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ここは「花待館」の別館となっています。非公式で「うみねこのなく頃に」「テイルズオブエクシリア」「ファイナルファンタジー(13・零式)」「刀剣乱舞」の二次創作SSを掲載しています。
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夏コミで発行予定の『歌仙が女給に着替えたら』のWEB版になります。
審神者の陰謀によって女装をする羽目になった歌仙兼定と、和泉守兼定、伊達組(貞ちゃん除く)、小夜左文字のコミュニケーションを巡る話。
*刀剣男士同士の仲が良すぎる描写がありますが、特にカップリング等はございません。
*所謂『うちの本丸』描写、刀剣男士の設定・嗜好についての捏造、審神者に関する言及がございます。
*歌仙さんが女装します。


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とある夏の暑い日のことである。この本丸の主……審神者と呼ばれる何かの気分ひとつで庭の景趣が変えられるとはいえ、青葉繁る庭の気温は本丸の外の季節に従っている。そこまでは変えられないだの云々かんぬんと書いてある説明書はさておいて、刀剣男士たちが刀として持ち主に振るわれ、活躍していた時代からすれば異常気象とも言えるほどの暑さにこの本丸の男士のほとんどが萎れていたことは認めよう。ついでに室温調整機器が設置されていたのに、節約のためにあまり使わないと自主的に決めたのも認めよう。後者についてはあまりの暑さに全員が三日と持たず、結局は手のひらを反して室温調節器……冷房器具に頼ることを早々に決めたことを記しておく。文明の進歩とはかくも尊いものだった。
とにかく、そんな暑い日のことである。
歌仙兼定が朝目覚めると、内番着と戦衣装が彼の悪辣極まる審神者によって神隠しにあっていた。
「主! 今日という今日は仕置きが必要なようだな……!」
枕元に置かれた可愛らしい柄の小袖に袴。明治、大正と呼ばれた時代の女学生が着るような着物に加えて、真っ白なフリルつきのカチューシャとエプロンを睨み付けながら、歌仙兼定は憤懣やるかたなしに低く唸った。





「あの、歌仙くん?」
何処かに雲隠れした審神者を手打ちにできなかった怒りをぶつけるように朝食のサラダにするニンジンを短冊切りにしていると、フードプロセッサーでトウモロコシを砕いていた燭台切光忠がどうしたの、と戸惑うように問うてくる。結局は用意された着物を着るほかなかった歌仙が一言主がね、と言えば、大体を了解したように燭台切はああと頷いた。
決して着物の柄が気に食わないわけではない。淡い桃色の地に小振りでありながらも華やかな椿があしらわれており、紫の袴も薄紅色の花弁が染め抜かれている。髪の色から着られると判断したのだろうが、それにしたってこの仕打ちは手打ちものだ。
大体フリルがふりふり付いているエプロンとカチューシャがくっついていること自体おかしい。歌仙は刀剣男士であってどこぞのいい家柄の子女ではない。というかいい家柄ではあるが人間でも女性でもない。まったく困ったものである。
「一体主は何を考えているんだ……少しは常識というものを……すまない、少し落ち着かせてくれ」
「初期刀のお役目も大変だね」
「そろそろ実家に帰っていいかな……」
よしよしと背中を撫でる同僚に、歌仙はしんみりと訴えた。里帰り制度は刀剣男士に適用されないというのは、そんな制度があったら有事に対応できないからだろう。……食事を摂り、自分自身を持って出陣し、風呂に入り、掃除をし、眠る。そんな平和なことをしていれば、今が歴史修正主義者との戦の真っ最中だということも忘れてしまいそうだ。……それを忘れないために大阪城の調査や戦力拡充計画があるのだろうが。
それにしても、とかつての主のように右目を眼帯で覆った同僚は呟く。
「何で女物の着物なんだろうね?」
「気まぐれじゃないか? ……とにかく、朝餉の支度が終わったら、今日は部屋から出ないからね。炊事の時間になったら厨に行くから。食事はそのままここで食べる」
今日が非番で本当に助かった、と歌仙がため息をつくと、燭台切は苦笑いする。この本丸での非番とはすなわち、審神者が何の指令も出さない日……つまるところ本日のように本丸を留守にしている日、ということになる。年がら年中審神者が本丸に詰めている本丸ではまた違うらしいが、この本丸に置いてもそれでは調査が進まない。ゆえに審神者がいない日は各自食事も内番も好きにしていい、と初期の本丸中で協議した結果、そう決定している。
