ここは「花待館」の別館となっています。非公式で「うみねこのなく頃に」「テイルズオブエクシリア」「ファイナルファンタジー(13・零式)」「刀剣乱舞」の二次創作SSを掲載しています。
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コミュニケーターの時刻表示をふと見ると、今日は2月14日であった。所謂バレンタインデーである。
「……バレンタインデー、か」
誰にともなく呟いて、ライトニングは空を仰いだ。
「バレンタイン……か……」
口移しのチョコレート
朝からなんとなく、視線を感じるとは思っていた。ホープがそわそわしているとは思っていた。髪の毛なんて普段は起きっぱなしで寝癖がついたままのくせに、今日は妙にまめまめしく水で濡らして整えようと躍起になっていた。普段は最年少なのを良いことに膝枕してくださいとか一緒に寝てくださいなどと散々甘えてくるのが、何故か甘えてこない。むしろライトニングに世話を焼こうとする。
その謎が解けた気がした。
「チョコが、欲しいんだろうな……」
ライトニングとしてはため息をつかざるを得ない。ルシ一行がいるのはグラン=パルスはアルカキルティ大平原。ついでにミッション遂行中である。こんな状況下でチョコレート作りなどできようはずもない。材料も冷やす場所もない。ショップ端末で購入なら出来るが、足がつかないことを祈るばかりである。
と、腰の辺りに何かが抱き着いてきた。
「ライトさん」
「ホープか」
「はい」
抱き着いてきた何かはぎゅうぎゅうと腕の力を強くしながら返事した。
「どうした」
「本命チョコください」
ホープのあまりに直球を投げる物言いにライトニングはため息を吐く。
「……チョコをくれと主張するのはやめたのか」
「やめました。プリンの群れにファイガを唱えてたら悟りました」
「いつも避けろと言ってるだろ」
それはそうですけど、と何やらぶつぶつ言っているホープにライトニングは話の軌道修正を試みることにした。
「で、チョコが欲しいんだったか」
「本命チョコです」
打てば響くような返事にそうかと返す。腰に絡みついたままのホープの腕をやんわり外して、彼女は傍にあった端末に近づく。
「今日は材料も場所もない。買ったものでいいな」
一瞬ホープの表情が泣きそうに歪んだのは気のせいだと思うことにして、荷物にならない分量のチョコレートを購入する。ほら、と渡せば今度は不貞腐れたような表情で受け取った。
「ありがとうございます」
礼さえどこか不機嫌そうだ。仕方ないのでライトニングは機嫌を取ることにした。
「何が不満だ。言ってみろ」
「手作りがいいです」
やっぱりそうきたか、と彼女は三度ため息を吐いた。
「作ってやりたくても材料も場所もないんだ。全部終わったら作ってやるからこれで我慢してくれ」
拗ねた少年の気分はその一言で僅かに上昇したらしい。貰ったチョコレートを大事そうに抱きしめながら、まだ何か言いたいらしく緑色の瞳がライトニングの瞳をじっと見つめる。
「……どうした」
「あの」
白い頬が真っ赤に染まって、それでもなお緑の瞳はライトニングから離れない。
「な、なんだ……?」
「その……く、口移し……で……食べさせてください」
「……は?」
ライトニングは目の前の少年を凝視した。表情は真剣そのものである。ふざけている目の色ではない。
だが、彼は今、何と言ったか。
口移しで食べさせろと言わなかったか。
トンデモ発言をしたホープの唇が動く。一度言い切ったからか、全く迷いがない。
「ライトさんに口移しで食べさせて欲しいんです」
いいでしょう?と見つめられて、彼女は無意識に一歩後ずさった。
「お前、何を……」
「僕、ライトさんのこと、好きです。もう今すぐ結婚したいぐらい好きです。それはライトさんも知ってますよね?」
「あ、ああ……」
それは知っていた。むしろ、毎日言われている言葉である。ライトニングとホープの関係は所謂恋人というやつで、ホープが好きだというのと同じようにライトニングもホープが好きだ。日に日に本気で惹かれていく度合いが強くなっていくから、その分だけ彼女もホープに好きだと囁きかけている。
だが、初めて想いが通じた日に約束したのはずだ。
「今のお前とキス以上はしないと約束したはずだが?」
そう。手を繋いだり抱きしめたり、その程度のことはあの時点ですでに許していた。けれどもそれ以上はホープの年齢故にライトニングには進むことが躊躇われたのだ。犯罪になるとかそう言うことではなく、単純にホープが将来後悔しないための措置だった。が、そんな彼女の気も知らず、彼はこんなことをのたまった。
「口移しはキスに入るんですか?」
「入らないのか……?」
そんなバナナはおやつに入りますか、みたいな質問をするんじゃないとか、あんなものはディープキスの延長上だろうとか、そんな言葉が脳内を占めるが、言葉として出てきたのはたったそれだけだった。が、ホープはライトニングの胸にぱふんと顔を埋めると、絞り出すようにこう言った。
「朝……ヴァニラさんがファングさんに口移しで何か食べさせてたんです。だから大丈夫だと思います」
「……そうか」
本当に教育に悪いカップルだと自分以外の女性陣を恨めしく思いつつ、ライトニングは空を仰いだ。グラン=パルスの空は青い。たとえその辺でベヒーモスが走り回っていようとも。それを見ていたら、なんだかなし崩し的に口移しぐらいいいかと思えてきた。
「……ホープ」
「はい」
「その辺にプリンやらベヒーモスやらいる中でもいいのか?」
途端にホープが胸から顔を上げる。キラキラした瞳だ。
「もちろんです!」
