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ここは「花待館」の別館となっています。非公式で「うみねこのなく頃に」「テイルズオブエクシリア」「ファイナルファンタジー(13・零式)」「刀剣乱舞」の二次創作SSを掲載しています。
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先月「そらそらぶるー」のそら様とお茶をしたときにいただいたリクエストで「鳥籠破り」の前夜話です。駄目だこの嘉音……早く何とかしないと。
そんなわけで注意書きです。
・びっくりするほど暗いです。
・嘉音がヤンデレすぎてお嬢様が眠れない。
・さりげなく朱志香=ベアトリーチェ説です。紅崎自身の推理に基づいて話を展開させて頂きました。
リクエスト品なのにこんなので本当に申し訳ないです……。
そしてリクエスト本当にありがとうございました!
では、どうぞ。

風切羽が揃う夜



拍手[2回]


彼女と初めて出会ったとき、何処までも明るい少女だと思った。
優しくて美しい、彼を人間に変えてくれる少女だと思った。
けれど、彼女は何処までも不器用で、自分の気持ちを伝える事に慣れなかった。
その様さえも可愛らしくて、彼は気付いた。
家具である嘉音が右代宮朱志香に対して抱いている感情は、家具の身には許されざる感情……恋だと。

風切羽が揃う夜

その日、嘉音は朱志香の文化祭に招かれた。
朱志香は何かと彼が学校に来たときから世話を焼いてくれて、家具としての立場など何の役にも立たなかった。彼女が彼の世話を焼くのはこれが初めてではない。屋敷に勤めるようになってから、朱志香は嘉音が使用人の勤めをちゃんと果たせるように何かと助けてくれた。頬を僅かに染めた、何処か照れたような微笑みで嘉音に色々な事を教えてくれた。
今だって朱志香はペットボトルを抱えて嘉音の事を呼ぶ。
「嘉音くん、その……飲み物買ってきたんだけどさ、えっと……緑茶と紅茶、どっちがいい?」
「……朱志香様がくださる物ならどちらでも」
「そ、そう言われると困るんだけど……じゃあ、はい」
渡されたペットボトルの中身は紅茶。いつも飲んでいるものの方がいいだろうという配慮だろうか。
「ありがとうございます」
礼を言えば朱志香はまた照れたように笑う。
嗚呼、だからまた、と嘉音は思う。
(また、お嬢様も僕の事が好きだと勘違いしてしまう……そんな事、あるはずがないのに)
自分は家具で、朱志香は人間。二人を分け隔てる溝は深く、広い。それなのに、その溝がなくなったような錯覚に陥ってしまう。
一生叶うはずのない恋が、叶っていると勘違いしてしまう。
勘違い。
そう、今の二人は勘違いの上に成り立った仮初めの恋人同士なのだ。
朱志香が嘉音に優しく接するのも嘉音が人間だと勘違いしているからで、嘉音がその優しさに甘んじるのもその間だけは人間だと勘違いしていられるから。
時折朱志香の横顔が物憂げなのも本当は嘉音が家具だからだと分かっているからだろう。
だから、早く彼女の誤解を解かなくてはならない。そして、その上で家具をやめなければならない。
朱志香さえそれを承知してくれるならば、きっと彼は人間になれる。
彼は彼女との愛を勝ち取る事によって永遠の愛を得て、家具をやめる事が出来る。
(僕はやっぱり人間になりたい。朱志香が僕の事を愛してくれているならば、これからの人生を朱志香と一緒に歩みたい)
口に含んだ紅茶のレモンの酸味を決意と共に呑み込んだ。