「オーケー。時間になったら部屋に行こうか?」
「いやいい。僕がそっちに出向くよ」
「そう? ……女物を着るのが恥ずかしいんじゃないんだ?」
「なんだかんだでいい着物ではあるからね。これで出陣するのは嫌だし内番もいつもの着物の方がいいのだけど、部屋着として着るんならまだましだよ。……それに、着ない方が着物に対して失礼だ」
思い切りいいねぇと燭台切は快活に笑う。遥か昔の戦国の世にいた時分、前の主・細川忠興にくっついて伊達屋敷に赴いてからの仲だが、どうでもいいことをどうでもよく話すにはいい相手だと思う。
「ありがとう。君が話を聞いてくれてよかった。……話しづらいこともいろいろと話せるよ」
「それは嬉しいな」
「お小夜に話せることの三分の一ぐらいだけど」
しれっと澄ました顔で言ってやれば、彼はもう、とあきれたように笑う。
「相変わらず小夜ちゃん、かい? ……あれから随分経つのに人見知り、治らないねぇ」
「なんだい、人聞きの悪い。親しく付き合う相手を厳選していると言ってくれ」
「君のそれは厳選しているとは言わないんだよ」
そうなのかい、と聞くと、それはそうさとかえってくる。細川の屋敷ではそんなことを言われなかったぞ、と表情には出さないまでも全力でむくれていると、それは君が解決することだからさ、とまた笑う。
「……いや、君にしか解決できないことだから、って言ったほうが正しいかな。まぁ、独りであんまり悩まないようにね? 胃に穴が空いちゃうから」
「……そうだね。胃に穴が空くまで深刻に悩んだこともないからなんとも言えないけど」
それは半分ほどなら正しい。深刻な悩みで付喪神の胃に穴など物理的に空かないからだ。
刀剣男士として政府に招かれ、審神者なるものの一人が構えるこの本丸に落ち着いてからも悩みが尽きないものの、実は京都や大阪城、戦力拡充計画に赴いた際に出現した敵の高速槍以外に歌仙の胃に風穴を開けたものなどいはしないのである。
「そうかい? ま、総隊長殿の悩みといったらあれだろう? 延享年間の新橋」
「二番目ぐらいはね」
延享年間・新橋。先日開かれたばかりの戦場である。方々の本丸……否、恐らく全ての本丸に調査通達が出されており、その先の白金台では今隣で呑気にコーンポタージュを拵えている燭台切光忠の知己、太鼓鐘貞宗が確認されているのだという。通達によれば歌仙兼定という刀を大事に伝えてくれた細川忠興の末裔にも絡む場所だという噂である。
「早く行きたいねぇ」
「そのためにはレベルとやらを早く上げないといけないんだけどね……」
ただしその戦場に行くにはどうも刀剣男士としての熟練度……レベルというものが足りないらしい。京都までを駆け抜けてきたいつもの面子ではなく、延享年間専用に隊を編成したいというのが審神者の意向だ。他の本丸では京都の時点で短刀たちのみの編成をしていると聞くから、隊の再編成自体は全く珍しいことではない。問題は編成対象の刀剣男士のレベルが上がっていないということだった。隣のコンロでコーンポタージュに牛乳を入れている燭台切もその一振りだ。
「まぁ、敵も強いみたいだし、無様に負けるよりはいいんじゃないかな。……歌仙くん、味見てくれる?」
差し出された小皿からカスタードクリームの色をしたスープを啜って喉に通す。甘いトウモロコシの香りが牛乳でまろやかに溶かされている。
「うん、いいんじゃないかい?」
「よかった。……じゃあ、一応大広間に持って行くね。伽羅ちゃんと鶴さんがオーブントースターとパンを持って行ってくれたから、後はサラダと果物かな」
「そうだね。サラダは後卵を乗せるだけだからすぐ出来るよ」
厨の番人たる二人の手際はとてもいい。行ってらっしゃい、と燭台切を見送って、すぐに歌仙も水菜やレタス、トマトにきゅうり、それとニンジンを乗せたサラダボウルの上にゆで卵を切って乗せる。最後にクルトンを振りかけて完成した皿を持って厨を出る。
食事処の大広間では、つまみ食いをしようとする不届き者を鶴丸国永と大倶利伽羅が見張っていた。燭台切と入れ違いに部屋に入って、サラダボウルを机に乗せる。
「おお、今日も豪勢だな」
最近クルトンがお気に入りらしい鶴丸が目を輝かせる。喜んでくれるなら料理人冥利に尽きる。
「ドレッシングは和風か?」
「冷蔵庫にあるやつだね。全部持ってくるよ」
万屋で買ったドレッシングが大量にあるので、それを使うことにする。
