ここは「花待館」の別館となっています。非公式で「うみねこのなく頃に」「テイルズオブエクシリア」「ファイナルファンタジー(13・零式)」「刀剣乱舞」の二次創作SSを掲載しています。
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チョコレートパフェの話
ぐうぅ、と音が鳴った。言わずもがな、ミラのお腹からである。ぱたんと本を閉じた彼女はお腹を押さえてぽつりとつぶやいた。
「ふむ……小腹がすいたな」
時刻は夜半過ぎ。食事をとるには遅すぎるが、ミラのお腹はとっくの昔に夕食のマーボーカレーを消化してしまったらしい。これが普通の人間の女性であったらジュードはホットミルクなどを入れて胃を宥めてもらうのだが、ミラは精霊である。多分食べても体型に変化はない、だろう。ジュードは精霊ではないので詳しいことはミラ本人に聞かないとよく分からないが。
「ミラ、朝まで我慢できる?」
そうジュードが尋ねると、ミラは難しい顔をして首をひねった。
「む……出来たらよいのだが……」
ミラの胃袋が底なしなのはジュード自身がよく知っている。何を作ってもぺろりと平らげてくれるのも知っている。ついでに、どんな時間に食べたところで胃もたれなど起こさないのもよく知っている。
「分かった。ちょっと待ってて」
そう言いおいてキッチンに立つ。どうせ遅いおやつになるのだし、甘くて美味しいものがいいだろう。ついでにあまり食べ慣れないもの。
「チョコパフェがいいかな」
エプロンを付けながらジュードは一人呟いた。
大ぶりなグラスにお菓子やフルーツなどの材料をぽんぽんと放り込んで、その上に生クリームを絞り出す。最後にチョコレートソースを掛けてさくらんぼを乗せればチョコレートパフェの出来上がりである。
「ミラ、できたよ」
ミラの前にグラスを置くと、ミラはたちまち目を輝かせる。まるで欲しいものを買ってもらった時の小さな子供のようで可愛らしい。
「うむ!感謝するぞ、ジュード!」
それからミラはいただきます、と手を合わせてからパフェを一匙掬って口に運んだ。
「うむ、美味いぞジュード!やはり君の作る食事は美味い!」
そう褒められるとジュードとしても悪い気はしない。いや、むしろ嬉しい。誰に褒められても嬉しいが、ミラに褒められるのはやはり格別に嬉しい。それはきっと、ミラが特別だからだろう。
「そう言ってもらえると嬉しいよ、ミラ」
そう照れている間にミラはぺろりとパフェを平らげて、ごちそうさま、と微笑んだ。
「ずっと君とこうしていられたらいいのにな」
ぽつりとミラが呟いた言葉に、不意にジュードの胸が締め付けられた。
「人間の夫婦のように……ずっと一緒にいられたらいいのにな」
「ミラ……」
ミラは少しだけ寂しそうに笑って、ジュードの肩にもたれ掛った。
「……分かっているよ。マクスウェルたるもの、私用で断界殻のマナを使って実体化するなどもってのほかだ。只でさえマナは足りないのだからな。……だが、ジュード」
長い金髪がさらさらと揺れる。金色の頭がすりすりとジュードの肩にこすり付けられる。
「いつか世界にマナが満ちた時……私はまた、こうして実体化できるようになるのだろう。そうしたら、今度こそ君と一緒にいられる。あの時の……カラハ・シャールでの約束を守ることができる」
うん、とジュードは頷いた。世界にマナが満ちるのはいつになるか、源霊匣を研究すると決めたばかりの彼にはまだわからない。……再びミラと逢えるかどうか、分からない。ジュードの命が続くうちにマナが満ちることを祈るしかない。
それでも、ミラは言った。
今度こそジュードと一緒にいられると。
一緒にいるという約束を守ることができると。
それはそれは、幸せそうな表情で。
「ジュードの料理を、ジュードと一緒に、食べることができる。……精霊の主ということを抜きにして、ただのミラとして、これ以上幸せなことはない」
寂しさなんて感じさせない表情で、ミラはそう言うのだ。
ミラの肩をそっと抱いて、ジュードは答えた。
「……ねえ、ミラ。僕が……ミラの足の治療をするためにル・ロンドに帰るときに言ったこと……ミラの身の回りのことも、料理も『僕がずっとやってあげる』って言ったこと……あれ、今でもそう思ってるから」
ミラが機嫌のよい猫のように目を細める。
「ああ、覚えているよ。……君はずっと、その言葉を守ってくれた。君の行動が、それを示してくれている。ありがとう、ジュード」
「ミラとまた逢えたら、今度こそ、ずっと……ずっとミラと一緒にいるから。……ずっと、待ってる」
「ああ。……そうしたら、ジュード。またチョコレートパフェが食べたい。……また、沢山思い出が作りたい」
「うん……なんだって作ってあげる」
世界にマナが満ちて、精霊たちが人間界と精霊界を何不自由なく行き来できるようになったなら、……パフェのチョコレートソースと生クリームが混ざるように、もう一度ミラと共に生きることができるのなら、それほど嬉しいことはない。
本当に精霊の主になってしまうミラが、ジュードと一緒にいることを望んでくれている。それに応える道はただ一つ、源霊匣を完成させて精霊がこれ以上犠牲にならない世界を作ることだけだ。
絶対に完成させる。