その晩、バラ庭園で朱志香を見つけた。
一人彼女自身を納得させるために空元気を振りまいて、それでも落胆するその背中が寂しげで、抱きしめてやりたい衝動に駆られる。
けれどそれは家具には許されざる行為。
嘉音と朱志香が本当の恋人同士だったならば寂しげな彼女の肩を抱いて、安心して眠れるまで口付けを交わすのに、それは仮初めという現実に阻まれて叶わない。
だから声を掛ける。
「お嬢様」
「なんだ……嘉音くんかよ。幽霊かと思ってびっくりしちまったぜ……」
「驚かせてしまって申し訳ありません」
「う、ううん、いいんだ……」
二人の間に沈黙が降りる。朱志香と話すときの沈黙はいつまで経っても慣れない。沈黙の破り方を彼は知らない。だから気まずくて気まずくて、何か話題を探そうと試みる。
「あ、あの……お歌、お上手でした」
「あ……あはは、そうかよ……照れるぜ……」
頬を染めてはにかむ彼女が可愛らしい。
この笑顔を一瞬でも消してしまうのが怖い。
けれども、二人が永遠に結ばれるためには必要な事なのだ。
だから、言葉にする。
「僕には歌は歌えません……家具ですから」
「……その、家具って口癖、やめようぜ」
案の定朱志香の笑顔は泡のように消え、敢えて家具と口にした嘉音を諫めるような表情になる。
家具。
それは確かに源次の言うとおり使用人の心得を説くものである。けれどももう一つの意味がある。
右代宮家に勤め始めた当初から聞かされ続けたこと。
結ばれてはならない者に、結ばれる事のない者に恋する者の意味である。
結ばれてはならない者。
主人と使用人。
それを人間と家具とはよく言ったものだ。
家具は心を持ってはならない。人間は家具に恋などしない。
使用人は主人に恋などしてはならないのだ。相手が家の将来を担う者であれば尚更だ。主人も自分の立場を理解して使用人に恋など出来ないだろう。
そういう意味では結ばれてはならない二人が互いに恋する時、二人は家具なのだろう。
そう、紗音や譲治だって例外ではない。嘉音が朱志香と共に人生を歩むのならば、譲治が当主になるのだから、紗音とは結ばれないはずだ。
嘉音も朱志香も、二人が愛し合うのならば二人共が家具なのだ。ただ立場の違いで朱志香は人間で居られるだけで。
「……いいえ、僕は、家具です」
「だからっ……君は、人間だよ……」
泣きそうな目をして、朱志香は嘉音を見つめる。
「今は……まだ家具なんです」
「嘉音くんは、最初から家具じゃないよ……」
彼女は俯いて、どうしたらいいのと自問する。どうしたら信じてくれるのと小さな声で自問する。
ふと、その背中に蝶が留まったようにみえた。黄金に輝く蝶は朱志香に寄り添い、彼女を慰めるかのように羽をやすめる。夜に蝶が飛ぶ筈などないと瞬きすれば蝶はたちまちのうちに消えてなくなった。
「家具だって人生を諦めてたら……私は何の魔法も掛けられないよ……」
魔法という言葉に引っ掛かって、問いかける。
「お嬢様」
「……?」
「お嬢様は……魔法が使えるのですか?」
「信じてくれれば……私は、ベアトリーチェだから……。でも、信じてくれなかったら、私が否定されてしまったら……使えないよ」
その言い回しになおも嘉音は引っ掛かる。
(お嬢様ががベアトリーチェ?)
彼はコートのポケットに手を突っ込んで蝶のブローチに触れる。紗音がベアトリーチェにもらったという恋愛成就のお守りだ。朱志香がベアトリーチェだというならば、このブローチは朱志香の物か。
だが、紗音はベアトリーチェの、朱志香の魔法を信じている。嘉音だって初耳なだけで否定した事はない。
朱志香はもしかして否定をされた事があるのだろうか。
「……僕は……否定などしません」
長い沈黙の後、俯いたまま彼女は言葉を紡いだ。
「……不安なんだ」
「え……?」
「前にも……否定しないって、信じるって言って……私は裏切られたから……そんなの」
そこで朱志香は一旦言葉を切り、首を横に振った。
「私が信じなきゃ駄目なのに……信じてもずっと裏切られて……」
「お嬢様……」
「今度こそ信じてもいいの……?二人が信じ合えるなら……もう一度、魔法を使っても、いいの……?」
彼女は誰の事を言っているのだろうか。今朱志香の目の前にいるのは紛れもなく嘉音なのに、彼女が語りかけているのは嘉音ではないかのよう。まるで彼を通して他の人間に語りかけているかのような。
そう、例えば姉から聞いた右代宮戦人といったこの場にいない人物のような。
姉は言っていた。
