ここは「花待館」の別館となっています。非公式で「うみねこのなく頃に」「テイルズオブエクシリア」「ファイナルファンタジー(13・零式)」「刀剣乱舞」の二次創作SSを掲載しています。
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「トリック・オア・トリート!」
ライトニングが自宅の玄関のドアを開けると、低くなりかけた青年の声でそんなことを言われた。現時刻は夜の10時。青少年はとっくに家に帰っているべき時間である。しかしこの声は幻聴などではない。目の前には何やら狼男の格好をした銀髪の青年。彼女はやれやれと頭をゆるく振って、口を開いた。
「……ホープ、なんでいる」
「だめですか」
「だめだ」
お前は帰る時間だ、と青年……ホープの横を素通りして寝室へ向かう。さっさと着替えて寝てしまいたいのだが、ホープとしてはそれでは嫌らしい。とたとたと足音を立ててライトニングのすぐ後ろをついてくる。
「会いたかったんです」
「休みの日に来い」
「今日じゃなきゃダメだったんです!」
真剣にそう言われて、彼女は足を止めた。なりは大きくなったのに行動も言動もあまり変わらないホープが時折大型犬に見えることがある。そしてライトニングはそんな人間のなりをした大型犬に滅法弱かった。
「親父さんには許可を取ってあるのか」
「もちろんです!」
「…………着替えてくるから、そこで待ってろ」
はい、と素直に返事をしたホープを置いて、彼女は寝室に入る。ジャケットとインナーを脱いでニットのワンピースを身に着けながら、先ほどの言葉を思い返す。
「トリック・オア・トリート、か……今日はハロウィンだったか」
何のかんの言ってまだまだ子供だな、と唇の端から笑みがこぼれる。カバンの中に手を突っ込んで、指先に触れたものを一掴み取り出す。
「明日、と思っていたんだが」
まあいいか、とドアを開ける。その先で待っていたホープがパッと目を輝かせた。
「待たせたな」
「いっ、いえ、そんなことないです!」
「夕飯は?もう食べたのか?」
「まだです」
でも用意はしました、と彼女の肩に触れるギリギリの距離で彼は言う。別に取って食いやしないから遠慮することないのに、と思いながら彼女は銀髪をかき回してやった。
「じゃあ食べるか」
はい、と頷くホープが犬っころみたいで可愛くて、ついついからかってやりたくなる。
「その前に……お前、さっき言ってただろ」
「ふぇっ!?」
唇が触れてしまいそうなほどの距離で、耳元にささやく。
「お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ、って」
「い、いいいいいい言いました!言いましたけどっ」
とたんにぼっと顔を赤くして慌てるのが可愛らしい、とライトニングは思う。だからその手を取って、チョコレートを握らせてやった。
「やる。悪戯されるのはごめんだからな」
とたんに恥ずかしくなって、そんな可愛げのないことを言ってそそくさと離れる。しばらく呆然としていたホープは正気を取り戻すと、ちょっと残念そうな表情を浮かべてからチョコレートに気が付いて、嬉しそうに笑った。
「くれるんですよね?」
「明日お前と食べようと思っていたんだが」
「ありがとうございます!」
ギュッと抱き着いてきた、子供の柔らかさが消えかけた身体を抱き返しながら、ライトニングは目を閉じる。
もう自分の腕に馴染んだ小ささではない。それが嬉しくもあり、切なくもあった。
「…………そんな未来もあったんだよな…………」
肌寒い秋の夜、エクレールはゆっくりと夜空を見上げる。今日はハロウィン。仕事帰りの電車の中で見た夢と同じ。あれはもしかしたら、ライトニングがヴァルハラに飛ばされなければありえたかもしれない未来なのだろう。そんなことを考えて、ちょっと寂しくなりながら自宅の玄関のドアを開ける。
「トリック・オア・トリート!」
「…………」
目の前に、オオカミの耳をつけた半裸の男が満面の笑みで立っていた。
「ライトさん!悪戯ください!」
「…………は?」
「だから!悪戯!ライトさんの悪戯!」
「私は眠い。ほかを当たれ」
そのまま半裸男の横を素通りして寝室に入ろうとすると、スラックスの裾をギュッとつかまれた。さすがにぎょっとして振り返れば、半裸男、もといホープ・エストハイムが廊下に寝っ転がっていた。
「ホープ……?」
「なんでライトさんが悪戯してくれないんですかぁぁぁぁ」
「あの……」
「やらぁぁぁらいとさんにいたじゅらしてほしいぃぃぃぃ」
寝っ転がったまま駄々っ子のようにバタバタと暴れまわる今年27歳になる男の姿を目にするのは、なんだか頭が痛くなる。これでそこそこ名の知れた研究者だといわれても、誰もわからないことだろう。
「ホープ」
「なんで悪戯してくれないんです」
「しないとダメか」
「ダメです」
涙目で言い切るホープに、ダメなのはお前の頭だといいたくなる衝動をぐっと堪え、エクレールは彼の手を掴んで起こしてやる。
「トリック・オア・トリートじゃなかったのか」
「じゃあライトさんオアライトさんで」
「お前は何を言っているんだ」
「だってライトさんが好きなんです」
知ってる、とため息をついて、彼女はふいと彼の耳元に唇を寄せた。
「菓子をやるから悪戯するな」
「ライトさんが悪戯してくれるんじゃないんですか」
「しない」
ちょっと待ってろ、と言い捨ててカバンの中に手を突っ込む。……ない。
職場で昼休みに買った菓子がない。
「…………まさか、忘れた…………?」
冷や汗をかくエクレールの背筋に、何やら不穏な空気がのしかかる。
「ないんですか?」
「あ、あの、ホープ」
怖くて後ろがふり向けない。
「ないんですね?」
ホープはなおも不穏な空気をまとってエクレールに近づいてくる。大した距離ではないからすぐに背中に重みを感じた。その空気と重みに気圧されるように頷けば、ひときわ嬉しそうな声が耳に飛び込んでくる。
「じゃあ、悪戯しちゃいましょうね」
「は!?」
「ほら、食べちゃいますにゃん、なんて」
そのまま反論の言葉はぱくりとホープに食べられた。
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