「大倶利伽羅は?」
「……フレンチ」
フレンチドレッシングが好きらしい大倶利伽羅は、今日も今日とて慣れ合いたくはないらしい。確か和風ドレッシング好きが大勢を閉めるこの本丸内で、まだ在庫があったはずだ。
「……冷蔵庫にあるはずだから自分の部屋から持ってこなくてもいいからね」
「……ああ」
……とはいえ、歌仙が同じ部隊の彼と話すのは出陣のときだけなのだが。社交的でない大倶利伽羅とどうでもいいことをどうでもいいように……燭台切とするように喋るには、なかなか難しい。苦手というつもりはないのだけれど。
「……うん」
会話が続かないためにしゅんと目を伏せて立ち上がると、鶴丸がお、と声を上げた。
「どうした歌仙。その着物、今日は審神者に何かされたのかい?」
「どうしたもこうしたも、着物を全て持っていかれてしまって。今朝目が覚めたらこれしか残っていなかったんだ」
「ははぁ、なるほどな。……ま、夜には戻ってくるんじゃないか?」
「主が戻れば、だけれど」
そうだよなぁと鶴丸は指先でパン籠の縁をなぞって、なぜか面白そうに笑う。
「まぁ、これを機に息抜きでもしたらどうだ? ……ほら、この間テレビで見た……喫茶店、とかいう店の真似事とか」
光坊なら乗ってくれると思うぜ? などと楽しそうにのたまう平安刀は心底本気で言っているらしい。そうはいっても、と歌仙は溜め息を吐く。
「息抜きといってもねぇ……僕は結構息抜きできているほうだと思うのだけれど? 歌も好きに詠ませてもらっているし、茶室はないが茶も点てている。何より僕らにとっては戦場に出ることが一番の息抜きだと思うけれどね」
刀相手に戦場以外の息抜きを勧めるなんて、と思ったが、鶴丸の本意はそうではないらしい。ちっちと悪戯っぽく指を振られる。
「そういう意味じゃないぜ?」
「ではどういう意味だい?」
「もうちょい他の刀と喋ってみちゃあどうだ、ってことさ。見たところ、同じ兼定の坊やともあまり喋ってないだろう? ……同じ刀派で同じ部隊なんだし、引き籠らずにもっと交流を温めたほうがいい。お前さんの今の格好は話のタネにはちょうどいいだろう?」
兼定の坊や。平安時代の生まれである鶴丸にとっては室町時代の生まれである歌仙も坊やのようなものだ。だが、いま彼が言っているのはおそらく和泉守兼定のことだろう。幕末の激動の時代を駆け抜けた新撰組・鬼の副長と謳われた土方歳三の愛刀。
「……仕方ないだろう。僕は戦国の生まれだし、彼は幕末だ。話も合わないだろうし……同じ新選組の大和守安定が同じ部隊にいるのだから、彼にも十分話し相手はいるだろう」
決して自分が臆病なわけではない。話が合わなくて失望されることを恐れているわけではない。勿論歌仙とて二十二世紀の現在まで存在している刀だ。江戸時代末期の開国から江戸城開城、五稜郭の戦いのことは人の耳から聞いている。だが、自分がその場所にいた訳ではない。同じ時代に存在していても、同じ空気を感じていたわけではない。
自分の知らない戦の中を駆け抜けた幕末の刀と、どうして話が合うだろうか。そう思えば出陣のときも自然と口を閉ざしてしまい、同部隊の大倶利伽羅や山姥切国広に何か言いたげな視線をちらちらと向けられる有様だった。
「いやぁ、伽羅坊の話を聞いてると……奴さんも話したいんじゃないかと思ってな? 決して俺の早合点じゃあないからな」
「……あいつ、ちらちら見てるぞ。出陣の度にな」
それまで黙っていた大倶利伽羅がぼそりと口を開く。どういう風に、というのは言わなかったが、さすがに部隊長が何も話さないのはまずいということなのだろうか。
「……戦場では、その状況さえ分かっていればいいだろう」
そうじゃないのか、と大倶利伽羅を見つめる。他の本丸によれば、新橋で歌仙兼定と大倶利伽羅が諍いを起こした、という情報も聞いている。確かにこの刀とは碌々会話もしたことがないし、たとえしても話が続かない。それなのに、どうして。
どうしてそんなことを言うのか。
「僕は戦場で余計なことは言いたくない」
「……そうか」
くるりと彼らに背を向けて、もう行くよ、と告げる。答えなど聞くまでもない。
「果物でも持ってくるよ。……燭台切が今頃、桃とマンゴーを切っているはずだからね」
多分、と言い置いて、広間を出た。後ろから呼び止める声は聞こえない。特段寂しいとは感じない。それでも、どこか心の奥が締め付けられるような気がした。

つづく
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