「約束するよ。……だから」
だから、待っていて。
ジュードのその囁きに、ミラが心底幸せそうに微笑んだ。
おわり
ぐうぅ、と音が鳴った。言わずもがな、ミラのお腹からである。ぱたんと本を閉じた彼女はお腹を押さえてぽつりとつぶやいた。
「ふむ……小腹がすいたな」
時刻は夜半過ぎ。食事をとるには遅すぎるが、ミラのお腹はとっくの昔に夕食のマーボーカレーを消化してしまったらしい。これが普通の人間の女性であったらジュードはホットミルクなどを入れて胃を宥めてもらうのだが、ミラは精霊である。多分食べても体型に変化はない、だろう。ジュードは精霊ではないので詳しいことはミラ本人に聞かないとよく分からないが。
「ミラ、朝まで我慢できる?」
そうジュードが尋ねると、ミラは難しい顔をして首をひねった。
「む……出来たらよいのだが……」
ミラの胃袋が底なしなのはジュード自身がよく知っている。何を作ってもぺろりと平らげてくれるのも知っている。ついでに、どんな時間に食べたところで胃もたれなど起こさないのもよく知っている。
「分かった。ちょっと待ってて」
そう言いおいてキッチンに立つ。どうせ遅いおやつになるのだし、甘くて美味しいものがいいだろう。ついでにあまり食べ慣れないもの。
「チョコパフェがいいかな」
エプロンを付けながらジュードは一人呟いた。
大ぶりなグラスにお菓子やフルーツなどの材料をぽんぽんと放り込んで、その上に生クリームを絞り出す。最後にチョコレートソースを掛けてさくらんぼを乗せればチョコレートパフェの出来上がりである。
「ミラ、できたよ」
ミラの前にグラスを置くと、ミラはたちまち目を輝かせる。まるで欲しいものを買ってもらった時の小さな子供のようで可愛らしい。
「うむ!感謝するぞ、ジュード!」
それからミラはいただきます、と手を合わせてからパフェを一匙掬って口に運んだ。
「うむ、美味いぞジュード!やはり君の作る食事は美味い!」
そう褒められるとジュードとしても悪い気はしない。いや、むしろ嬉しい。誰に褒められても嬉しいが、ミラに褒められるのはやはり格別に嬉しい。それはきっと、ミラが特別だからだろう。
「そう言ってもらえると嬉しいよ、ミラ」
そう照れている間にミラはぺろりとパフェを平らげて、ごちそうさま、と微笑んだ。
「ずっと君とこうしていられたらいいのにな」
ぽつりとミラが呟いた言葉に、不意にジュードの胸が締め付けられた。
「人間の夫婦のように……ずっと一緒にいられたらいいのにな」
「ミラ……」
ミラは少しだけ寂しそうに笑って、ジュードの肩にもたれ掛った。
「……分かっているよ。マクスウェルたるもの、私用で断界殻のマナを使って実体化するなどもってのほかだ。只でさえマナは足りないのだからな。……だが、ジュード」
長い金髪がさらさらと揺れる。金色の頭がすりすりとジュードの肩にこすり付けられる。
「いつか世界にマナが満ちた時……私はまた、こうして実体化できるようになるのだろう。そうしたら、今度こそ君と一緒にいられる。あの時の……カラハ・シャールでの約束を守ることができる」
うん、とジュードは頷いた。世界にマナが満ちるのはいつになるか、源霊匣を研究すると決めたばかりの彼にはまだわからない。……再びミラと逢えるかどうか、分からない。ジュードの命が続くうちにマナが満ちることを祈るしかない。
それでも、ミラは言った。
今度こそジュードと一緒にいられると。
一緒にいるという約束を守ることができると。
それはそれは、幸せそうな表情で。
「ジュードの料理を、ジュードと一緒に、食べることができる。……精霊の主ということを抜きにして、ただのミラとして、これ以上幸せなことはない」
寂しさなんて感じさせない表情で、ミラはそう言うのだ。
ミラの肩をそっと抱いて、ジュードは答えた。
「……ねえ、ミラ。僕が……ミラの足の治療をするためにル・ロンドに帰るときに言ったこと……ミラの身の回りのことも、料理も『僕がずっとやってあげる』って言ったこと……あれ、今でもそう思ってるから」
ミラが機嫌のよい猫のように目を細める。
「ああ、覚えているよ。……君はずっと、その言葉を守ってくれた。君の行動が、それを示してくれている。ありがとう、ジュード」
「ミラとまた逢えたら、今度こそ、ずっと……ずっとミラと一緒にいるから。……ずっと、待ってる」
「ああ。……そうしたら、ジュード。またチョコレートパフェが食べたい。……また、沢山思い出が作りたい」
「うん……なんだって作ってあげる」
世界にマナが満ちて、精霊たちが人間界と精霊界を何不自由なく行き来できるようになったなら、……パフェのチョコレートソースと生クリームが混ざるように、もう一度ミラと共に生きることができるのなら、それほど嬉しいことはない。
本当に精霊の主になってしまうミラが、ジュードと一緒にいることを望んでくれている。それに応える道はただ一つ、源霊匣を完成させて精霊がこれ以上犠牲にならない世界を作ることだけだ。
絶対に完成させる。
「約束するよ。……だから」
だから、待っていて。
ジュードのその囁きに、ミラが心底幸せそうに微笑んだ。
おわり
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