ホープの手の中でチョコレートの包み紙がはがれてゆく。はい、と口の中にチョコレートが押し込まれる。
今日ぐらいはいいか、と流されたライトニングはホープにゆっくり顔を近づけた。
おわり
「……バレンタインデー、か」
誰にともなく呟いて、ライトニングは空を仰いだ。
「バレンタイン……か……」
口移しのチョコレート
朝からなんとなく、視線を感じるとは思っていた。ホープがそわそわしているとは思っていた。髪の毛なんて普段は起きっぱなしで寝癖がついたままのくせに、今日は妙にまめまめしく水で濡らして整えようと躍起になっていた。普段は最年少なのを良いことに膝枕してくださいとか一緒に寝てくださいなどと散々甘えてくるのが、何故か甘えてこない。むしろライトニングに世話を焼こうとする。
その謎が解けた気がした。
「チョコが、欲しいんだろうな……」
ライトニングとしてはため息をつかざるを得ない。ルシ一行がいるのはグラン=パルスはアルカキルティ大平原。ついでにミッション遂行中である。こんな状況下でチョコレート作りなどできようはずもない。材料も冷やす場所もない。ショップ端末で購入なら出来るが、足がつかないことを祈るばかりである。
と、腰の辺りに何かが抱き着いてきた。
「ライトさん」
「ホープか」
「はい」
抱き着いてきた何かはぎゅうぎゅうと腕の力を強くしながら返事した。
「どうした」
「本命チョコください」
ホープのあまりに直球を投げる物言いにライトニングはため息を吐く。
「……チョコをくれと主張するのはやめたのか」
「やめました。プリンの群れにファイガを唱えてたら悟りました」
「いつも避けろと言ってるだろ」
それはそうですけど、と何やらぶつぶつ言っているホープにライトニングは話の軌道修正を試みることにした。
「で、チョコが欲しいんだったか」
「本命チョコです」
打てば響くような返事にそうかと返す。腰に絡みついたままのホープの腕をやんわり外して、彼女は傍にあった端末に近づく。
「今日は材料も場所もない。買ったものでいいな」
一瞬ホープの表情が泣きそうに歪んだのは気のせいだと思うことにして、荷物にならない分量のチョコレートを購入する。ほら、と渡せば今度は不貞腐れたような表情で受け取った。
「ありがとうございます」
礼さえどこか不機嫌そうだ。仕方ないのでライトニングは機嫌を取ることにした。
「何が不満だ。言ってみろ」
「手作りがいいです」
やっぱりそうきたか、と彼女は三度ため息を吐いた。
「作ってやりたくても材料も場所もないんだ。全部終わったら作ってやるからこれで我慢してくれ」
拗ねた少年の気分はその一言で僅かに上昇したらしい。貰ったチョコレートを大事そうに抱きしめながら、まだ何か言いたいらしく緑色の瞳がライトニングの瞳をじっと見つめる。
「……どうした」
「あの」
白い頬が真っ赤に染まって、それでもなお緑の瞳はライトニングから離れない。
「な、なんだ……?」
「その……く、口移し……で……食べさせてください」
「……は?」
ライトニングは目の前の少年を凝視した。表情は真剣そのものである。ふざけている目の色ではない。
だが、彼は今、何と言ったか。
口移しで食べさせろと言わなかったか。
トンデモ発言をしたホープの唇が動く。一度言い切ったからか、全く迷いがない。
「ライトさんに口移しで食べさせて欲しいんです」
いいでしょう?と見つめられて、彼女は無意識に一歩後ずさった。
「お前、何を……」
「僕、ライトさんのこと、好きです。もう今すぐ結婚したいぐらい好きです。それはライトさんも知ってますよね?」
「あ、ああ……」
それは知っていた。むしろ、毎日言われている言葉である。ライトニングとホープの関係は所謂恋人というやつで、ホープが好きだというのと同じようにライトニングもホープが好きだ。日に日に本気で惹かれていく度合いが強くなっていくから、その分だけ彼女もホープに好きだと囁きかけている。
だが、初めて想いが通じた日に約束したのはずだ。
「今のお前とキス以上はしないと約束したはずだが?」
そう。手を繋いだり抱きしめたり、その程度のことはあの時点ですでに許していた。けれどもそれ以上はホープの年齢故にライトニングには進むことが躊躇われたのだ。犯罪になるとかそう言うことではなく、単純にホープが将来後悔しないための措置だった。が、そんな彼女の気も知らず、彼はこんなことをのたまった。
「口移しはキスに入るんですか?」
「入らないのか……?」
そんなバナナはおやつに入りますか、みたいな質問をするんじゃないとか、あんなものはディープキスの延長上だろうとか、そんな言葉が脳内を占めるが、言葉として出てきたのはたったそれだけだった。が、ホープはライトニングの胸にぱふんと顔を埋めると、絞り出すようにこう言った。
「朝……ヴァニラさんがファングさんに口移しで何か食べさせてたんです。だから大丈夫だと思います」
「……そうか」
本当に教育に悪いカップルだと自分以外の女性陣を恨めしく思いつつ、ライトニングは空を仰いだ。グラン=パルスの空は青い。たとえその辺でベヒーモスが走り回っていようとも。それを見ていたら、なんだかなし崩し的に口移しぐらいいいかと思えてきた。
「……ホープ」
「はい」
「その辺にプリンやらベヒーモスやらいる中でもいいのか?」
途端にホープが胸から顔を上げる。キラキラした瞳だ。
「もちろんです!」
ホープの手の中でチョコレートの包み紙がはがれてゆく。はい、と口の中にチョコレートが押し込まれる。
今日ぐらいはいいか、と流されたライトニングはホープにゆっくり顔を近づけた。
おわり
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