことに今度は歌仙から想いを打ち明けられた。
『断っておいて虫が良いと思うだろうけれど、……君のことが好き、だよ』
よくよく聞けば、一度断ったのはすぐに答えが出せず、また審神者に知れたらどうなるかがわからなかったからだという。それを誰にも内緒で受け入れる気にになったのは大きな進歩だった。ありがとうと二つ返事で頷いて恋仲になったのが、およそ半年前。褥をともにするようになったのは春先の珍しくなごり雪の降った夜からだった。それからずっと、燭台切は夜の短さを嘆いている。
「ん……」
まだ夢の国にいる歌仙が睫毛を震わせる。ゆっくりと開いた瞼の下から、翡翠の色をした瞳が現れる。
「おはよう、歌仙くん」
ほんのり色づいた唇が弧を描く。
「おはよう、光忠」
「今日は非番だし、まだ寝てる?」
「起きるよ。今日はデートをする約束じゃないか」
眠たげで穏やかな微笑みと一緒に紡がれた言葉に、燭台切も微笑む。
「そうだね、そうだった。一緒にお弁当も作るんだものね」
じゃあ起きてしまおうか、と身体を起こした歌仙の唇に、そっと己のそれを重ねた。
「光忠?」
「おはようのキス。どうしてもしてみたくて」
「まったく」
歌仙が苦笑して、燭台切の頬を手のひらで包む。
「僕はこういうの、あんまり得意じゃないんだよ?」
それからきれいな顔が近づいて、ちゅっと音を立てて唇が重なった。

 ☆

布団を片付けて、内番着を身に纏う。昨夜共寝をした熱がまだ身体の奥深くで燻ぶっているようで、なんだか照れくさい。くふ、と笑っていると、歌仙が不思議そうにこちらを覗き込んでくる。
「どうしたんだい?」
「いや、昨日も歌仙くん、可愛かったな、って」
緩んだ表情のままそう返せば、歌仙の頬がぼっと赤くなった。
「君は、また」
そういうことを、ともにょもにょと口ごもるさまがやはり愛らしい。するりと頬を撫でて、耳元に唇を寄せる。
「今日の夜も、一緒に寝よう」
「……うん」
「ありがとう。約束だよ」
「ああ。約束だ」
ジャージの前をしめて、軽く髪形を直す。するりと離れていった歌仙は前髪を上げてきゅっと飾り紐で結んでいる。
「準備できたかい?」
「できたよ。……行こうか、食事当番ももう落ち着いている頃だろう」
何を隠そう今日は非番だ。この本丸の刀剣男士は全員多かれ少なかれ料理ができるのだが、中でも料理の技術が抜きんでている二振りが非番ということを鑑みた審神者が簡単なレトルト食品を用意していた。だから今日の食事当番の主な仕事は大鍋に湯を沸かすことと、皿洗いである。壁に掛けてある時計の時刻を見るに、そろそろ朝餉の盛り付けも終わっていることだろう。弁当を作るには短い時間ではあるけれど、握り飯に卵焼き、漬物くらいなら用意できるだろう。
今一度姿見を見て、服装と髪形を確認する。今日はいつもの戦闘服ではなく、縹色の着物だ。デートの先は万屋の先にある博物館だから、戦闘服である必要はないし、大層に着飾ってゆく必要もない。……まぁ、博物館には刀剣男士と同じように実体化された付喪神が自ら案内を買って出てくれているから、あまり粗末な格好をしていっては格好がつかないのだけれども。そういうわけで、今日は歌仙も薄藤色の撫子柄の着物である。それをいつもの紅白の襷で絡げて、いつも厨に立つときに使っている前掛けをしめて、燭台切のほうを見て微笑むのだ。
「いこう」
「うん、いこうか」

  ☆

 厨につくと、パンの焼ける匂いと、シチューの匂いが漂ってくる。どうやら今日の朝餉はパンとシチューらしい。扉を開ければ当番の三日月宗近と鶯丸がこちらを向いた。
「やあ、おはよう」
「おはよう」
のんびりとレトルトパウチからクリームシチューを皿に空けながら、二振りがのんびりと答える。
「おお、おはよう」
「おはよう。今日は主殿が用意してくれたパンとシチューだぞ」
「ああ、クリームシチューなんだね」
そう返した歌仙が目を細める。
「して、お主らはなぜここに? 今日は当番も免除だろう」
でぇとだと聞いたぞ、と三日月が首をかしげる。それに二人は目を見合わせて、少し照れくさくてごまかすように笑った。
「ちょっとね、お弁当を作りたくて」
「おお、そうであったか。ではこれを持ってゆくだけだからな、存分につくるとよい。……ああ、味見ならばいつでもこの三日月宗近、承るぞ」
「今日は味見をするようなもの、作らないよ」
……今度は歌仙と二人で食べるためだけに、凝った料理を作るのもいいな、と思ったことは内緒にする。
「ふむ。じじいの出番はないと見える。寂しいがまた今度、だな」
ではな、と三日月と鶯丸が去っていくのを見送って、二人は櫃を開ける。昨夜こっそり多めに炊いておいた白飯がちょうど二人分残っていた。
「では、やってしまおうか」
歌仙が盥に水を用意して、手を濡らす。燭台切が小ぶりの梅干を用意すれば、小ぶりな握り飯が四つほど出来上がった。
「じゃあ僕は、漬物でも切ろうかな」
「卵焼きなら任せてくれ」
歌仙が好きなのは和食だ。だからどうしても和食を任せてしまいがちで、今日のおやつは茶屋でフルーツパフェでもおごろうかと考えながら燭台切はぬか床を引っ張り出した。中からきゅうりの漬物を出して、水道の水で綺麗に洗う。糠が洗い落ちたらまな板の上に載せて、ひたすら切ってゆく。本当は二切れか三切れでよいのだが、全部切っておけばつまみ食いが大好きな刀たちの胃袋に綺麗に収まるだろう。作り終わったものを全部漆塗りの小さな弁当箱に入れて、茜色の風呂敷で包む。
「さぁ、できた。支度をしてしまおう」
歌仙の号令で、弁当箱をもって一度部屋へと取って返す。小さな手提げに弁当箱と財布、通信用端末に移動用の電子札を入れて、今度は食堂へと足を進める。
「ねぇ、光忠」
「うん?」
「楽しみだね」
「うん、楽しみだね」
ふわりと笑った歌仙に胸の奥が温かくなる。指を絡めて、きゅっと柔らかく握る。
「どうしたんだい?」
「幸せだなぁと思って」
なんだいそれ、と彼が笑うのに合わせて、そっと唇を唇で塞ぐ。
「好きだよ、歌仙くん」
ある朝の、一幕であった。
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