朱志香の初恋は別の人間だと。
その人間が右代宮戦人と言う事はあり得る。
しかし彼は6年前から屋敷に来ていないと言うし、6年も待ち続けているようなものなのだろうか。
「朱志香様」
その細い肩を掴んで尋ねる。
「……?」
「あなたは……僕の事を本当に愛してくれますか?」
「え……?」
戸惑う彼女の表情に嘉音まで戸惑う。その戸惑いを抑えてさらに問いかける。
「僕はあなたの魔法を否定などしません。……けれどそれはあなたが僕を信じてくれたらの話です」
「な、何……を……」
「……朱志香様……あなたが僕に重ねているのは……戦人様ですか?」
朱志香が息を呑んだ。それが切なくて、嘉音は畳みかける。
「あなたが僕に掛けようとした魔法は、僕を人間にしてくれる魔法ですか?」
「そ、そうだけど……その……」
「……僕は、嘉音としてあなたに愛されてはいないのですか?」
「ぁ……それ、は……っ」
朱志香の目に涙が滲む。嘉音はここまで執拗に問いつめた事なんてなかったから、おそらく怯えているのだろう。
けれども、聞いておかなければならない。彼女が彼の腕を振り解いて走り去る前に。
「あなたが愛しているのは……本当は戦人様なのですね?」
「ご、ごめ……なさ……っ」
とうとう一筋、朱志香の頬に涙が伝う。怯えて涙を流す彼女がこんな状況でも愛おしくて、嘉音はその身体を抱きしめた。
「家具って言ってるときの嘉音くん……凄く、辛そうで……っ、嘉音くんが……人間になれる魔法、掛ければ……辛く、なくなるかな……って……」
涙声で紡がれた言葉にはただただ嘉音の幸せを祈る朱志香の心が込められていた。けれど、嘉音の一番欲しい言葉は与えられない。
「……それだけ、なのですか?」
「……ん」
彼女が頷く。嘉音が欲しい言葉を、朱志香は持っていない。
嘉音が欲しいのは朱志香の愛であって、幸せを祈る心ではない。
それなのに彼女はその汚れなき純真な愛を他の男に捧げてしまった。それも嘉音が会った事も声を聞いた事もない男に。
「朱志香様……僕は、嘉音です。戦人様ではありません」
「……っ」
「僕が欲しいのはあなたの幸せの魔法ではなく、あなたの愛の魔法です」
「……どういう……意味……?」
怪訝な表情の朱志香を無言で抱き上げて、彼は歩き出した。
「や、やだっ、降ろして……降ろして、嘉音くんっ!」
彼女の抵抗をさらにきつく抱きしめる事で封じて、ただただ無言で歩く。
朱志香の部屋に着くと彼女をベッドに横たえて鍵を閉めた。
「嘉音……くん……!?」
もう止める事は出来ない。誰にも、嘉音自身にさえも止められない恋情の激流が彼の身体を駆けめぐる。
「好きです、朱志香様……あなたの事を愛しています」
「嘉音くん……」
朱志香に覆い被さると、ベッドがギシリと音を立てた。
「あなたが悪いんです……僕は朱志香様が好きなのに、あなたが僕を愛してくれないから……」
「や……ちが……私、は……」
「今からでもいいんです……あなたが僕を愛してくれさえすれば、僕は人間になれるんです」
「私……私は……」
今や止まる事を忘れたかのように涙が朱志香の頬を伝う。それさえも拒絶に見えて、嘉音は彼女の頬を両手で包んで唇を重ねた。
「んぅ……っ、や、何、するの……!?」
ネクタイの結び目に手を掛けると、怯えきった彼女は抵抗を試みる。それが切なくて悲しくて、耳元で囁いた。
「朱志香様が僕を僕以外と間違えることのないように、しっかり教えて差し上げます」
「い、いや……っ!」
暴れる彼女を出したこともないような強い力で押さえつけて、嘉音は朱志香の首筋に口づけた。
「やだっ、やめて、嘉音くん……っ!いや、いやぁぁぁぁぁぁっ!」
泣き叫ぶ朱志香の悲痛な声が、嘉音には何よりも辛かった。

彼女と初めて出会ったとき、何処までも明るい少女だと思った。
優しくて美しい、彼を人間に変えてくれる少女だと思った。
けれど、彼女は何処までも不器用で、自分の気持ちを伝える事に慣れなかった。
その様さえも可愛らしくて、彼は気付いた。
家具である嘉音が右代宮朱志香に対して抱いている感情は、家具の身には許されざる感情、すなわち恋だと。
されど彼女は恋してはならない人だった。
今となっては朱志香が彼を愛していたのかどうかなどわからない。
ただ、何も分からずに恋情の奔流に呑まれて己の感情をぶつけることしか嘉音にはできなかった。
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